楯無明人/聖槍スクラフィーガ
俺とウィルは岩陰から飛び出し、ゴーレム目掛けて駆ける。
「アキト、まず僕が切り込むよ。あ、槍だから突き込む?」
「んなもんどっちでも良いだろ!? てかやれんのか? ゴーレムって物理に耐性持ってんだろ?」
「うん、大丈夫。僕と、このスクラフィーガならね」
ウィルは槍を構えたまま真っ直ぐにゴーレムの左足に突進していった。
ゴーレムは足元の俺たちを気にも留めず、歩み続けている。
物理を無効にする自分の体に、槍なんかで傷が付くわけない……そんなことを考えてるのかもな。
「僕が言うのもなんだけど、その甘さが命取りだよ。はぁあああ……!!」
ウィルは構えた槍を一度体の方に引いて、一歩踏み込む。
「スクラフィーガ! 貫け!!」
引いていた腕を伸ばし、体重を乗せた槍の一撃でゴーレムの足首を突いたその瞬間、ドォン! という轟音が辺りに響いた。
まるで、爆薬による発破の瞬間だ。
スクラフィーガの刃先がゴーレムの足に触れたその時、ゴーレムの足が砕け散ったのである。
それはもう、ものの見事に粉々に。
左足の膝から下を失ったゴーレムは態勢を崩して片膝をつく。
「まじか!? 頑丈そうな岩がクッキーみたいに砕けたぞ!?」
もしかして物理耐性という情報自体がカヤの嘘?
兎にも角にも、今の奴に隙が出来ている。
「俺も続くか! ふっ!」
俺は英雄王の剣でゴーレムの膝を力一杯に突き刺す。
結果、ぷすっ、と切っ先が僅かに刺さったのみ。
「かってぇ!! ウィルの奴、これを砕いたのかよ!?」
次の瞬間、俺の周囲に暗い影が落ちる。
見上げるとゴーレムが俺目掛けて拳を振り下ろしていた。
「……まじ?」
その場から逃げようにも切っ先が変に岩石に噛み込んで逃げられない。
「嘘だろっ!? 抜けねぇえええ!」
迫り来る巨大な岩の拳。
もうだめかと思ったその時。
「対物理障壁、アトモスフィア」
カヤの魔術の楯がその拳を防いだ。
「世話が焼けるわね」
「カヤ!? ナイス!」
「死にたくなきゃ無暗に突っ込まない。今のうちに逃げなさい」
「逃げるったって剣がだな! うぉ!?」
先ほどと同じ轟音と共に、ゴーレムの膝が粉々に砕け散り剣が自由になる。
砕いたのはこちらの応援に駆け付けたウィル。
「せぇい!」
ウィルは続けて聖槍を薙ぎ、ゴーレムの胴体を木端微塵に吹き飛ばした。
これにて、戦闘終了。
「アキト、大丈夫!?」
「お、おう、助かった。てかお前の槍すごくね!? こんなに頑丈な岩がクッキーみてぇに砕けて」
「それがこのスクラフィーガの能力なのさ」
ウィルはその白銀の槍を地面に突き刺して立てた。
「聖槍の固有能力『脆弱化』。対象を脆くする能力だよ」
「対象を脆く?」
「そ、分かりやすく言うと、相手の防御力をゼロにする武器ってこと」
合点がいった。
あのカヤの絶対防御をも粉砕したこと。
物理無効のゴーレムの体を木端微塵に出来たこと。
全ては聖槍スクラフィーガの『脆弱化』の能力。
「魔槍バルムンクの『重撃』もそうだが、どれもこれもチート染みてんな。さすがは伝説の武器ってことか」
「アキトのその短剣も大したものだよ。ゴーレムの体に僅かでも刺さったんだから。やっぱりその武器は特別な……ん?」
胴体を砕かれたゴーレムが、再生を始めている。
瞬く間に砕け散った岩の欠片が一点に集まり、ゴーレムが再び起き上がった。
「うそ!? あんだけ砕いたのに!?」
「コアになる部分がどっかにあるんじゃねぇか?」
「その根拠は?」
「ゲームの知識」
「げーむ? よく分からないけど、信用してみようか」
次の瞬間、数本の巨大な光の柱がゴーレムを取り囲む。
この光、イリスさんの『アークライト』だ。
「イリスさん!」
「時間稼ぎにしかなりません! そのコアを探し当てて下さい!」
ゴーレムは光の牢を力で捻じ曲げようとする。
ぎぎぎ、という歪んだ音がするってことは、じきに破られるのだろう。
「闇雲に攻めても、すぐに再生されるだけ。的確にコアを破壊しないと」
「つっても、コアの場所なんて」
――アキト。
「え?」
「アキト? どうしたの?」
「あ、いや……」
俺にしか聞こえない例の男の声だ。
――アキト、お前には見えるはずだ。コアの場所が。
(は? 何言ってんだ? 見えねぇよそんなの)
――いや、見える。見ようとしていないだけだ。自分には出来ると念じろ。自分に不可能はないと、力強く念じるんだ。その力が、お前の中には眠っている。
こいつ、何言ってんだ……?
「アキト! 光の牢が破られる!」
ウィルの声で現実に戻される。
光の柱にヒビが入っていた。
「俺の力……」
時間が無い。
アークライトが破られたらゴーレムはヘルメスに到達する。
そしたら多分、人が死ぬ。
「コアの場所……どこだ……どこなんだ?」
俺は目を凝らす。
当たり前だが、なんにも見えない。
「コア……どこだ? 透過させる能力さえあれば……透視?」
その時だった。
脳内にスキル習得の合図が鳴り響いたのは。




