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T「ansmiG「ation  作者: ムービィ勝山
-Ragnarøk-
26/36

25話 罪悪感の鎖

「皆さん、お疲れ様です。前回の任務についての報告会をさせていただきます」


いつも通りの口調でレプリカはそう言う。過ぎ去ってしまったものだと、もう振り切ってしまったのか。

いや、それはない。

今でさえ、彼女は俺のことが憎く、恐ろしく、狂気に満ちた人間だと思われているに違いない。

俺が彼女にしたことは、誰がどう見ても有罪だ。

そして俺は人としての罪を二度も背負った。いや、三度目か…。

ヴィダールには実の父親を己の手で殺めようとさせ、美咲さんの自由を剥奪し、レプリカの心を抉り抜いた。

俺はどうしようも無かった。

どうしようもなく、救いようもない世界の廃産物だった。


「前回は、旧関西国際空港にて目標の確認と処分でしたが、無事任務は達成、全員帰還しました」


レプリカは続けてそう言った。

このミーティングルームにいるのは、俺を含め5人。蓮田さん、川本さん、白岡さん、レプリカだ。

レプリカ、蓮田さんを除いた俺を含めた3人の表情はあまりよろしくなく、若干の張り詰めた雰囲気が全体を覆う。

その中でも俺は悪い意味で一番浮いていたのだろう。

誰よりも絶望し、とてつもない孤独感と虚無感に心が侵されていた。

そんなことを遮るようにレプリカは淡々と話す。


「一人はAAS患者、もう一人は新制国際連合の元研究員の女性と判明。この女性は自分の子供がAAS患者になったことを理由に退職。その後政府管理区域の病棟から子供を連れ、逃走。逃走後は度々、旧関西国際空港に足を踏み入れていることがわかっています」


蓮田さんはレプリカの話が耳に入ってない俺達を見かねたのか、レプリカに問いかける。


「たまたま俺達の任務と、その女性が空港に来たタイミングが同じだった…と」


するとレプリカはその問に黙りこんでしまう。

彼女は至って普通に悩んでいる。

そうして悩んだ挙句口を開いた。


「…それかもしくは…女性とAAS患者を同時に処分するために…かと。今回、任務の目標に正確な数は無かったので新制国際連合側は不慮の事故としても処理できるはずです。それに一応犯罪者であるというのも利用しているとも…思えます」


レプリカはそう言ったあと、少し黙りこんで、落ち着いたところで「すみません…」と謝った。


「悪いな譲ちゃん、そんなことを言わせてしまって」


蓮田さんはレプリカの謝罪に少し驚きつつも、冷静に返した。

今は廃止された関西国際空港が、誰にも見つからず安全だと認識したのだろうが、見つかってしまったというわけか。

そもそも規制線がはられている時点で諦めるべきであろうものを…


本当に呆れる。


俺の思考スイッチが急に切り替わった。

自分で自分を責め続け、挙句の果てに他人の行いに呆れ、世界そのものに呆れを感じた。

こんな自分、ましてや周りの人間なんてどうでもいい。


「早く楽になりたい。」


思わず声に出してしまった。皆の視線が俺に集まる。

そして蓮田さんは俺の方に向って歩いてくる。

その後、俺は蓮田さんに引っ叩かれた。思いっきり。それも豪快な破裂音とともに。

だがそのおかげで閉じこもっていた心が、外に飛び出た。

それは俺だけではない。

俺と同じような感情を抱いていた、白岡さん、川本さんの二人も、その音とともに目を覚まし、もう一度音がなった方を、俺の方を見た。

俺が視線を上に向け、蓮田さんの事を見ると蓮田さんは口を開く。


「甘えるんじゃねぇぞ、小僧。」


そう言うと蓮田さんは俺の元から離れ白岡さんの方に行った。

すると蓮田さんは、白岡さんと川本さんの頬も叩いた。

そして蓮田さんも、自分の顔を、自分の両手で挟むようにして思いっきりぶっ叩いていた。

その頬は赤くなっていた。


「申し訳ないな、譲ちゃん。話がずれてしまって」


蓮田さんはレプリカに微笑みながら謝る。

なぜあの人はそうしていられるのだろう。それは心の差であり、経験の差。少なくとも、俺のようなヘナヘナした不器用な人間には、到底模倣することの出来ない心であろう。

それが蓮田勝義だった。


「あ、いえ…別に構いません…」


レプリカは急に声が掛かったのに対応しきれず、戸惑いを隠しながら受け答える。


「これで報告会は終わりとします。皆さん、ゆっくり休んでください」


そしていつものペースに戻ったレプリカは、落ち着いて最後を締めた。

その後、すぐにレプリカはこの部屋を後にした。

それに続いて、蓮田さんも部屋を出て行く。

白岡さん、川本さんも合わせて出て行く。そうして最後に部屋を出ることになったのは、俺だった。

俺は特に何もないまま、白岡さんと川本さんの後をついていくように歩く。

元々、途中まで行く先が同じなので、ついていく形になってしまう。

蓮田さんは、俺達とは別の方向に歩いて行ったため、川本さん、白岡さんが横に並び、俺がその少し後ろを歩く形になっている。

途中、気まずさのあまり、別の道を行こうかと悩んだが、二人にそれを悟られると、関係にさらに亀裂が入り状況は悪化する一方だろう。

そうやって俺は俯いていながら、歩いていた。

だが、突然目の前の二人の足が視界に入り、足が止まったのがわかった。

二人にぶつからないように、俺も流れに乗って止まってしまった。

すると白岡さんが二回、両手で頬を押しつぶすような感じで、顔を叩いた。

パチンという破裂音が、綺麗に俺の耳に届く。


「このままじゃだめだ!なぁ、翔、神川くん!」


俺はその言葉に驚いた。

「神川くん」。白岡さんは確かにそう呼んだ。俺のことを。前と変わらずに。

そこで俺は思った。もしかしたら俺は無駄な心配をしていたのではないか。

罪悪感に捕らわれ、勝手に自分の妄想世界に入り込み、現実との区別もつけずに。


「蓮田さんにまた怒られるし」


「そこなの?」


白岡さんの言葉に対して、川本さんが流れるようなツッコミを入れてくる。

このやりとりを見ていると前と変わらない画が見えてくる。

俺は、何を恐れていて…

そんなことすら忘れるような開放感、そして、不安が取り除かれていく。

積り積もった自分に対しての、後悔、怒り、不安、負の感情が浄化されていく。

罪悪感すら消えかかりそうだ。

美咲さんの自由を奪った罪悪感すら、

消えてしまいそうだった。


「神川くん、また俺がさっきみたいになったら叩き起こしてね」


白岡さんが後ろを振り向き、俺の目をしっかり見て話した。


「逆に何しでかすかわからない時もあるから、その時は息の根止めてあげてね」


川本さんが冗談を交えて話してきた。

すると白岡さんは、川本さんが俺に向けていった最後の一言に文句をつけていた。

ここで俺が「はい」と答えれば前のような生活に戻れる。

また迷惑をかけてしまうだろう。でもこの人たちならフォローしあって助けてくれるはずだ。

今までだってそうだった。ここにはいないが、蓮田さんは俺と一緒に戦ってくれ、白岡さんは見かけによらず真面目なところもあり、頼りになる。ヴィダールの時は白岡さんがいなければ、俺は死んでいたかもしれなかった。俺だけではない、ヴィダールも。美咲さんだって。

川本さんは影の大黒柱だ。見えないところでいつも頑張ってくれている。それに不器用だが、先輩らしい事を積極的にしてくれる。特にミドリヤマウンテンとか。

レプリカも…してくれるはずだ。

彼女には悪いことをしてしまった。後でちゃんと謝り、ともに歩んでいかなければならない。適合者として。

だが、俺が「はい」と答えて、美咲さんへの罪悪感が見事に消え去ってしまったら、その鎖が解けてしまったら、俺は終わりを迎える。

かといって「いやだ」とは言えないし、こちらも言いたくもない。

だから俺の返事は…


「はい、白岡さん、川本さん。これからもよろしくお願いします!!」


白岡さんと川本さんが俺の言葉を聞いて安心するとともに、俺に向って微笑む。


俺はその笑顔を見て、美咲さんに対する罪悪感の鎖が解けた―。

3月28日追記―お久しぶりです。更新が滞ってしまい申し訳ありません。

       4月中に第26話を更新できる予定ですので今しばらくお待ちください。

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