シグルド/集落間抗争について
――冒険者ギルド。
冒険者にクエストを斡旋し、応じた報酬を与える施設。
ギルドある場所に人は集まり、その有無が町や村の発展に直結する。
……事の発端は、そのギルド新設計画だった。
「この大陸には、『パロム』と『シーラム』の2つの大きな集落があってね」
そう語り出したのは始まりの町のギルドから遠路遥々ここに派遣されているシルフィーだ。
「ギルドを新設する際に、どっちの集落に作るかっていうのが結構大きなな問題になって」
それにロウリィが続く。
「ギルドの有無は様々な発展に直結しますからね。揉めるのは当然でしょう」
「そうなの。ここパロムの長老とシーラムの長老が何度も話し合ったりしたんだけど互いに譲ろうとしなくて」
「その問題とこの集落から女性が消えたことにどんな繋がりがあるんだ?」
俺の質問にシルフィーが答える。
「この大陸では、『集落に住む女性の数』が繁栄の象徴なんです。多ければ多いほど、その集落は栄えていることを示し、同時に権力を持つんです」
「ほう、なるほどな」
俺がいたオーレリアでも似たような理屈は確かにあった。
「結果、族長間の話し合いも『女性の数が多い集落が決定権を持つ』という所に落ち着いたんです。そして、問題はここから始まります」
シルフィーは息継ぎを挟んで言葉を続ける。
「パロムとシーラムの話し合いを終えた段階で女性の数は『全くの同数』でした。ですが今はそのほとんどがシーラムにいます」
「シーラムが女性を攫ったのか? だとしたら確かに穏やかではないが」
「いいえ、違います。この大陸の方々は争いを嫌います。つまりは、人攫いの類いではありません」
「ではなぜ?」
「彼女たちは、自ら望んでシーラムに移住したのです。ある日を境に、一斉に」
この場にいる全員が目を丸くした。
「全員が一斉に移住だぁ? 何があったんだよ?」
「女性にある判断基準のもと、どっちに住むかの選択権を与えたんだって」
「ある判断基準? それってなに?」
シルフィーが答える。
「それはね、どっちの集落の男性が格好良くて逞しいか、だよ」
「「……」」
沈黙を破ったのはエスト。
「冗談じゃろ?」
「残念、本当且つ本気でした。子孫繁栄に直結するから理屈は分からなくないんですけどねぇ」
「その結果が、この有様か」
俺は周囲に目を向ける。
パッと見ただけで女性が3人しかいない。
あとは全員が男だ。
「ねぇシルフィー?」
「なぁに、ロゼちゃん?」
「シーラムの男の人ってそんなに恰好良くて逞しいの? ほとんど全員があっち行っちゃうって相当だよ?」
「んー、私も実際に見たわけじゃないんだけど、ここ最近シーラムにとんでもなく強くて逞しい男が滞在し始めたんだって。パロムの女性たちはその人の魅力にイチコロだったみたいですね」
エストが首を傾げる。
「胡散臭い話じゃのぉ。女子を垂らし込むなど、【魅惑】のスキルがあれば出来ることじゃ」
それにロウリィが問う。
「エストさんはスキルによるものだと考えているのですか?」
「断言は出来んが、有り得ん話でもないじゃろ。色香で惑わすのは、なにも女子の特権ではないからの」
「だけどよシル、それに対してあたしらに何が出来るよ? 獣人の女どもを取り返すって一体どうやってだ?」
シルフィーが妙案見つけたりと、リーヤに迫る。
「もっと魅力的な人を用意すれば良いんだよ。目には目を! 男には男を、だよ!」
「はぁ!? パロムの男どもの魅力がそいつに負けてっからこんなことになってんだろうが。てか、てめぇらもてめぇらだぞ? 女取られて悔しくねぇのか?」
パロムの獣人たちは意気消沈した様子でうな垂れている。
そして小さく一言「俺たちではあの男には敵いません」と言った。
「かぁー情けねぇなおい。シル、ギブアップだ。諦めてる奴に奇跡はおきねぇ」
「ちっ、ちっ。お姉ちゃん、男ならもう1人、ここにいるでしょ?」
一斉に俺に視線が振りかかる。
「……いや待て、これはどういう展開だ?」
後ずさりする俺にリーヤとエストが迫る。
「はっはーん、なるほど。確かにシグルドならここのやつらよりはマシかもなぁ」
「リ、リーヤ、なんだその不適な笑みは?」
「まぁおぬしならやれんことも無いじゃろ。女子の扱い方ならわしが伝授しよう」
「扱い方ってなんだ!?」
「乳の揉み方とかの」
「揉まん!!」
俺はローゼリアとロウリィに助けを求める。
「お前たちなら俺の味方をしてくれるよな!? 長く一緒に旅をしているだろ?」
「止めても良いんだけど、そしたらパロムの人たちが可哀想じゃない? 困っている人を見捨てるのはシグルドっぽくないと思うけど」
くっ……痛い所を突いてくる……!!
「ロウリィはどうだ!? あ、そうだ! ロウリィから見て俺よりもあの獣人たちの方が魅力的だとは思わないか? 体つきは逞しいし獣の耳だって付いてる! お前が説得してくれれば」
「シ、シシ……シグルドさんに勝る魅力はありませんっ!!」
「なんだってぇ!?」
俺が獣人たちに目を向けると、その目を輝かせて俺に言う。
「あなたならあの男に拮抗できるかもしれない! 乗り込みましょう、シーラムに! その魅力でパロムの女性たちを取り返して下さい!」
「んなっ!? ふざけ……勝手に決めるな! 後悔するぞ! 俺は女性の扱いなど知らん!! おい! 聞いているのか!? 何故にやけているエスト!? おいお前ら! 笑うなぁああ!!」
満場一致で俺がパロム代表となってしまった。




