001 『無能と蔑まれる男』
本日二話目です。
つぎの投稿は明日のこの時間です。
あとがきは今回ないです。
それでは
001 『無能と蔑まれた男』
俺は生きることが嫌いだ。
嫌いというより、好きな事が一つもないから。
好きにも、嫌いにもなれない。
だから今日の今日とて憂鬱だ。
俺の年齢が15歳になり、そして今は4月初旬。
わかる人にはわかるだろうが、高校生の入学式の時期だ。
『高校』
この言葉に対して、好意や好感といった”善”の感情をもってる人の方がある意味多いだろう。
それに対して俺は、高校にも高校生活にも”悪”の感情しかない。
否、違うな。
今までの人生と、高校生活に何の違いもないと思っているからか。
今までの人生と同じだろう、「無能」と蔑まれ、疎まれる。
これから一生そうだろうし、やっぱり変わる事が出来ないのだろう。
変わろうと思って変われる事ではないし、努力が実を結ぶわけでもない。
だから、俺の人生は『過去』『現在』『未来』においてある一言で表す事が出来る。
『絶望』
たった、たったその二文字で表す事が出来る。
出来て・・・・しまう。
ああ、死にたいな。
そんな事を、延々と考えながら、この重い足を動かし進む。
”重い”は比喩ではなく、実際に足取りが重くなってしまう場所に向かっている。
『異能科学園』
人口の約8割が『異能』と呼ばれる物を生まれ持っている時代。
この世界の8割が異能を持っているといっても、その力や能力は様々だ。
コップ一杯の水を出す能力だったり、マッチ程度の火を出す能力だったり。
それぞれで、様々だ。
そして俺こと『零織 刹那』は、異能を持っているが何の異能なのかわからないという、存在が異様で奇妙な人間だ。
本来、生まれた時から持っている異能は、幼少の時に自発的に発動してしまう。
その力は小さくか弱いが、将来どんな異能になるかは『15歳』で決まってしまう。
例えば、幼少の頃”静電気”を出す異能であった場合、15歳の時には”電気”を放出する異能になっているかもしれない。
と、いった感じに異能はだんだん成長し、15歳でその成長は止まる。
あとは本人の工夫や、鍛錬によって発動時間の短縮や、範囲を大きくしたりと。
大きな成長はしないが、努力によって小さいが『何か』が変わったりもする。
そして俺は、異能の有無を判断する装置で5歳の時に『持っている』と判断されたのだが。
異能の発動が全くできず、どんな異能かさえもわからない。
そのせいで、小学生の時も中学生の時もイジメを受けてきた。
俺は普通科の高校に行くつもりが、両親がいない為普通科に行く為の金がなかった。
仕方なく、異能を持つ物ならば誰でも入学できる『異能科学園』に入学した。
異能科学園といっても、6年間通うことが出れば『高校卒業』の資格がもらえるので。
まあ、仕方ないと我慢している。
そんなこんなで、学園の校門に到着した。
学園はとてつもなく広く、門も50人は一度に通れるだろう幅がある。
校門には生徒が多くいて、俺と同じ入学生は学園の大きさにあたふたしている感じだ。
俺も学園内には入り、入学式が行われる『第一体育館』に向かっている。
掲示板に場所が書いてあったので、あまり迷わずに行けそうだと、この時は思っていた。
20分後。
やっと第一体育館につけた。
あれから、めちゃくちゃ広い校内を完全に迷ってしまい。
8分ほどの距離の第一体育館に行くのに、20分もかかってしまった。
そのせいで、体育館内にはほとんどの生徒が椅子に座っていた。
入り口から見て一番奥に6年生が、次に5年生、4年生、3年生、2年生、そして1年生のようだ。
俺は真ん中の通路進み、ちょうど5つ席が空いているところがあったので通路から三つ奥に座った。
俺はあまり顔を動かさず周りを見る、一年生は少し緊張している感じがして。
二年生以降はもう経験しているからか、落ち着いて開始時間を待っていた。
俺もあと10分ほどで始まるであろう式に備えて、身なりを少し整えていた。
少し制服が着崩れているので、それを直していると時間になったようでライトが消えた。
そして、体育館の演説台?のような場所にライトスポットが当たり一人の人影を照らした。
「みなさんおはようございます。私はこの学園の学園長をしている『月夜見 渚』です」
と、挨拶をしたのは見た目20歳ほどの若い女性だった。
彼女は銀髪を腰ほどまで伸ばしていて、顔もすごく整っていて美人だ。
そんな彼女が学園長だなんて、一体どうしてどうなっているのだと思った。
まさか学園は世襲制なのか?と変な疑いをかけているとまた話し始めた。
「あまり長く話すのは好かないので、簡潔に済ませようと思う。
一年生の諸君、この学園で一番大事なのは『力』だ。
異能の力、意志の力、覚悟の力、精神の力、肉体の力。
他にもいろいろな力があるだろう、そしてこの学園で必要不可欠な力は『異能』の力だ。
一年生の諸君が今日から通うことになるクラスの割り振りも、異能の力によって決めた。
しかし、今決まっているクラスが1年続くわけではない。
学期末に必ず行う、異能力テストの結果次第ではクラスが変わる事がある。
だから精々努力を怠らずに、精一杯励んでくれ。以上」
そう言って彼女は傍に捌けていった。
それからの式は、何か特別なことがあるわけでもなく滞りなく進んでいったが。
俺は早起きのせいもあり、寝てしまった。
トントン、と肩を叩かれている事によって眠りから覚醒した。
式は完全に終わってしまったようで、ほとんどの生徒はいなくなっていた。
俺は、肩を叩いていた人物を見るために顔を上げた。
「起きたかい?入学式で爆睡するなんてすごいね」
と、俺の事を起こしてくれたのは一年生の証でもある黒色のバッチをつけている女の子だった。
女性用の真新しい制服をきて、銀髪の髪をショートカットにし、外国人の様な顔立ちのとても美人な女性。
そんな女が、なぜ俺なんかを構うのかわからないが感謝はしておいていいだろう。
「ああ、ありがとう」
俺はそう言って席から立ち、彼女と対面する。
そしてまたも驚愕、俺も身長は低くないが彼女は俺と同じくらい大きかった。
その為、鼻先が当たるほどまで近くに寄ってしまい。
さすがの俺もすぐさま後退し、謝ろうとしたら。
「あ、すまない」
彼女から謝ってきた、それも顔を赤くして。
俺は全く意味がわからず、ボーとしてしまった。
「改めて、初めまして同じ一年の『月夜見 梓』です」
彼女が出してきた手を、俺はとっさの事なので反射的に握手してしまった。
そのまま無言の時間が過ぎ、手を離した。
彼女は小さくお辞儀し去っていった。
「なんだったんだ?」
俺は一連の出来事が普通な事なのか、おかしい事なのかわからなかったので、そのまま流してしまった。
後に、結構面倒くさい出来事に発展するとは知らずに。