楯無明人/【慧眼】
脳内でスキル習得の合図が鳴り響いた。
トリガーがなんだったのかはよく分からない。
俺の知らない間にレベルが上がっていて、それで習得したのかもしれない。
「……なんだ、これ……」
ゴーレムの体の一部が輝いている。
場所は左肩の付け根。
目を凝らすと『丸いクリスタル』が視えた。
――オリジナルスキル【慧眼】。それがそのスキルの名だ。
(けい……がん? オリジナルスキルって?)
――慧眼、それは真実を見通す眼。その眼で真実を見通し続けろ、アキト。その先に俺はいる。
(あ、おい! 消えんな! オリジナルスキルの説明がまだ!)
――この世界の理とは存在を異にする特別な能力。ユニークスキルの上位とも取れる力。それが、オリジナルスキル。今はそれだけを覚えておけ。では、またな。
ふっと意識が現実に戻ってくる。
「ウィル……左肩に何か視えるんだが」
「え、アキトは視えるの!? それに短剣が!」
右手に握っていた短剣から光が伸びている。
「英雄王の光剣……おっせぇよ」
俺は光剣をヴゥン、とその場で振るう。
この感覚、やっぱしっくり来るな。
力借りるぜ。
「おし! ウィル、やろうぜ!」
「了解! でも左肩なんてどうやって?」
「そこまで考えてなかった!!」
「えぇ!?」
続いて背後からカヤの声。
「左肩、それに間違いは無いのね?」
「分かんねぇ! でも『何か』はある!」
「その様子、嘘だとも思えないわね」
「こんな土壇場で嘘言わねぇよ! とにかく策を……」
「風の魔法石SSレート!」
中衛のナルが魔法石の力を解放する。
レートはSS。今までの中でも最高レートだ。
「『風神の鎌!』」
ナルが身の丈以上の鋭利な鎌を手に握る。
『大鎌』や『サイス』と呼ばれる形状だ。
「私のとっておきっす。アキトさん、左肩っすね?」
「あぁ! 頼む!!」
「せぇええい!!」
ナルが大鎌を振るう。
てっきり鎌から真空波的なもんが出るかと思ったが……。
「飛ぉんんでけえぇえ!!」
ナルは鎌そのものをぶん投げた。
「なんだその雑な攻撃!?」
「まさか武器そのものを投げるなんてね、想像の外だったよ」
その鎌はひゅんひゅんと回転しながら俺たちの頭上を越えていき、ゴーレムの左肩に着弾。
余りの鋭さに、まるでゴーレムの体を素通りするように貫通し、左肩が本体から切り離された。
「すっげぇ切れ味だなあれ」
「左手が落ちてくるよ、どうする?」
「そこは、後衛組がどうにかしてくれんだろ」
俺たちは期待を込めて後ろを振り向く。
「あぁ!! カヤさん! ウサギが逃げ出しました!!」
「なんですって!? どこ!?」
「そっちです! カヤさんの右足!」
「くっ……素早い!!」
あの2人何やってんだ!!
「……援護は期待出来そうもないね」
「くっそぉ……! 俺たちでどうにかするぞ!」
頭上を落下してくるゴーレムの左手に光剣を向ける。
「コアの場所を視認できるのはアキトだけだ。とどめは任せるよ」
「その間、お前は何してるよ?」
「逃げたウサギを追いかけてくる!」
「馬鹿しかいねぇのかこのパーティ!!」
脱兎のごとくスピードで走り去っていくウィルと交換でナルが合流する。
「お待たせっす! 風の魔法石Aレート!」
ナルが巻き起こした風が吹きあがり、左手の落下速度が弱まる。
「アキトさん! 今っす!」
「お前だけはまともで助かった! 行くぜ光剣!」
俺の魔力に呼応して光の刃が増大する。
相変わらず発動条件は不明だが、一度発現すれば意のままに操れそうだ。
だからこうして、刃先を伸ばすこともできる!
「コアを、ぶった切る!!」
刃渡りが増大した光剣を振り上げ、岩を裂く。
コアを真っ二つに絶った瞬間、ゴーレムの本体と左手が共に砂に変わった。
「おっしゃ! 討伐完了!」
俺が光剣をホルスターに収めたその背後ではウサギ捕獲の歓喜の言葉が響いていた。
このパーティ、マジで終わってる。




