楯無明人/『槍使い』:ウィリアム・ベルシュタイン②
本作で100話目になります。
ここまで書けたのは読んで下さる皆様あってこそです。
ありがとうございますm(_ _)m
カヤとウィルの決闘が終わった後、俺たちはそのまま野営をすることにした。
5人で焚火を取り囲んでいるとウィルが口を開く。
「ウィリアム・ベルシュタイン、18歳だ」
にこっと微笑むウィル。
ちょっと可愛……だが奴は男だ、落ち着け俺。
俺が自分を鎮めている間、ナルがウィルにあだ名を命名する。
「あだ名は『ウィルベル』っすね!!」
「えっ!?」
それに対し何故か驚いたように目を丸くするウィル。
「どうかしたんです、ウィルベル? もしかして変なこと言っちゃったです?」
「あ、いや、何でも無いよ。あは、あはは」
何かを笑って誤魔化しているような気がするが、気のせいか?
「改めて、僕を仲間に加えてくれて嬉しいよ。色々聞きたいこともあるだろうし、何でも聞いてくれ。何かあるかな?」
紳士的な笑みで質問を誘導するウィルに対し、最初に口を開いたのはナルだ。
「はいはい! 質問良いです?」
「うん、良いよ」
「さっき言ってた、『仲間になりたい理由』についてっす」
そう言えば話が途中だったな。
――理由は2つある。1つはさっき君たちが手に入れた杖。
最初にウィルはそう言っていた。
そう言えばウサギに夢中でその『もう1つ』を聞き逃していたな。
ちなみにそのウサギは今イリスさんの膝の上ですやすや寝ている。
ウサギになりたい。
「もう1つの理由はなんです?」
「2つ目の理由、それはね」
ウィルは俺たちを見ながら言う。
「君たちの事が気に入ったからさ」
「俺たちの事が?」
「気に入っている、ですか?」
「どの辺がです?」
初耳3人衆に続けて、その理由を既に聞いていたカヤが続く。
「なんでも、和気藹々としている所が好きらしいわよ。そんな理由で仲間になりたがるなんて、酔狂ね」
「ふふっ。そう言いながら、この中で君が一番楽しそうに見えるよ。イスルギさん?」
カヤはウィルの言葉に目を見開き、顔を背ける。
「し、視力が悪いのね」
「え? 両目4.0なんだけどな」
その後俺たちは、今までの経緯を全てウィルに話した。
旅の目的。
カヤの夢のこと。
各々が仲間になった経緯。
その全てを話し終えた後、ウィルは空の月を見上げる。
「お、もうこんな時間か。話したいことはまだまだあるけど、また明日にしよう。旅の道すがら、話すとするよ」
テントに戻ろうとするウィルにイリスさんが端的に質問した。
「ウィルさん?」
「なんですかイリスさん?」
「その槍、スクラフィーガは、『聖槍』……ですよね?」
イリスさんはウィルが装備している『白銀の槍』に目を向ける。
アレが『聖槍』? マジ?
「大正解です。この槍の正式名称は『聖槍スクラフィーガ』。紛れもない聖槍ですね」
――聖槍。
剣、杖、弓、槍、鎚、拳。
合計6つある聖具の1つ。
モルドレッドが持っている『魔槍バルムンク』と対になる槍。
それが俺の目の前にある。
「『魔杖』と『聖槍』。12個ある伝説の武器の内2つがこのパーティにあるってかなりすごくねぇか?」
「僕の槍を入れて、合計3つだよ、アキト」
ウィルはある人に視線を向ける。
「ですよね、イリスさん?」
「やはり、気づいていましたか。その通りです」
イリスさんは常々大事に持っている金色の杖を取り出す。
「『聖杖コーネリアス』。それがこの杖の正式な名前です」
「伝説級の武具が3つも……偶然にしては出来過ぎね」
「うん、だからこれは必然なんじゃないかな。僕が魔杖に巡り合えたのも……ふわぁー……」
ウィルは大きな欠伸をした。
「それじゃあ僕はもう寝るね。アキト、寝る場所は空けとくから」
アキトは2つのテントの内、小さい方に入って行った。
ちなみに今日からテントは2つ。
ウィル持参のテントにより、遂に男女が分かれて寝る運びとなったのだ。
さらば睡眠不足。
イリスさんの谷間パラダイスは名残惜しいが、睡眠欲には勝るまい。
……。
ま、勝るまいよ!!
「積もる話もあるけれど、今宵はこれにて解散としましょうか」
カヤの合図で俺以外の3人はテントに入って行った。
さて、俺もテントに入るとするか。
――事件はその翌朝に起きた。
寝返りをうった際、確かに俺の右手が柔らかいものに触れた。
ぷにゅん、という感触。
ウィルの頬に触れたのかと思った俺は、顔を避ける様に少しだけ横に手をずらした。
ぷにゅん。
「ん……?」
すぐ隣にまた同じ柔らかい感触。
比較的豊かな山が、2つ。
「……あ、いや……おっかしいだろ」
この感触を俺は知っている。
イリスさんのパラダイスと同じ柔らかさだ。
イリスさんほど大きくはないが、確かにそれはある。
いやしかし!
それが、ここにあるわけはない。
だって、
俺の隣で寝てるのはあのウィルだぞ!? 男なんだぞ!?
「……」
俺は恐る恐る目を開ける。
最初に目に飛び込んできたのは男らしからぬ綺麗な寝顔。
まつ毛も長ぇし、唇だって微かに潤いを帯びていて、無防備なその表情に俺は何故かドキドキしている。
そして、問題の右手部分。
俺の右手の先に、確かな胸の膨らみがあった。
「……え?」
おいまじか……こいつ……!!
「お前! 女か!?」
この日の朝の衝撃を俺は生涯、忘れない気がする。




