楯無明人/vs黒のゴーレム
ゴーレムはゆったりとした動きでこちらへと向かっている。
動きは緩慢だが、一歩がでかい。
恐らく10分もすればヘルメスに到達し、全てを破壊し尽くしてしまうだろう。
「みんな、無事に持ち場に着いた様だね」
「中、遠距離組はこういう時楽で良いよな」
「はは、そうだね」
俺とウィルはまだゴーレムに向けて駆けている最中だ。
「ねぇアキト。あのゴーレム、なんでヘルメスに向かっていると思う?」
「俺が知るわけねぇだろ。珍しいもんでもあるんじゃねぇか?」
「珍しい物……その意見は案外、的を射ているかもしれないね」
俺とウィルも持ち場に到着。
黒いゴーレムまで50メートルの岩陰だ。
「アキトが言う通り、今この場所には珍しい物がたくさんある。聖槍スクラフィーガ、魔杖レーヴァテイン、聖杖コーネリアス。そして、その名も無き剣。そのどれかに引き寄せられているのかもね」
ウィルは俺が持つ英雄王の剣に視線を落とす。
「名も無き剣? 名前ならあるぞ? 『英雄王の剣』っていう立派な名前が」
「『英雄王の剣』というのは多分、後付けの名称だよ。ほんとはもっと別の名前があるんだと思う」
「どうしてそう思うんだよ?」
「なんとなく。言ってしまえば、勘だね」
「勘かよ」
ズシン、という地響きがした。
ゴーレムまでの距離、約20メートル。
「そろそろだね。この戦いが終わったら美味しいご飯を食べようね? 絶対だよ?」
「死亡フラグをさらっと立てるな!」
その時、対『瘴気持ち』の戦闘では開戦の合図に等しい声が響く。
「いきます。わたくしに力を貸して下さい……コーネリアス!!」
最後衛のイリスさんが聖杖に込めていた魔力を開放する。
「魔を討ち祓います!」
神々しい光が辺りを包み込み、ゴーレムが纏っていた黒い瘴気が霧散する。
これで魔法石に対する耐性は失われた。
「これが聖女と聖杖の力……やはり稀有だね」
続いてカヤの合図。
「ナルちゃん」
「りょーかいっす! えっとえっと……これと、これ!」
ナルはベルトに留めてある魔法石のうち、水と風をチョイスした。
見た所、魔法石の価値を表わす『レート』は最低レートのD。
だがそれも【特級魔法石使い】を習得済みのあいつが使うと……。
「水の魔法石、Sレート!」
スキル能力で高レートと化す。
「押し寄せるっす! 大瀑布!」
ナルの前方に大量の水が出現。
その一切が激流となってゴーレム&俺たちへと押し寄せた。
「……おい、一応確認だが、ナルのやつ最前線に俺たちがいるの知ってるよな?」
「うーん、多分?」
次の瞬間、激流が岩陰の俺たちを、まるで意思を持っているかの様に器用に飛び越した。
「ご安心下さいっす! ちゃんと分かってるっすよ」
「アキトは流しても良かったのに」
あの錬金術師、あとで100回殺す……!!
「続けてぇ!!」
ナルは風の魔法石の力を解放する。
「風の魔法石、Aレート! 吹き荒べ風よ!」
ヒュオッという音と共に暴風が巻き起こる。
周囲の雪を巻き上げながら次第に竜巻となり、ゴーレムを包み込む。
さっきの水といい、今回の風といい、あいつ何を?
「いっちょ上がりっす」
竜巻が一斉に霧散した後に残ったのは全身を氷に覆われたゴーレムの姿だった。
まるでゴーレムの琥珀だ。
あいつ、魔法石の力であんな大きな奴を足止めしやがった!
「さぁ、あとは煮るなり焼くなりっすね!」
「今回は楽勝だったわね。このまま何事も無ければ良いけれど」
カヤが立てたその嫌なフラグは即座に回収される。
「みなさん! 油断しないで下さい!! まだそれは生きています!!」
イリスさんの叫び声と共に氷にひびが入る。
「あれ? しくじったです?」
「あの馬鹿力……見た目に違わず、化け物ね」
次の瞬間、ナルの氷が砕け散り、ゴーレムが再び姿を現わす。
「これは、いよいよ本気で討伐しなければならない様だね」
ウィルが聖槍スクラフィーガを構える。
「僕たちの出番だよ。アキト、準備は良い?」
「それなりに。ただ期待はすんなよ」
「期待してるよ」
「取りあえずお前は人の話を聞こうか」
俺は英雄王の剣を構え、ウィルと共にゴーレムへと駆けた。




