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楯無明人/初めての町、初めてのエルフ

 ――始まりの町エインヘル。


 異世界から転移して来た者が最初に訪れる町であり、全ての冒険者にとって出発点となる町らしい。



「うお、思ってたよりでかいんだな。人も多いし」



 円形の広場をぐるりと囲う様に煉瓦の建物が建てられており、町のど真ん中を貫くメインストリートとされる道の先には大きな時計塔が見える。


 

「今日はお祭りなのよ」


「お祭り?」


「そう、英雄王の誕生祭よ。一先ずギルドに向かいましょう」



 カヤはすたすたとメインストリートの方へと歩いて行った。どうやら目的地はあの時計塔であるらしい。

 

 俺は駆けてカヤの隣に並ぶ。



「なぁ、これから俺ってどうなるんだよ? ギルドって所で何するんだ?」



 カヤは進行方向に視線を向けたまま返す。



「冒険者手形を発行して貰うわ」


「免許証みたいなもんか?」


「えぇ、そうよ。それが無ければ冒険をすることは許されない。必携のアイテムね」



 俺とカヤはギルドに入る。



「うぐっ!? 酒くさ!!」



 ギルドの中はお酒の匂いに満ちていた。


 おっさんたちが昼間から酒を浴びる様に飲んでいる。



「ギルドは酒場も兼ねているの。今日はお祭りということもあってとても賑わっているわね……ひゃっ!?」



 カヤが変な声を上げたかと思いきやバッと体を反転させ、飲んだくれ親父の手を捻り上げた。



「いででっ!」


「いま、私のお尻を触ろうとしたでしょう? 破廉恥な。あなたに死後の世界を見せてあげる」


「勘弁してくれ! 冗談だって!」


「そう、冗談で死ぬことになるなんて、不憫ねあなたも」



(お、おっかねぇなこいつ……知ってたけど)



 俺はまぁまぁまぁと怒れるカヤを宥めた。


 神殿ではわんわん泣いてたのをあやしたし、まるで保護者にでもなった気分だ。



「まぁ実際に触られたわけではないし、この場は見逃してあげる」


「どうどう」



 何とか矛を収めてくれたようだ。



「さて、この猛る思いをどうしてくれよう……あぁ、そうだ。タテナシ・アキト、後で私の実験台になりなさい」


「なんで?」



 あ、矛が俺に向いただけだったか。

 


「お、カヤちゃんじゃない。こんにちは」



 カヤに向かって元気に挨拶をしたのはギルドの受付のお姉さんだった。


 銀髪で耳が尖っており、おっとりとした雰囲気を纏った美人である。見た所、歳は俺達より少し上ぐらいだろう。



「えぇ。こんにちは、シルフィーさん」


「うんっ! 元気そうで何よりだよ」


「お互いにね」



 なにやら顔見知りっぽいこの2人、この場で俺だけ置いて行かれている。それに気付いたシルフィーさんとやらが俺を不憫に思ったのか優しい笑顔のまま、話を振ってくれた。俺、この人好きだわ。



「君は初めて見る顔だね? 私はシルフィー・ハートネット。よろしくね?」


「え、あ、あの……」



 薄情しよう、俺は美人に悪意無く話しかけられると萎縮してしまう。俺のこの気持ちが分かる奴はいないものだろうか?



「えっと、俺は……」


「このコミュ力ゼロ男はタテナシ・アキト。一応、本当に一応、私のパートナーよ」



 カヤが代わりに俺を紹介した。まじでこいつ、悪意しかないな。



「この子がカヤちゃんのパートナー? ってことは遂にカヤちゃんも冒険者デビューするんだね! みんな喜んでるんじゃない?」



 シルフィーさんが言う『みんな』というのがどの集団をさすのかは分からないが、どうやら『冒険者になる』っていうのは祝福される様な事柄らしいな。


 

「えぇ、まぁ……そうね」



 そしてこの浮かない顔である。いつも基本無表情のこいつだが、影を落とすとより一層、暗い印象を受けた。



「って、それはどうでも良いのよシルフィーさん。私がここに来たのは冒険者手形を貰うためなの」


「おっけ、2人分で良いよね? ちょっと待ってて」



 シルフィーさんはギルドカウンターの下から登録用紙らしきものを取り出し、俺とカヤの前にそれぞれ置いた。



「はい、これに必要事項を記入してあの箱に入れといてね。大体30分くらいで査定が終わるからそれまで町をぶらぶらしててよ」


「えぇ、ありがとう」


「ありがとっす」



 俺とカヤはさっさと提出すべきものを提出し終え、町へと繰り出した。

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