表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
T「ansmiG「ation  作者: ムービィ勝山
-Ragnarøk-
34/36

33話 分岐点

突然の雨。

その雨に打たれながらも、俺達は前に進む。

一歩、一歩、そしてまた一歩。それを何回も、何十回も繰り返す。

間を開け、細かく散らばるように降っていた雨は、やがて隙間を埋め尽くすように降る。

その雨の強さとともに、俺達の歩く速度も比例して、早くなっていく。

轟く雨の音、それはどこか強く、どこか悲しいものだった。

だがそんな音とは違い、なにか無慈悲な音が近づいてくる。

それは遠く、遠くのほうからだんだんと、近く。

雨の音よりも強く、すべてを切り裂くような音。ふと後ろを振り返る。

するとヘリコプターが一機、上空を低空飛行していた。

それはあっという間に近づいてきた。


「なんの音?」


川本さんが唐突に後ろを振り返る。それと同時に蓮田さん、白岡さんが後ろを振り返り川本さんの言葉の意味を探す。

それはもう上空、真後ろまで近づいてきていた。

そのヘリコプターは俺達の真上を遠慮なく通った。

その強風と切り裂かれた雨にさらされ、目をしっかりと開けることが難しかった。

そんな中でも状況を確認しようと、腕で顔を覆い、その隙間から自分のその目でしっかりとヘリコプターを追った。

そのヘリコプターは俺達の進行を遮るようにして、数十メートル先に着地した。

止まったプロペラは雨に打たれ、そのたびに雫を流している。


「救援か…?」


蓮田さんがそう言う。

だが、そのヘリコプターから出てきたのは、救援隊なんかではない。


「久しぶりだね!!」


黒ずくめの男が二人、片手に傘を持っている。

その二人はどちらもサングラスをかけていて、きっちりとしたスーツに黒いネクタイを締めている。

靴は革靴で、いかにもお偉いさんのボディーガードという出で立ちだった。

そして、その真ん中にいる男。

髪は薄く、金髪掛かっている白髪である。顔にシワはないものの、その見た目はゴツゴツとしていて、輪郭がくっきりとしている。

肌の色は俺達よりも白い。要するに白人だ。

するとその男は俺達の前まで来てこう告げた。


「神川!!どうだね、調子の方は!能力は開花したかい?」


それに対して俺は俯く。

すると蓮田さんが男に向かって言う。


「ラスカー事務総長、お言葉ですが…今はそのような状況ではなく…」


するとそんな言葉はお構いなしと言わんばかりにラスカーは俺に対して、耳元で言葉を告げた。


「そんなことだから、君は…」


違う、違う。


違う、違う。






「―仲間を殺してしまうんだよ。」


違う。

違う。違う。

違う。違う。違う。

違う。違う。違う。違う。


「何もかも、俺の意思じゃないんだ!!!違うんだよ!!!」



そう、自分に問いかけてもその手は離そうとしない。



「何が違うんだ、今現実に起きていることじゃないか―。」


違う、彼女を殺したのは俺じゃない!!


一体、何を言っているんだい、君は―。

彼女は誰にも殺されてはいないし、君は彼女を殺してはいない―。


「じゃ…、じゃあ…レプリカは…まだ…」


「そうだね、生きている。ただ…」


ラスカーはそこまで言うと、俺の手、いや、川本さんの方を見て一言いう。


「その手―。」




離してあげたほうがいいんじゃないかな、神川―。



「一体何を…」


俺はそう思い、自分の右手を見る。

すると俺の手は何かに埋まっていた。その埋められているものからは赤くて、鉄臭いものが流れ出ていた。

雨のせいでその匂いは少しばかりかき消されているが、それでも臭う。

そして、雨の雫はその赤い液体を滲ませる。

俺はふとして顔を上げた。

すると川本さんが、口から吐血して苦しんでいる表情を見せた。

なぜ苦しんでいるのだろう。だれがこんなこと。許さない。許さない。


絶対に自分を許さない。


「けが人が出てしまったようだね、いや怪我というより…」


俺はそうやって言うラスカーの方を、酷く唖然とした顔で見る。その顔はものすごくひどかっただろう。

ひどく、何かに縋りたいようなそんな、屑の顔をしていた。

ラスカーは話の続きをする。


「もうダメかもね」


ラスカーがそういった瞬間、川本さんの様子が急変する。

体は筋肉質になり、血管が浮き出る。瞳孔は開き始めていて、川本さんの体がだんだん熱くなっていく。

俺は急いで川本さんの体に貫通している手を抜く。


「小僧!しっかりしろ、どうしたんだ!」


蓮田さんはこういう。


「そんな…翔…」


白岡さんは絶句していた。

俺は何をどうすればいいんだ…。

どうしたらこの罪を償えるのか…。

どうしたらこの罪から逃げられるのか…。


「小僧!!一旦逃げるぞ!!」


聴覚の端の方からかすかに聞こえてきた蓮田さんの声。

今は逃げようと思うほど、頭は回っていないし、逃げる力もない。

このまま死んだら逃げられるだろうか、この世界の呪縛から。

逃れられない呪縛から。

でもいつもそうだった結果は同じで、死んだってなにも変わらない。

また最初から今まで背負って来た罪を繰り返すだけだ。

すると視界にはラスカー・バクーニンの後ろ姿があった。

その後ろには襲い掛かってくるAAS患者。

それに怯えずラスカーは、自分の片方の手をAAS患者に向ける。

すると突然、AAS患者は空中で動きが止まり、その直後に体がぐちゃぐちゃに捻り曲がって、中央に向かって何かに吸い込まれるようにして回転する。

そしてAAS患者の姿は微塵もなくなった。そこに落ちているのは川本さんが来ていた制服と、掛けていた眼鏡だけが無造作に落ちていた。


ラスカーは顔を、呆然としている俺の方を向き、一言告げる。


「自分の意思でなくとも君は仲間を殺してしまった。自覚がなくとも。殺してしまった、君は」


そうだ、すべてはここから狂い始めたんだ。

俺も、コイツも、誰も、みんな。

世界も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ