三
初めて彼女を見つけてから、僕は彼女を毎日同じ場所で見つけることができた。今日はピンクのワンピースにレースを羽織っている。透き通るように白い肌。太陽の光で輝く焦げ茶色の髪。とても綺麗だ。花がよく似合うそんな人だと思った。彼女はどこか亡くしたばかりの母に似ていた。僕も小さい頃は、よく公園で絵を描いた。そのことをすごく思い出した。
ある雨の日ゴミ漁りを終え、雨が強くなる前にと急いで公園に戻る。そしたら公園のベンチで横たわる彼女がいた。僕は、声をかけようと近寄ろうとしたら拓人さんに止められた。拓人さんが昔同い年くらいの女性が公園で高熱でダウンしたのを見つけたらしい。ダンボールハウスまで運び看病したらしいが、仕事から戻ってくると金品、服、雑貨、お金になるものは全てなくなったことがあったらしい。たぶんそのことが影響してるのだと思う。けど彼女はそんな人じゃないと思った。いつもこの公園で絵を描いている。絵を描く人に悪い人はいない。昔絵を書いていた僕の固定観念だ。僕は、拓人さんの制止を振り切り彼女のもとに走った。雨が強く降って来た。雷鳴が聞こえる。全身はもうすでにびしょ濡れだ。びしゃびしゃと水たまりの上を走る。彼女の呼吸が荒い。だいぶ熱があるようだ。意識はかろうじてある。
「大丈夫ですか。すごい熱ですよ。」
彼女は少し顔を上げた。
「病院行きますか?」
彼女は小さく首を振った。
「ここにいたら風邪ひどくなります。家の場所教えてくれたら連れて来ますし。僕ホームレスでたいした家ないですけど良かったら来てください。」
彼女の意識はそこで途絶えた。一瞬救急車を呼ぼうか考えたが、携帯を持っていないから近くの公衆電話まで走ることを考えると、とりあえず僕の住処で様子を見ることにした。
前回熱出した時に買った冷えピタが残っていたはずだ。ダンボールハウスの壁に貼り付けた小物を見る。
やっぱりあった。汗を軽く拭いてやり、冷えピタを貼る。雰囲気というか振る舞がどこか母に似ている。拓人さんのとこにゼリーがあったはずだ。少し分けてもらおう。彼女にバスタオルをかけてやり拓人さんの家に向かう。
「拓人さん。すいません。少しだけゼリーもらえますか?」
「優也か。あまり人間を信用しすぎるなよ。あの女は、昔俺が助け金品取っていったやつと似ている気がする。とりあえずこれを持ってけ。」
拓人さんは、水やゼリー、タオルなどが入った袋を渡してくれた。前もって僕が来ることを予想して準備していたようにも見えた。
「ありがとうございます。」
彼女は夜になり目を覚ました。熱は、まだあるようだ。
「ありがとうございます。すいません。なんかお世話になってしまって。」
彼女は、少し慌てた様子で答えた。
「大丈夫ですよ。こちらこそこんな狭くて汚いところですいません。ゼリーとか水、パンくらいはありますが食べれます?」
「すいません。なんでもかんでも。」
「いや大丈夫ですよ。それより何か食べた方がいいですよ。」
「すいません。それじゃゼリーいただいていいですか。」
「大丈夫ですよ。どうぞ。よく公園で絵を描いてますよね?風景画ですか?僕も前は絵を描いてまして。」
「そうなんですか?風景画です。自然の中で描いているのが好きなんです。」
彼女はパッと表情を明るくして答えた。
「そうなんですか?僕もです。今は描いていませんが、すごくハマりました。」
僕と彼女との作品の趣味が見事に一致した。正直嬉しかった。いやかなり嬉しかった。僕はもう夜が遅いので今日だけ彼女を泊めることにした。途中拓人さんが毛布を持ってやってきた。いつも拓人さんが使っているものだが、彼女のために持ってきたようだ。何だかんだ彼女のことを心配している。そんな拓人さんが僕は好きだ。
これが彼女と体験した不思議な不思議な出来事の始ま
りだった。