第三話 おかしいと気がついたときには………
三、
おかしいと、俺は家に帰って考えていた。
「…………不幸な上にあまり縁のない女性に今日は3回ほど関わった………これはなんだ?嵐の前の静けさか?」
それとも、有頂天になっている俺を地獄に落とす余興か?ドッキリか?
トイレにこもって考えていても答えは出ない。あれだ、そう、これは神様が俺にくれた用心の期間なのかもしれない…………
「…………明日からは細心の注意を払って生きよう!さて、ついでに買い物に行ってくるか…………にんじんが今日は安かったな」
財布を持って俺は近くのスーパーへと行くことにした。
―――――
「思ったより安くて助かったな…………」
スーパーから家へと帰宅する途中、消防車が俺の隣をけたたましいサイレンを鳴り響かせながら駆け抜けて言った。
「お?火事か?」
不謹慎だが、野次馬根性で走ることにした。ちょうど、手元ににんじんだってあるからな………あれ?消防車が向かっている先ってどこだった?
「って!あの方向は俺んちのアパートじゃねぇか!」
あわてて走り出す…………これは野次馬ではない、もしかしたら当事者………いや、被害者かもしれない!!
ぼろぼろのアパートの前に着くと、見事にそこは炭と灰となっていた。
「あ、吉野君!無事だったんだね?」
「大家さん?燃えちゃったんですか?」
「そうなんだ………」
サラリーマン風の男性が俺の前にやってくる。
「幸い、皆会社とかにまだ言っている時間帯だからね…………僕は連絡があったから急いで戻ってきたんだ。吉野君が無事でよかったよ…………」
心底ほっとしていたようで、俺はなんだか嬉しかった。こんな俺でも誰かに心配されるのだなぁ〜と。
「悪いけど、吉野君……ここがこうなってしまった以上、出て行ってもらうしかないんだ」
「……………確かに、その通りですね」
燃えてしまったのだ、二階立てのアパート…………いや、集合住宅と言っていい。共同の風呂にトイレだったからな…………
「今日は俺も自宅に帰ります」
「うん、そうしてもらえると嬉しいよ」
消防関係の人が大家さんを呼ぶと、俺も邪魔になってはいけないと思ってその場を後にした。
「…………とりあえず、家に連絡を…………あれ?」
ポケットをまさぐるが、携帯がない。
「…………部屋の中に忘れたのか?」
いや、部屋の中のときもなかった気がするんだが………まさか、どこかで落としてきたとか?
俺はあわてて自分が今日通ったすべての道を再び歩き出した。まずはスーパーへの道だろう。
「………ないな」
スーパーへの道を調べてまわったのだが五百円だが落ちているぐらいで他には何もなかった。
「………倉庫への道か?」
そういえばあの女子生徒を助けるときに落とした気がするのだが…………いまさらあの危なそうな倉庫に行きたいとは思わないが………
「いくしかないか…………」
覚悟してそこへ向かったのだが…………
「はい、危ないから下がって〜」
「え?」
警察が倉庫の周りを囲んでいてKEEP OUTと書かれている黄色い紐が俺を中に入れさせてはくれなかった。
しかし、その程度でこの前変えたばかりの携帯を手放すわけにはいかない。別に俺が中に入れなくてもそこらへんを歩いている暇そうな警官を探して訪ねればいいのだ。まぁ、なかなか暇そうな警官がいないのだが、それでも鑑識らしき人を見つけると俺はその人に話しかけた。
「すいません、この倉庫の中にミジンコのストラップがついた携帯がありませんでしたか?」
「…………?」
当然のように不思議そうな顔をされる。
「実は、この前ここに間違えて入っちゃったときに携帯を忘れてしまったんです」
信じてもらえたかわからなかったのだが、相手は首を振った。
「残念ながら携帯はなかったな〜…………それ、本当に君の?」
懐疑的に染まっていく鑑識さんを見て俺はもう駄目だと思った。だから、ありがとうございましたといってその場を去っていったのだった。
―――――
万事、窮すだな…………と、街中を歩きながら考えていた。
『え〜今入ったニュースです!○○町の倉庫で…………』
電気屋の新型テレビが能力を見せ付けるために道行く人たちに今日あったニュースを伝えている…………
「………今、手元にあるものは………」
着たままの学生服をまさぐると、出てくるものは………財布、先ほどもらったメモ、ペンぐらいだ………食べ物にいたっては手にしているにんじんぐらいしかない。
「ん?メモ?」
そういえば電話番号が書いてあったな…………あの女子生徒の携帯電話の番号だっただろうか?しかし、いまさらそれがなんになるのだろうかと思ったのだが………まぁ、女性の声でも聞いているだけで俺は元気になるからな…………
「…………」
近くの公衆電話へと入り、その電話番号をプッシュ。
『え〜と、どなた?』
あの時聞いた女性と同じ声が受話器から聞こえてくる。
「え、えっと…………あの、倉庫であったものなんですけど…………」
『ああ、王子様?』
警戒心は消え、ちょっと人を見下しているような声が聞こえてくる。
「テレビ、見ました………警察に連絡したのあなたなんですか?」
『ええ、そうよ?すごいと思わない?潜入までしちゃったんだから♪』
その後、一方的にどういった経緯でああなったのか(そういうことが趣味だそうだ)何故つかまったのか(おなかの音が相手にばれたそうだ)俺に助けられた後どうしたか(警察に匿名で情報を提供したそうである)などなどと、語ってくれた。
『…………といったことがあったのよ。どう?すごいとおもわない?』
今日何度目であろうか?再びそんなことを俺に言ってきた。俺はそれに対して一つしか答えを持っていない。
「ええ、すごいですね?」
『そうでしょう?すごいぞ、私!』
きっと、受話器の向こうで胸をそらしているのだろう……………誰かもわからない相手同士が話している内容としておかしいのだが、それ以上にこの関係もおかしい。
『で、何かお礼とか必要かしら?』
「!そ、そうなんです!えっとですね………実は火事で………」
ようやく、期待していた展開が俺へとまわってきた…………と思ったのだが、そのとき俺に不幸がまわってきた。
ぷつん
「………じ、時間切れ?」
財布を捜そうとするが、財布がない!いつ、とられたのかわからない………そして、近くのTVでは『鑑識の姿をしたすりに注意!』という報道があっていた。




