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T「ansmiG「ation  作者: ムービィ勝山
-Ragnarøk-
28/36

27話 コンテイジョン

大都市である岡京の中心地では今まさに大パニックが起きていた。

AAS患者はレベル7に到達し、理性を失い暴走。街中を無造作に破壊している。

AAS患者のその俊敏さと頑丈さ、それに破壊力は底しれない。下手に銃弾を撃てばこちらに気づくだけで掠り傷程度しかつかない。だが、一般警察がAAS患者用の麻酔銃を持っているとは思わないし、一般警察ができることはせめて時間稼ぎくらいだ。だがそれを行うということは自らが的となるということだ。

建物の間を利用したり、相手の目をくらませたりしない限り追いつかれ、やがて引きちぎられる、穴を開けられる、口を裂かれる、死んでしまう。

だが警察という仕事柄自分の命を張っても国民を守らなければならない。

そうでなくては存在意義がない。

彼らは必死に抵抗し、もがき苦しみ、しいては死に際でずっと苦しんでいる人もいた。

お世辞にもここは新大和皇国の首都とは言いがたい光景だった。無残にも肉片が飛び散らかり、赤く染まったアスファルト。辺りには鉄の匂いが充満していた。

その魂の抜け殻たちの中には、スーツ姿の男性や、小さな手で母親と思わしき抜け殻の手を握っている女の子。そして勇敢にも国民を守ろうと尽力した警察官や救急隊員。

遠くの方で鳴り響くサイレンの音がさらに恐怖させていた。

するとAAS患者はある女性を片手で持ち上げた。その女性はAAS患者が先ほど襲おうとした人だった。

その女性はもうほぼ力尽きていて、薄っすらと開いた目で周りの状況をなんとなく見ているようだった。

片手で持ち上げられた胴体は、重力に逆らおうとせずに丸まったような形になり、手足は力が入っておらず、無造作にされている。

だがまだ生きている。その女性はまだ生きている。

その事実を知ってもなお俺はどう行動に移したらいいのかわからなかった。

自分を可愛がればいいのか、輪廻転生を願うべきか。

自分を可愛がればまたひとつ罪が増える。輪廻転生を願えば俺は車道ぎりぎりに咲いている草になっているかもしれない。花も咲かせずに地味に、そして誰かに踏まれてしまう来世。罪人にはお似合いの来世であろう。

生きるか、死ぬか。俺は…


「…!?」


筋肉が増大した巨漢のAAS患者は、俺が投げた空き缶の音に反応し、俺の方を向いた。

AAS患者の興味はすぐに俺に移り、患者は片手に持っていた女性を地面に捨て、俺の方へ向かって歩いて来た。せめて俺がいないところで死んでくれれば罪の意識もなくなる。そうやって結局甘えてばかりで、逃げてばっかりで結局なにも成長できていない。

こんな調子だとユーリアに合わせる顔も…ユーリア…なにを言ってるんだ俺は。一瞬流れこんだ記憶はすぐに飛び出て行ってしまった。

俺はユーリア・イリユーシナという女性とはあったことはあるが、関わりは深くないはずだ。

それなのになぜ彼女の名前が出てきた…

そうやってぼうっと考え込んでいる内に、AAS患者は俺の前に立っていた。


「…え?」


俺は目の前が患者の影で暗くなったことでようやく気づいた。

その大きな体を見上げる。無慈悲にも彼は俺を殺そうとしている。

拳が握られた、その時だった。

遠くの方、正確に言うと先ほどまでAAS患者が女性を掴んで立っていた方向から獣の咆哮のようなものが鳴り響いた。

その姿は筋肉質な体で、目は瞳孔が開いている。髪型からするに女性だ。しかも先ほど男に襲われていた女性だった。

息は荒く上がっていてずっとこちらを見ている。まさにAAS患者の姿に酷似していた。

いや、あんな狂戦士じみた容姿は、普通の人間と思うには難しい。

AAS患者として断定してもいいほどだ。

その突然の出来事に戸惑いを隠せずにはいられなかった。


「なんで…二体も…」


完全に殺されると思った。

だが俺のその考えとは裏腹に、俺の目の前にいたAAS患者は後ろを向き、もう一人の女性のAAS患者の方に興味を示した。

一歩一歩、重い足取りで歩いて行く。

女性のAAS患者はそれをただ見ているだけだ。俺もそれと動揺にただ見ているしかなかった。

逃げることもせず、目の前で起きている事をただひたすら見るだけの…

すると男のAAS患者はいきなり女性のAAS患者に向かって走りだした。そのスピードは従来の患者と同様に凄まじいものだった。

そしてその二人のAAS患者は互いに、殺しあっていた。男の患者は女性の患者に対して先制攻撃を仕掛けるも、かわされてしまう。

すると次は女性の患者が攻撃を仕掛ける。

理性の失くなったレベル7のAAS患者同士で殺しあう。その光景は神話のよう。

北欧神話ですらありえなかった、巨人と巨人の共殺し。

本能の従うままに破壊し、殺戮する。その悲惨な光景は悲劇の天才でさえ描くことを躊躇うだろう。

ただ圧倒され、恐怖すら忘れ金縛りにあったように体を止めた俺は、なにもすることが出来なかった。

ただ無力だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「F小隊に通達、戦闘準備を整え至急最上階、ヘリポートまで集合」


腕輪型デバイスに連絡が入る。

それよりも気になるのは先程の轟音だろう。

少しばかり遠くの方で薄っすらと聞こえたサイレンの高い音、何かが崩れる音。

もし聞き間違いならそれはそれでいいのだろう。だがこのタイミングで戦闘の連絡が入ったのは何か関係があるのだろうか。蓮田とレプリカは同じようなことを考えていた。

そんなことを気にかけながら二人はエレベーターで、命令された場所、ヘリポートがある最上階へ行く。

何も不満を撒き散らすこともなく、平然と二人はヘリポートまでやってきた。

するとレプリカが気にするように言う。


「神川さんはまだ来てないようですね」


それに続いて蓮田も気にしていた事を言う。


「それにしても今回はU小隊と合同じゃないんだな」


二人とも、今までにない状況で少し気にしているようだが、その問にうまく答えるようにオペレーターから説明が入る。


「作戦指示です。今回は岡京似て発生したAAS患者の処理。数は一人と推測。それ以上の可能性は低い。神川悠世は外出記録が出ているので、現地にて合流してもらいます」


二人は耳につけた小型無線機でオペレーターの説明を聞きながら、操縦士の指示に従いヘリに乗り込む。


「U小隊は寄居美咲さん脱隊のため再編成を要しており今回は出撃できません。それに有人市街地戦のため、工兵による戦術よりも、ワクチン投与で速やかに倒して欲しいとのことです。それと…」


こうしてオペレーターが少し話を溜めると蓮田は「なんだ」と言う。

オペレーターが蓮田のその疑問に答える。


「いや、それが先ほどから神川さんとの連絡が取れなくて…こちらでももう一度試しますが、もし出来ればそちらでも試していただけないでしょうか?」


その言葉を聞いたレプリカはすぐに神川に連絡をとり確認する。

するといつまで経っても呼び出し画面。一向に連絡に応じる気配がない。


「蓮田さん…繋がらないです…」


レプリカは蓮田の顔を見て弱々しく言った。

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