七
その手紙から1週間後
もう秋は終わろうとしているのに、ダンボールハウスの天敵である台風が迫りつつあるようだ。しかも大型。これは、ホームレス仲間で1番の情報通である早川さんの情報だから間違いがないはずだ。この秋は、大きな台風が来なくて良かったとホームレス仲間と最近話したばかりなのに。本当異常気象は嫌だ。とりあえず僕と拓人さんは、1番台風が接近する日はカプセルホテルに泊まることにした。
次の日本降りの雨の中僕たちホームレスは、ダンボールハウスの解体作業を行った。ダンボールハウスはガムテープで止められ、大型の台風に耐えられる作りではない。暴風で吹き飛ばされれば危険だ。解体作業を終えたダンボールに座り休憩する。雨は降っているがさっきよりは、弱くなった。僕は雨は嫌いだが、雨の公園は嫌いじゃない。雨に濡れた木々。雫がリズムよく落ちる水たまり。それらを見るとまた絵を描きたくなる。ホームレスにならなければこの公園の美しい景色にはたぶん気づかなかっただろう。僕はボロボロの傘を片手に公園を散歩した。いつもは、犬の散歩をする人、親子で遊ぶ人などで賑やかな公園。今日は静かだ。雨音に耳をすませながら歩く。歩いて見ると晴れた日と違った景色が見えて面白い。
少し歩くと人影が見えた。
「まさかっ」
僕は言葉を失った。たぶんすごいアホな顔していたと思う。そこには、ずっとずっと会いたいと思っていた彼女が、近藤蘭さんの姿が見えた。パステルカラーのニットとスカート。傘をささずに立っていた。あの頃より少し髪が短くなっていた。
「あの。こんにちは」
僕は頑張って声をかけた。亡き母に少し似ているその横顔は、雨に濡れながらもとても美しかった。
「こんにちは」
「あのー風邪ひきますから傘入ってください。」
「あっすいません。」
「いえ気にしないでください。」
「ありがとうございます。」
久しぶりに彼女に会えて嬉しかったが、彼女の横顔を見ただけで彼女が今辛そうにしているのを感じ少し不安になった。僕はここに居ていいのかなぁ。そんなことを考えながら、2人で並んで公園の雨に濡れた木々を眺めていた。
しばらくして彼女は、口を開いた。
「優也さんって本当優しくて、しっかりしててホームレスじゃないみたい。」
正確には、小さく呟いた。ただこの言葉が僕の耳に届いた時とても安心した。
「蘭さん寒くなって来ましたし、そろそろ帰りません?今ダンボールハウスは台風に備えて壊してしまってないんですが」
「あのーじゃどこに泊まるんですか?」
「うーん近くのカプセルホテルかな」
「もしよかったらうちに来てください。一人暮らしですし、拓人さん誘っても構いませんから。前は、助けていただきましたから。」
「えっでも。本当にいいんですか?」
「はい!少しは恩返しさせてください。」
ダンボールハウスがあったところに戻るとさっそく拓人さんにそのことを話した。しかし拓人さんは俺はいいと言った。夜中にバイトがあるらしいが、たぶん僕の蘭さんへの思いを知っていて気を使ったのかもしれない。
約束していた時間に彼女と合流し、彼女の家に向かった。彼女の家は、広くおしゃれで、大学生の一人暮らしの家とは、とてもとても思えなかった。