6話 不本意な能力
瀬戸内海に面する一つの大きな都市。
いくつもの摩天楼が立ち並び、そこは灰色一色に染まっていた。太陽が沈み、夜が訪れるとその場所はまた新たな色に染まる。赤、青、黄。いくつもの光が夜を飛び交い、世界を照らす。
人口は約1030万人。新大和皇国の首都及び、新制国際連合の極東支部が置いてある「岡京」。
そこに一際目立つビル群がある。そこが俺たちの向かっている場所だ。そこには国会議事堂、首相官邸、最高裁判所などの新大和皇国の皇居を除く首都機能が周りに集まっており、その中心には新制国際連合の極東支部が置いてある。
「あと少しですかね」
ちょうど視界に極東支部のビルが見えてきたので、思わず独り言のように言った。
するとパイロットが「そうですね。あと少しで着きますよ」と答えてくれた。
俺は視線を戻し、ヘリの中に目を向ける。
そこにはどうでもいい光景が広がっていた。
蓮田さんと白岡さんはまだ言い争いをしている。そこにさっきまでレプリカと話していた美咲さんが割って入る。「喋ると傷が広がりますよ」など蓮田さんの心配をしていた。
川本さんはというと完全に寝ていた。
俺も目を瞑って寝たふりをし、到着まで待つことにした。
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ヘリは岡京の埋め立て地の滑走路に着陸し、俺たちはそこに降りた。蓮田さんは担架に乗せられ俺たちより先に言ってしまった。
担架に乗せられている間も元気に言い争いをしていた。
滑走路を歩くこと数分で極東支部に着いた。地上70階ほどある建物を中心に東西に50階ほどの建物が1つずつ。11時、1時の方向には30階建ての建物が1つずつ。いずれの建物も中心にある70階の建物につながる連絡橋がある。
1階エントランスには数名の警備員とセキュリティゲートがある。
セキュリティゲートを通るため、AAS検査、ミリ波スキャナー検査を通してセキュリティゲートにて虹彩による生体認証を行う。
これが終われば検査の波は終わりだ。といっても30秒もかからないのだが。自分たちはただゲートに向かって歩くだけで、あとは機械がやってくれる。
すべての検査、認証を終えた俺があるこに気づく。美咲さん、白岡さん、レプリカも俺と同様に検査を終えたようだが川本さんがいない。後ろを振り返っても姿は見当たらない。
「あれ、川本さんは」
不審に思った俺は聞く。
すると白岡さんは気さくに答える。
「ああ、あいつ一応AAS患者なんだ。だからこのゲートくぐるとそりゃまぁ大変、大変」
「あ…、なんか、すいません…」
地雷を踏んだような気がして思わず謝ってしまった。だが、白岡さんは「いいのいいの、それに俺のことじゃねーし」と軽く返してくれた。
そんな話をしていると別のルートで検査を終えてきた川本さんやってくる。
気だるそうなその顔は、口を大きく開きあくびをしていた。
「川本さん、今日の検査は」
後ろからレプリカの声がする。
「今日もレベル3キープだって」
途中からあくびをしながら言っていたので聞き取りづらかったが、表情からするに大丈夫と感じられる。
すると川本さんがこちら、俺をじっと見てくる。
「翔、いくよー」
少し先から美咲さんの声が聞こえる。どうやら俺と川本さん以外は進み始めていたようだ。
それでも川本さんはその言葉に対し応じずに俺のことを見ているだけだった。
「コーヒー飲む?ミドリヤマウンテンならあるけど」
そういうと自動販売機の前に行こうとする。
ズカズカと少しキレ気味の美咲さんが近づいてくる。
「まぁたそうやって飲もうとする!治す気ないの!?」
「別にこんくらいじゃ…」
「塵も積もれば山となる!わかった!?」
「はい…」
俺は交互に行われる美咲さんと川本さんの会話を「あはは…」とただ傍観してるだけだった。
結局川本さんは俺にコーヒーを1本くれた。
エレベーターに乗り数十秒、目的の階に着いたようだ。ドアが開きさらにまた廊下を歩く。
歩いた先には二人の警備員がいる部屋。お偉いさんでもいそうな雰囲気だ。
レプリカはその警備員の許可をもらい俺達も入ることができた。
その部屋の奥には予想通りのお偉いさんがいた。背もたれが高い革を使ったような椅子に座り、腕にはキラキラと輝いている装飾が施してある時計をつけている。
見た目4、50くらいの年齢で髪は薄く金髪であるが全体的に白髪である。顔つきは…。
そう思った瞬間ふと脳裏によぎった。それは俺だけじゃないはずだ。見たことのある顔。
ニュースなどで多く見かけるこの男。
新制国際連合事務総長、「ラスカー・バクーニン」だ。
この男はただの事務総長ではない。世界87ヶ国を実質的に統治下に治めている「新制国際連合」の事務総長。それがなぜこんなところに。
それはここにいる誰しもが思ったことである。
するとレプリカが俺達の代弁者となりラスカーに尋ねてくれた。
「お初にお目にかかります、ラスカー・バクーニン事務総長。今回はどのような件でいらしたのですか」
「そうかしこまらんでもいい、レプリカ。初対面でもなかろうに」
そう言ってケラケラと笑っている。
「それにこの国は何度も来ているしな」
ラスカーはさっきと同じような陽気な表情で言う。
ラスカーに合わせて笑おうとするが、みんな緊張と恐怖で堅い笑いになっている。
「…今回は」
ラスカーは気を取り直すようにと一呼吸置いて言った。
「2人目の完全適合者が出たということで同士に会いに来た。ついでにF小隊とU小隊の報告も受けようか」
完全適合。そんなもの、俺にとっては宝の持ち腐れだった。