14話 望む安堵の残響
下記の訂正終了しました。
この話から「川上さん」という「川本さん」のなりすましの人が出てきますが、気にしないでください。
川上さん=川本さんとしていただければ結構です。
本当に申し訳ありません。後日訂正させていただきます。
なお誤字脱字などに気がついた読者様がいればコメントしていただけると幸いです。
治療が始まって1週間くらい経った。白岡さんが来た後は川本さんが来たくらいで、その後は特に目立ったこともなかった。
レプリカは当然来ないだろうし、美咲さんだって恐らく、俺に腹を立てているだろう。
看護師さんがあと1,2日経てば外室許可が出せる、と言っていたし、病室から出れたらすぐに謝りに行こう。
日付が変わるたびにそう思ってる気がするが。
自分の心が何気なく繊細ということに少し呆れてしまった。
蓮田さんはまだ退院出来ていないのか、来てないだけか。後者は精神的にダメージが大きい。
すると突然、腕輪型デバイスに電話の通知が来た。
表示されている名前を見ると「蓮田 勝義」の文字が。
誰から聞いたのかは知らないが、他人のデバイス識別番号を安易に教えるとは。恐ろしい世の中になったものだ。
誰から聞いたのかは知らないが。
とにかく俺は電話に出る。
「はい、蓮田さん。退院したんですね。おめでとうございます」
とりあえず一言。
しばらくすると2,3週間ぶりに聞く低く渋い声。初任務の時くらいしか会っていないので久しさに新鮮さが加わる。
「小僧、久しぶりだな!おかげで調子は戻ったよ」
相変わらず誰にでも「小僧」なんだな…。前に白岡さんがそれを直せって言ってたが、直ってる気配はない。
別に俺は構わないが。
「それで…、譲ちゃんと一緒に来てるんだが、開けてもらえるか?」
え?「開けてもらえるか」って、今病院内にいるのか…。通話は禁止だぞ…。
それに譲ちゃんってどっちだよ…。レプリカでも気まずいし、美咲さんでも気まずい。
どっちかわからないと心構えが出来なくてつらい。白岡さんの気持ちがわかった気がする。
すると遠くの方で若い女性の声が聞こえる。
「蓮田さん、ここを押さないと…」
その女性は呆れたような感じで言っていたが、それ以上のことは読み取れなかった。
少し経つと前と同じように入室許可申請が届いた。俺はそれを見て、蓮田さんとの通話を切る。そして俺が許可するとドアが開かれる音がする。
二人分の足音が聞こえる。
「よう、小僧!元気にしてたか?」
開かれたカーテンからは久しぶりに見る蓮田さんの顔が。まだ二回しか会っていないが。
蓮田さんは俺のすぐ横、顔の辺りにある椅子に腰をかけた。
そして蓮田さんの後ろに続いて入ってくる女性。美咲さんだった。
だいたい予想通りだったものの曖昧な心構えな上に、どんな顔をしていいかもわからなかった。
すると美咲さんから口を開いた。
「ごめんね、早めに来ようと思ってたんだけど、思ったより治療が長引いちゃって。大したけがじゃなかったんだけどね」
美咲さんは笑顔で言う。ただ少し、申し訳ないという気持ちが込められた、控えめの笑顔。
唐突のことでしかも予想外の反応。それに驚いて返す言葉を間違える。
「いや、全然大丈夫ですよ…」
謝らなければならないのに、違う言葉が出てきてしまった。
訂正しようと思う時間もないまま、また美咲さんが口を開く。
「じゃあ私行くね。今日もまた治療なんだ」
そんなに重症なのだろうか。まえに白岡さんが言っていた、体が動かないことについての治療だろうか。
そんなことはわからないが、とりあえず俺も「また今度」と挨拶を返した。
ドアが開けられる音がした後、美咲さんの足音はドアの閉まる音とともに消えていった。
その後、数十秒の静寂が訪れた。
なんとなく、この静寂が心地のよいものに感じられた。普段とは何も変わらないはずのただの静かな空間。
今までの疲れと肩の力がようやく抜けたような気がする数秒であった。
「小僧、いつ復帰できそうなんだ」
蓮田さんが問いかける。
「あと5,6日くらいで治療が終わるって言ってましたけど、完全に治るのかどうかは…」
俺は曖昧な回答で返した。
今度は俺から質問をする。
「蓮田さんは治療が終わってからどのくらいで復帰って言われましたか?」
すると蓮田さんは「それがだな、小僧…」と言い、次の言葉を発するまで、少し間を置いた。
「治療終了後にはムッキムキのモッリモリだったぞ!!」
蓮田さんは一人陽気に笑った。要するに、治療終了後には体は元通りということか。
なら心配することはないだろう。次の任務にも問題なく行けるだろう。まぁどのタイミングで任務が発生するかわからないが。
「そうだ小僧」
蓮田さんは笑い終わり、落ち着くと俺に問いかけた。
「お前さんも少しは成長したのか?」
そんなこと言われても、まだ2回しか任務に参加してないし…と思いつつ素直に答えた。
「あまり大きな成長は自分でも自覚してないですし、前回の任務では迷惑かけちゃって…」
それを聞いて蓮田さんは「そうかそうか」と言う。
その顔はまるで母さんのような暖かく、優しい笑みだった。
すると今度はころっと話題が変えて話してきた。
「譲ちゃんとは、あれからうまくやってるのか?」
恐らく今回の譲ちゃんはレプリカのことだろう。
ここでも素直に答える。
「レプリカとは…あまり…」
蓮田さんは俺を見守るような目で、俺の話を聞いていた。
「そうか。俺も譲ちゃんが何を忌み嫌っているのかは知らんが、俺がやれることはやってやろう」
蓮田さんはそう言ってくれた。だが俺は蓮田さんとは違った。
「別に大丈夫ですよ。彼女が関わるなって言ってるなら無理に関わらなくても」
蓮田さんはじっと俺の方を見た。真剣な目で。
「レプリカの言ってる通り最低限の関わりだけでいいと思うんです。彼女も「最低限」と言ったからには仕事には影響を出さないつもりでしょうし。俺も別にそれでいいかなって」
すると蓮田さんは椅子から立ち上がって俺を見下ろして言う。
「だめだ。必ず支障をきたす」
当たり前だがその時は一切笑わなかった。
俺は少し反論しようとする。
「だから…」
だがその言葉も蓮田さんの勢いにかき消される。
「それにF小隊とU小隊の皆でパーッと行きたいしな!じゃあな小僧、体は大事にすんだぞー」
そのまま蓮田さんは部屋を出て行ってしまった。
「…」
先程までの喧騒が心の中で残響する。
そしてそのまま目を閉じた。




