シグルド/断絶された常夏
本作からシグルド編4章後半が始まります。
エストをパーティに加えた後から物語は始まります。
100話ぶりに彼女が登場します。
極寒の大陸キリアス。
その異名の通り、大陸の全てが氷に覆われ、昼夜問わず気温は氷点下を下回る大陸。
「衝撃発表をするね」
先頭を歩くローゼリアが虚空に手をかざして言う。
まるで透明な壁にでも手を触れているかのようだ。
「この大陸には断絶された『裏の大陸』があるの」
「裏の大陸? どういうことだ?」
「百聞は一見に如かずじゃよ。ローゼリア、開いてくれんか」
俺の襟首から顔を出した小竜形態のエストが言う。
「うん! てなわけで、行ってみよー!」
ローゼリアが手に魔力を込めた瞬間、周囲の景色が反転する。
――熱帯の原生林。
眼前にはそれがある。
厚着をしなければ凍えて動けない程の寒さは、ジトっとした熱気に切り替わる。
高温多湿なこの環境でこのままの格好でいられるはずもなく。
「噂には聞いてたが、こんなに違ぇとはな。てか暑ぃよ!!」
リーヤが慌てて防寒服を脱ぐ。
ロウリィもそれに続くように防寒服を脱ぎ始め、口を開く。
「これもキリアスの特徴なんですよ。元々は別々だった大陸を無理やりくっつけた結果、こうなったらしいです。次元の壁を挟んで表裏一体、といったところでしょうか」
「誰がそんなことを?」
「大召喚士レミューリア様だよ。理由までは分からないけど」
「おおかた、面白半分かもしれんぞ? 噂では大召喚士様はさぞかしお転婆だったらしいからのぉ」
「えぇーエスト、その噂信じてるの? 絶対それ後付設定だって。ほんとはもっとお淑やかな女神みたいな人だったに違いないよ」
「はいはい、正解のない問答は時間の無駄だ。とりあえず近くの町に行こうぜ。ロウリィ、方角はどっちだ?」
リーヤの合図でロウリィが地図を取り出す。
「ちょうど真北に小さな集落があります」
「おっし、そっちに向かおうか」
俺たちは熱帯雨林を突き進む。
ちなみに、道らしい道は無い。
「この大陸の木々はな、異常なまでの成長スピードを持っておるのじゃよ」
「だからこうして……そらっ! 道を作りながら進まなきゃなんねぇわけか」
この手の道は森林育ちのリーヤのお手の物らしく、先陣切ってナイフで道を斬り開いてくれている。
そして、エストが言う通り、切った傍から枝はみるみる成長を始めている。驚異の生命力だ。
「ふぅ……ロウリィ、あとどれくらいだ?」
草木を斬りながら進むリーヤの問いにロウリィは地図を見ながら首を傾げる。
「え? なに、この反応?」
同時に俺の知覚にも何かが引っかかる。
「そのあたりに何か隠れています! この反応、獣人です!」
ガサガサと頭上から音が聞こえ始める。
「はぁ……もしかしてまた取り囲まれたって展開か? 覚えてる限り、これで4度目だぞ」
呆れるリーヤに対し、ローゼリアが続く。
「でも、敵意みたいなのは感じないよ?」
「ふむ、追いでなすったようじゃな」
樹木から一斉に飛び降りて来たのは獣の耳が生えた人間たちだった。
人数は20人ほど、いずれも男だ。
「旅のお方! どうか、我々パロムの民を助けて下さい!」
「……これは初めての流れだな」
枝を切っていたナイフを収めるリーヤ。
「シグルド、どうする? って、聞くまでもないか」
「あぁ、放っては置けないな。要件を聞こうか」
その獣人の男たちに案内されて訪れた集落、パロムで俺たちを待っていたのは……。
「あっれ!? お姉ちゃん!? それにロゼちゃんも!」
左手に弓を模したブレスレットを付けている銀髪のエルフ。
始まりの町エインヘルの受付嬢にして、リーヤの妹の……。
「久しぶりだねぇ! 元気だった?」
「シル!?」
「シルフィー!?」
あのシルフィー・ハートネットだった。
【シグルド編】第4章後編……開幕




