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楯無明人/祝賀会と新たな出発

 ゴーレム討伐の後、ヘルメスの屋敷では祝賀会が開かれていた。



「うっまいっすぅうう!!」



 漫画みてぇな肉にかぶりついてナルが感動の声を上げている。



「ナルさん、女性なのですからもう少しだけ品を」


「イリりんも食べてみるっす。そしたら私の気持ちが分かるっすよ」


「え、聖女たるわたくしがお肉で取り乱すともっ!? お、美味しいですぅうううう!」



 何やってんだあの2人……。



「君たちには感謝しなければならない」



 カストルさんが俺たちに頭を下げた。


 それにウィルが返す。



「叔父さん、お気になさらず。きっと母でも同じことをしたでしょうし」


「エストか。確かに、あいつなら真っ先に飛んで行っただろうな」



 カストルさんは頭を上げた。



「今でも思い出す。あいつが預言者を討伐したあの時のことを。あいつはいつも、俺たち竜人の為に身を挺して動いていた。あのバカ姉は今どこで何をしているのやら……」


「僕が必ず探し出しますから。安心して下さい」


「逞しくなったな、ウィルベル」



 カストルさんは俺の隣にいたカヤに視線を向ける。



「イスルギ領に行くのだろう?」


「えぇ、その予定よ」


「イスルギ・リサ殿に……そなたの母上に、宜しく言っておいてくれないか?」


「……今のあの人に、何かを言う意味があるとも思えないけれど、伝えておくわ」



 カヤは俺たちに背を向ける。



「それじゃあ明日の朝8時に出発するわ。おやすみさない」


「お、おう。おやすみ」



 カヤは与えられた自室に戻って行った。


 その姿を見て、肉に心奪われていた2人が合流する。



「久々の里帰りだと仰っておりましたし、複雑な心境なのでしょう」


「イリスさん、タレが付いてます」



 バッと口元を拭って赤面するイリスさんを横目に、ナルがカストルさんに質問した。



「その左目、例の戦争でです?」


「ん? あぁ、18年前のあの魔剣戦役でな」



 カストルさんは左目の眼帯をさする。



「あの激戦の中、この左目だけで済んだのは逆に奇跡だ。人類軍が勝てたのもあの男、シグルドのおかげだな」


「英雄王シグルド……その人はそんなに凄かったんですか?」



 俺の問いにカストルさんは右目を丸くして驚く。



「アキト、と言ったな? 君はもしや異世界から来たのか?」


「えぇまぁ」


「通りでシグルドと同じ匂いがするわけか」


「え? 同じ匂い?」


「シグルド・オーレリア、彼もまた異世界から来たと言われている。比肩する者などいない無類の強さを誇り、魔剣戦役では人類軍を率いた男。そして今彼は……」


「この世界、グリヴァースを束ねる王となっています」



 口を拭い終えたイリスさんが会話に加わる。



「英雄王シグルド、わたくしも幼い頃、彼に命を救われました。無敵という言葉が相応しく、他人を思いやる気持ちも併せ持つ強き人だったと記憶しています」


「イリスさん。この世界の束ねる王ってことは、もしかして?」


「はい。彼は今、王都リヒテルにいます。いずれ、会うことになるでしょう」



 英雄王シグルドが……リヒテルに?


 なんだ、この胸騒ぎは。


 相手が、この剣と関係ありそうな人間だからか?


 会ってみてぇが……なんか複雑だな。



「カストルさん、その左目ですが」



 イリスさんがカストルさんの眼帯を指す。



「わたくしの治癒術式ならば治せますよ?」


「いや、いい」



 その願ってもない申し出を断るカストルさん。



「自戒の為に残している。あの戦いを忘れないために、な」


「……そうですか」



 ――魔剣戦役。


 人類と魔物の全面戦争。


 準魔剣と呼ばれる武器を巡った一連の戦いの総称。


 今となっては多くの人の記憶から薄れつつあるその戦いだが、六賢者然り、カストルさん然り、最前線にいたと思われる人々にとってはまさに黒歴史なのだろう。


『六賢者に魔剣戦役のことを語っちゃいけない』って暗黙の了解が出来るほどには。



「もう夜も遅い、君たちも部屋に戻ると良い」


「はい、そうします」



 ――そして翌日、俺たちはイスルギ領へと出発することになる。


 六賢者イスルギ・リサ……カヤの母親との邂逅の日は近い。



【アキト編】第4章前編……終

アキト編4章前編が終了です。


次回からシグルド編4章後編が始まります。


常夏の大陸を舞台にエストを加えたシグルドパーティが冒険します。


更新日は明日を予定しています。


宜しくお願い致します!

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