第2話 傭兵と旅は道連れ
第2話です。どうぞ
ー西の大国・辺境の町の酒場ー
「今日も依頼待ちか?」
男が少女に話しかける。
男の風貌はぼろぼろだが、酒場にどことなく似合った雰囲気だ。
「………」
少女は無言で視線を逸らす。
見た目は10歳ほどと幼く、とても酒場には似合わない風貌だ。
だが不思議と雰囲気は合っていた。
銀色の髪と青いコートが、美しい月夜の日を連想させる。
俺の名前はトラ。
この西の大国で傭兵稼業を営んでいる。
目の前の少女は同じく傭兵稼業をしており、俺が1週間前から毎日告白している相手でもある。
「失せろ」
少女は視線を向け、中々にキツい言葉を放ってくる。
口調は男性のそれで、とても友好的には見えない威圧感だ。
だが無視され続けた最初に比べれば、言葉をくれるのは前進した方だ。
「さすがにひどくないか、ジル?」
少女が睨んでくる。
ジルというのは目の前の少女の名前だ。
1週間のアプローチが効いたのか、名前と職業、目的は教えてくれた。
なんでも、極東の国……滅んだ俺の故郷を目指して、ここより西にある国から旅をしてきたらしい。
それは恐らくここ1年ほどの話だろう。
彼女自身年齢は17歳と言っていたし、16歳以上でなければ傭兵にはなれないからだ。
「どうして東へ行きたいんだ?」
「貴様には関係ない」
相変わらず冷たい態度だ。
だが…実のところ、見当はついていた。
(悪魔絡みか…)
そう、恐らく彼女は悪魔に関係したなんらかの理由で東を目指している。
1週間、彼女の依頼に同行し続けて気付いたことだ。
彼女が受けた依頼は、どれも確実に悪魔が絡んでいた。
だが解せない。
彼処にあるのは、とっくに滅んだ国だけだ。
生物がいない故に魔物すら発生しない、そんな空虚な土地と化している。
とても悪魔がいるとは思えなかった。
だがそんな考えとは裏腹に、俺の勘は感じていた。
きっとこの少女の行く所には、悪魔がいる…と。
俺も行きたい。
そして悪魔を殺したい。
そんな考えが離れない。
気付けば俺は口を開いていた。
「それはともかく、行き方はわかるのか?」
肝心なところを聞き出すべく、そう切り出した。
だが、途端に彼女はぎくりと固まった。
どうやら知らないようだった。
「案内するか?」
「いらん」
即答だった。
さすがに鬱陶しすぎただろうか。
「別にもう付きまとったりはしないよ。せめて道案内させてくれってだけさ」
「…………」
彼女が考え込んだ。
しばらくして、おもむろに財布であろう麻袋を漁り始める。
何か報酬を用意するべきと考えたのだろうか?
(意外に律儀だな…)
俺は袋を漁る手を止めさせた。
別に報酬なんか求めてないからだ。
「報酬は君と旅をすること、それだけでいい。旅は道連れ…ってな」
彼女はほんの少しだけ目を見開いた。
予想が当たったようだ。
彼女は俺の手を払い、視線を逸らす。
「…勝手にしろ」
不意をつかれたせいか、どこか不機嫌そうだった。
だが、嫌ではないようだ。
ずっと独りだったのかと考えると、不思議と自分を重ねてしまう。
「それじゃあ、明日の朝にでも出発しよう。準備は済ませてるんだろ?」
「…貴様といると気味が悪い」
またもや当たったようだ。
しかし、今の俺にはどうでもよかった。
惚れた人と旅をできるという昂りが抑えられそうになかった。
その日、俺は胸を躍らせながら酒場を後にした。
いかがでしたか?
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それでは