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楯無明人/エストの足跡と黒いゴーレム

「イスルギ領に、エストさんが?」


「あぁ、そう聞いている」


「……何故、イスルギ領に……」



 カストルさんの言葉に対し、一番驚いていたのは他でもないカヤだった。


 イリスさんがカストルさんに問う。



「エストさんがイスルギ領を訪れたのは、いつ頃のお話なのでしょうか?」


「1年程前らしい。時期で言えば、魔王メレフが復活したと囁かれ始めた頃だ」



 ナルが首を傾げる。



「ってことは、魔王の復活と共に姿を消したってことに……これは偶然です?」


「偶然と言い切るにも、必然と言い切るにも、材料が足りませんね。でも、貴重な手がかりだとは言えます」



 イリスさんはカヤを見る。



「カヤさん」


「……正直、あそこに帰るのは心底嫌なのだけれど……」



 カヤは机の下で両拳をギュッと握る。



「分かったわ、行きましょう。イスルギに」



 カヤがそう決心した瞬間、激しい地響きが襲う。


 ゴゴゴ、と大地が呻く様な音と共に、屋敷の外から悲鳴が聞こえ始めた。



『な、なんだあいつは!?』


『化け物だ! 逃げろ!』



 ただ事ではない事態だと悟った俺たちは瞬時に立ち上がる。



「君たち!? どこへ!?」


「屋敷の外っす」


「化け物が出たと聞いては、放っておけません」


「そういう訳だから、カストルさんは至急、避難指示を」


「叔父さん、僕たちが追い払うから大丈夫! 他の人は頼んだよ!」



 俺以外の4人が部屋を飛び出した。


 応接室に残されたのは俺とカストルさん。



「あいつら、すっげぇ勇気あんな……。そんじゃ俺もぼちぼち」


「待ってくれ」



 遅れて俺も部屋を出ようとすると、カストルさんに呼び止められる。



「ウィルベルのあんなに元気な姿は久しぶりに見た。君たちといる時間が有意義なものとなっている証拠だろう」


「一緒にいる時間ったって、まだ数日ですよ? 有意義かどうかなんて……」


「こういうのは長さではない。少年よ、ウィルベルを頼んだぞ。いざという時はエストに代わってあの子を守ってやって欲しい」



 おいおい、なんか頼まれちまったぞ。


 あいつ俺より強いのになぁ……なんて答えれば良いのやら……まぁ無難にこうか?



「やれることはやります。それじゃ」



 屋敷を出ると入口の所に4人が固まっていた。


 カヤが俺に気付いて口を開く。



「遅いわよ、きびきび動きなさい」


「お前らが速過ぎるんだっての! 状況は?」


「見ての通りよ」



 カヤが指さしたのは里の外。


 距離にして300メートル先。


 そこには黒い瘴気を纏った『岩石の塊』がいた。



「黒い瘴気持ちの魔物……出ましたね」



 そう口にしたイリスさんの瞳は魔の力に反応して金色に輝いている。



「あんなに遠くにいるのにあのサイズ、ヤバくないです?」


「目測で30メートルは優に超えているわね……コール」



 カヤが念写の巻物を取り出しステータスを確認した。



「名称、ゴーレム。近接攻撃に極めて高い耐性を有しているわ。加えて黒い瘴気を纏っている状態では魔法石の攻撃は効かない」


「後半はわたくしにお任せ下さい。対象が範囲に入り次第、瘴気を討ち祓います」



 イリスさんが金色の杖、聖杖コーネリアスを取り出す。



「カヤ、近接攻撃に耐性があるってことは俺とウィルはお役御免か?」


「あなたはともかくとして、ウィルベルは違うでしょうね。そうでしょう?」



 カヤにそう言われた瞬間にウィルがニヤリと微笑む。



「そうだね。僕の前にはどんな防御力も意味を成さない。だから、僕はいけるよ」


「だって? インファイターのあなたの居場所がどんどん無くなるわね。ふふっ」



 その嫌味ったらしい顔はやめろ! ムカつく奴だな相変わらず!



「俺も何かやれば良いんだろ!? 女のウィルを1人前線に送るなんて出来っかよ」


「かっこいいね。頼りにしてるよ、アキト」



 ぎゅっと俺の手を握るウィル。


 だが男だ、とはもう言えない。


 てか普通に緊張すんだろが!!



「お前はマジで人の手を握る癖を今すぐ改めろ! は・な・せ!!」



 俺は握られたウィルの腕を払い、英雄王の剣を抜く。


 そして、抜き放つと同時に剣が震えた。


 この感じは……今回はいけそうだな。



「討伐目標、眼前の黒きゴーレム。構えて」



 カヤの号令で俺たちは一斉に武器を構える。



「各々、抜かりなく。解散!」



 VSゴーレム開戦。

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