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T「ansmiG「ation  作者: ムービィ勝山
-Ragnarøk-
27/36

26話 混乱

二ヶ月ぶりの更新で遅れてしまい申し訳ありません。

※今回の話では少し過激な表現が含まれています。読まれる際は十分に理解した上でお読みください。

「どうだ、彼の方は」


その男性、ラスカーは一人の少女に問いかける。


「まだどのような能力か…」


その少女、レプリカはそう言うと頭を下げてうつむく。


「兆しも見えていない、と」


再びラスカーはレプリカに問いかける。するとレプリカは顔を正面に戻し、「はい」とうなずいて答える。


「そうか…楽しみにしていたのにな…」


ラスカーは少し残念そうに微笑みながらレプリカに向って言う。


「申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに」


レプリカは頭を下げて謝る。


「そう頭を下げなくてもいい。君のせいではない」


ラスカーはそう言うと、レプリカの横に立つ。

そして彼女の耳元でこう囁いた。


「最近、彼との接触が頻繁に見られるな。控えるべきではないだろうか、レプリカ」


その言葉にレプリカははっとして慌ててこういう。


「も、申し訳ありません!…前にもうかがったのですが…その…なぜ…」


レプリカは目を逸らしながらラスカーに問う。

するとラスカーは威圧を掛けるようにレプリカに言う。


「君の代わりはいる。いざとなればオリジナルだって使ってもいいんだぞ」


またしてもレプリカはラスカーの言葉にひれ伏せられ、なにも言うことが出来なかった。

固まったレプリカを見たラスカーは、彼女の肩をぽんとたたき、意識を戻させる。


「まぁ俺ももうすぐ本部に戻らなければいけない。お前たちの顔を見られるのもこれで最後だ。最後の作戦内容は俺が直々にF小隊、U小隊に伝えたい。いいか、レプリカ?」


ラスカーはそう聞く。

レプリカは意識を戻し、ラスカーの顔を見上げる。


「も、もちろんです」


レプリカは正常な状態に戻ろうとする。

だが、レプリカが立ち直す前にラスカーが口を開く。


「じゃあよろしく頼む。明日また皆を連れてここに来てくれ」


レプリカは「了解しました」と返事を返した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


罪の鎖から解き放たれた今でも後悔は残っている。

だがそれは相手に対してのものではない。後悔というのは自分に対してのものである。

よって無意識的に俺は相手のことより自分のことを優先していた。

相手のことを優先して後悔をしているというならば、それは後悔ではなく、罪悪感そのものだ。

部屋に一人、俺は美咲さんのお見舞いに行くか行かぬか、一人葛藤をしていた。

やはり謝りに行くべきだろうか。

俺は寝転んでいたベッドから起き上がり、上着を羽織り部屋を出た。

美咲さんの病室はわからないが受付の人に聞けば教えてくれるだろう。

今まで病室に来てもらうことしかなかったので、ここに来てお見舞いの仕方がいまいちわからない。

まぁそこはなんとかなると思うが。

とりあえずお見舞いに行くために、手ぶらだと寂しいので街に出て買い出しに行くとする。

街というか、岡京の繁華街に出るのは久しぶりだ。

基本的に極東支部の中には必要な設備が整っているため、外に出なくても、食事、医療など生活に欠かせないものは揃っている。

趣味など特にない俺はそれで十分であるため、あまり外、街に出ることは無かった。

買いに行くものは…ベタだが、見舞い用の「花」と…それくらいしか浮かばない。

美咲さんが好きそうなものはなんだろうか。

食べ物は万人共通で失敗がないはずだ。それもいいだろうが、まず考えると患者が外部の食べ物を口にしていいのだろうか。

でも俺はやたらめったら缶詰をもらった気がする。そのおかげで後の食費には困らなかったが。

とにかく食べ物はとりあえず大丈夫だろう。俺の経験からすると。

いつの日か、美咲さんと話し合ったラウンジを通り過ぎ、廊下を歩いて行く。

エレベーターを利用するために、ボタンを押し、ドアが開かれるのを待つ。

待っている間はデバイスでちらほら時計を確認していた。

体感で約20秒。到着を知らせる音がなると同時に、エレベーターのドアが開かれる。

中から1人外に出てくる。俺はそれを待ち、誰も外に出ないことを確認して、エレベーターに乗る。

俺以外には3人乗っていた。

だが俺が目的としている一階に到着するころには、俺以外、誰も乗っていなかった。

やはりやることがないと、人間観察、周囲をよく観察してしまう。

よく見ると、あの人の服にシミがついているだとか、この人は指で軽くリズムを刻んでいるとか。

そういうくだらないことが唯一の暇つぶしである。

さて、久しぶりにセキュリティゲートをくぐる。

初任務以降、意識のあるときにくぐっていないから、久しぶりに感じる。

まぁ心配することはないのだが。

俺は普通にセキュリティチェックを通過し、エントランスを出る。

エントランスを出たといっても、まだ岡京の繁華街には出ない。

ここには首都機能が集中しているため、国会議事堂や、最高裁判所、首相官邸などの建物の群れを通過しなければならない。

だが、道がジグザグに曲がっているわけではない。

極東支部の中央エントランスから出れば、そこから繁華街まで真っすぐに伸びている道がある。

そこを素直に進めば街に出れるということだ。

その道のりはそこそこ長く、歩いて7,8分くらいかかる。

任務の帰りはヘリが近くのヘリポートまで送ってくれるので、あまりこの道は利用したことがないが。

とりあえずはこの道を、何も考えずに歩いていけばいい。

だが、俺はまだ美咲さんに何を買うのか決めていない。もし決められなかったら、美咲さんの事をよく知っているであろう白岡さんや、川本さんに聞けばいいことだ。

そして、俺が街に買い出しに出たのはもうひとつ理由がある。

レプリカに対してのお詫びだ。

彼女には本当に申し訳ないことをしてしまった。だからせめてものお詫びとして何か買っておきたいんだが…

感情をあまり表に出さないが故に、彼女の好きなものなどはあまり知らない。

というか全く持って知らない。

これもまた白岡さんたちに聞くしかないか…


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


久しぶり、いや、ほとんど初めてに近い。ようやく繁華街に出た。

初めて来たのは、母親と長崎のあの島に行った時に、少し立ち寄ったくらいだ。

しかも幼い頃過ぎて、ほとんど覚えていない。うっすら、ぼんやりとしか。

あとは適合試験に受け、その結果が出るまでの1週間ほどをどこかの部屋を借りて過ごした程度。

正直いってほぼ縁もゆかりもない場所だ。

街の中はさすがというべきであろうか。ビル群が所狭しと立ち並び、行き交う人々はスーツに身をまとったり、綺麗な革靴をコツコツと音を立てたりして歩いている。

第一級国民は格が違う。

それに痛いほどに視線を感じる。まぁ極東支部の建物が近くにあるからと言ってもほとんどの職員は乗り物を使って外に出る。今の俺のように、一人歩いている極東支部の職員を見ることなんて滅多にないだろう。

物珍しさに見られている、という感じだろうか。

ついでに自分用の私服でも勝って帰るか。

その時、だった。街の中央から響き渡る女性の悲鳴。

それは高い声で響き渡り、屋根や電柱に止まっていた鳥たちは飛び去っていった。

野次馬がなんだなんだと、悲鳴が起こった周りを囲み見物しようとしている。

俺も何が起きたのかを確認しに人混みをかき分けて、状況が見えるような場所に行く。

すると包丁を持った一人の男が、一人の女性の首を腕で押さえ、包丁を周りに突き付けて言う。


「俺から離れろ…いいから離れろ!!警察なんて呼ぶんじゃねぇぞ…呼んだら全員…はぁ…はぁ…殺してやる!!」


男は標準的な体型であり、服装は患者が着ている服、病衣だった。


「精神患者かよ…」


俺は人混みのなかで独り言を口にした。

男は相当興奮しているようで、口からはよだれが垂れている。

そのよだれが女性の肩や体についている。なんとも気持ち悪い。

だが、ここは男に刺激を与えないで一気に蹴りをつけることが重要だ。

俺は隙を伺いつつ、警察に連絡を取る。するとすでに何件連絡が入っているようで俺が伝えることはほとんど無かった。

警察が来るまで何も怒らなければいいが…

だがその考えは通ることは無かった。

男がいきなり落ち着いて少し離れた俺達、野次馬に話しかける。


「いいか…男ども…俺は今からこの女をどうすると思う?なぁ…」


そう言うと男は続けて言う。


「俺はなぁ…今からこの女をお前らの前で"食べてやる"。一緒に"食べたい"奴はこっちに来いよ…」


男はそう言うと不気味な笑いをする。それを間近で聞いた被害者の女性はさらに号泣して助けを求めた。

取り囲んでいる野次馬もなにやらざわついている。

「まじかよ…」「このゴミクズがッ…」「死ねよ犯罪者…」どれも男に聞こえないように小声で言っている。

するといきなり号泣している女性に向かって男が怒鳴り散らす。


「うるせぇ!!黙って俺のいうことを聞いてれば殺しやしねぇから!!」


そう言うと男は無理やり女性を押し倒し、ズボンを脱いだ。


「なぁ…俺をここまで追い詰めたのは、AAS患者に対してのゴミみたいな扱いをした世界が悪い。世界が悪いということはテメーも悪いんだよ。他人の苦しみを知らないで楽に生きやがってよッ…!!」


そんなくだらない言い草、ただのエゴでしかない。

その言葉を聞いた瞬間俺は一言男に聞こえるように叫んだ。


「待ってくれ!!」


すると男はこちらを向く。俺は男の方に向かって歩く。男はそれを見て俺を警戒し包丁を俺の方に向ける。


「なんだお前…俺を殺すのか…?それとも…一緒にこの女を…」


男は少々焦っている。

AAS患者のレベルがわからない以上、下手に刺激するとレベル7になって暴走する可能性もある。

AASワクチンなんて自由に持ち歩けないので暴走されたら対処のしようがない。

ここは慎重に行かなければ…


「俺も混ぜてくれ同士よ!!俺もしたくてしょうがなかったんだ!!」


辺りは静まり返った。

めちゃくちゃ恥ずかしい、周りの視線も凄まじい。ここで俺が危惧しなければならないことは二つ。

俺に便乗して野次馬の奴らが女性を襲いかかること。それとこの状況で警察が来ることの二つだ。

この状況で来てしまうと俺も共犯者になりかねない。


「おおそうか…!!お前も俺と同じ苦しみが…」


この男馬鹿なのか…!!被害者の女性から離れ、俺の元へ寄ってくる。隙がありすぎだ。

わざとなのか、それともただ単に馬鹿なのか…。

すると男の目つきが変わった。


「死ねぇッ!!この殺人鬼がッ!!」


まずい。男は包丁を俺に刺してこようとしてきた。

このAAS患者、異常な程に世界に対して、AAS患者の扱いについて憎んでいる。

自分の隙を見せてでも、被害者を開放してしまうような隙を作ってでも、新制国際連合の職員を、俺を殺そうとしている。

それは相当な感情がなければ出来ないことだ。まさに倒せるかわからない魔王から姫を救う勇者のようだ。

まぁ全然勇者という名に相応しくないが。

俺は突きつけられた包丁を少し身を避け交わし、男の手首を掴んだ。

そしてバランスを崩したところで、手首を一回転させ男を転ばせる。そのまま両腕を掴み、下に押し倒す。

その勢いで包丁が手から離れたところで、二度首に拳を入れ、念を入れるために顎に一撃を与える。

一度騒がしくなった周りは、その10秒ほどの間で静まった。

男は気絶し、倒れこんだ。

一応これで一見落着したのだろう。

ちょうどいい頃に警察も来て…って遅いか。

ひとまず事情の説明を促される。男は担架に乗せられ救急車で運ばれようとしていたその時、男と目があった。

その目は薄っすらと開いていた。その男は気絶していたのではなく、AASレベル7に上がるために体を少し休めていたのだ。それは本能的なものである。

まずい、早く仕留めないと暴走してしまう。第一なぜこんな大都市にAAS患者が…。

だが遅かった。男は担架のベルトを引きちぎり、救急隊員を殴り倒していた。

警察も警察で銃で脅しをかけるが暴走したAAS患者に効くわけもないし、街中で銃撃戦はまずい。

かと言って俺もAASワクチンを持っているわけでもない。

最悪だ…。

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