第3話 傭兵と西の道中
気が向いた…評価はされないけど
ー西の大国・郊外ー
「なぜ貴様が東の道を知っている」
酒場を出て3日目。珍しくジルから口を開いた。
彼女はあまり口を開く性格ではないから、これで会話が成立したら3日ぶりの会話になる。
「確かに、東にある国はほとんど滅んでる。誰も行かないな。行く意味がほとんどない」
ジルは喋らず、視線も寄越さない。質問への答え以外は無視を決め込んでいるようだ。無駄は好まない性格だというのが見えてきた。
「…俺は東から来たんだよ。来た道を戻るだけってこと。滅亡した地域に入るまでの大国にも、いくつか心当たりがある」
「…フン」
鼻を鳴らすジルもかわいい。しかし考えるほど奇妙だ。こんな若い少女が悪魔を倒すほどの実力を持っている。
悪魔は魔物とは比較にならないほど強い。下級の悪魔が数匹集まるだけで並の傭兵や冒険者たちでは太刀打ちできないほど、悪魔という種族は強い。
さらには出現や生息地域もわからないという不気味な存在だ…それを屠り、追うだなんて普通じゃない。
「…なんでジルは、悪魔を追うんだ?」
ジルは銀髪を風に靡かせながら歩いてく。返事もしない。
「東の大国が滅んだのと…関係あるのか」
わずかに眉が動いた。当たりのようだ。
「……貴様こそ、雑魚同然の力で奴らを追うとは」
わずかに息が詰まる。確かに俺は、傭兵としてはそこそこやれる部類だ。だが悪魔を相手取るには実力が不足しすぎている。そんなことはずっと前からわかっている。
それでも
「…俺の住んでた国は、奴らに滅ぼされた。妹を殺された」
「…………」
話を促すふうでもなく、2人揃って歩き続ける。
互いに話が続かないと、自然に口が開く。
「あいつらはなんの前触れもなく皆殺しにしていきやがった……納得できるかよ。俺だけが落ち延びて……死ぬにしたって、俺は一矢報いてえ」
ジルが好きだから俺は同行している。それに嘘はない。だが悪魔を追い、この手で殺したいという気持ちも嘘ではない。
彼女ほどの実力者と共に戦う機会が、どこがで得られるのなら。それは悪魔を殺すほどの力を身につけられる好機となりうるかもしれない。
甚だ都合のいい解釈だと自分でも思うが…悪魔が滅多に出ないこの国周辺で、経験を積むのも限界がある。
どのみち、良いきっかけだ。
「…好きにしろ」
ぶっきらぼうな答えだが、嫌な気分にはならない。
ひとまずはジルを東へ案内する。彼女のことだから、その過程で悪魔の気配があれば乗り込むだろう。
「足は引っ張るなよ」
釘を刺すように彼女が視線を向ける。
「…おうともさ!」
俺は嬉しくなった。