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前編

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十九弾!

今回のお題は「都市」「ゲーム」「決断」


8/3 お題出される

8/8 ちと気合入れすぎたプロットであるにもかかわらず気づかずにそのまま書きはじめる

8/10 そしてこのザマである……orz


作成は計画的に……

 僕は天涯孤独の身として、師匠に拾われた。厳しいお人ではあったし、外界に対して僕が“世間知らず”になったのはあの人のせいだし、何かと喧嘩の絶えない間ではあったけど……だからって、こんなのは望んでない。


「止めてよ! 師匠、僕は……あなたを、あなたのような存在が……母親……」

「さぁ、剣を取れ、イデアを憑けろ! 馬鹿弟子の成長を、この私を倒して見せてみよ!」


 遥か摩天楼の天辺、雲海を見下ろす廃墟の吹きっ晒し。最強の敵と僕は対峙することになった。


「どうした? 戦わねば、お前がここまで駆けてきた理由も露と消えるぞ」

「解ってます……」

「守ろうとしてきたんだろうが! ここで投げる気か!?」

「投げません……」

「お前が初めて下界に興味を持てた、その暖かさをくれた人間を、お前は見殺しにするか!!」

「見捨てません! 絶対に!」

「なら剣を取れ、私を殺して見せろ! 馬鹿弟子めが!!」


 師匠が跳躍と共に剣を振り上げる。その刃は迷うことなく、僕の頭上に振り下ろされた。


「そうだとしても、僕は……!」





 こうなるに至るに、約2ヶ月前の出来事から話すべきだろうか?

 順を追って説明をしよう。


 僕は戦災孤児であった、と師匠は説明してくれた。どうやら、僕が生まれる前に世界を統一するための大きな戦、『最終戦争』が終幕を迎えたらしい。その戦争は相手を選ばずに、命に須らく恐怖と苦痛をもたらしたと言われている。で、僕はその戦争で、窯の中に避難させられていた赤子だったらしい。

 丁度この戦争から『畏念使い(イデアリスト)』と呼ばれる異能の者たちが導入されたらしい。彼らは『畏念具現機(イデオロギー)』という装置を用いて超常の現象を起こす者で、『最終戦争』に置いてこの『畏念具現機』と上質な『畏念使い』がどれだけいるかで戦局は大きく変わったらしい。

 『最終戦争』以前、世界はいくつかの国家に分かれ、科学と医学により人類は100を越えて年月を生きて来たらしい。だが、『最終戦争』の時、世界の形を変える最終兵器として、“人間の思想、空想、妄想”の兵器化を行ったらしい。人の思考を現実に反映する物体を用いて、科学より生まれた、科学の域を跳躍した新しい世界の理……それが『畏念(イデア)』と呼ばれる技術……それは人々の生活に影響を及ぼさなくても、国の形や力の在り方、戦争を大きく変えた。SFだとかファンタジーとか、そういう世界の事柄が現実になったのだから。とはいえ、制御は難しく、一般にこれらを使える人間はごく少数であり、故に恐怖と畏敬の念を抱かれた存在として扱われた。それはそうだ。『畏念』は使う際、“憑ける”とは良く言ったもので、使用者の姿かたちは異形の者へと差し替わるからだ。恐ろしげな、破壊を思わせる姿へと……

 とまぁ、僕がこれだけ知っているのも師匠の受け売りだったりする。うちの師匠が、その『畏念使い』の中でも屈指の人であったらしく、僕は物心付いた時には一般的な『畏念使い』は越えていたらしい。……らしい、というのは、僕が世間知らずに育ったからである。この師匠……そういえば年齢は知らないが、おそらく30代だと思われる女性、名を『エルヴカンブ・ロイ・キャスター』と……曰く偽名だそうで……。人間嫌いで有名で、ズボラで家事は彼女の『畏念』で具現化した小鬼と彼女の弟子……つまり僕に任せて本人は引き籠もって何かの研究に没頭。それに合わせて人里からはるかに離れた場所へ住処を写し、もっぱら皮肉を込めて、住処の外を“下界”などと称する……要するに扱いにくい変人だ。

 そんな人の元で15年。僕は彼女の『畏念』により造られた空飛ぶ浮島の中で育った。

 大きさにして50メートル平米の苔むした岩の塊にちょこんと建てられたこの白塗りの洋館が、僕の15年間の住処だ。ある意味檻に似ているが、外出は自由だ。僕だってその気になれば『飛行型畏念』を憑けれる。でも、僕は下界に興味を失っていた。いや……正しくはそうじゃない……でもまぁ、実際、下界を見下していたし、興味も抱けなかった。


 2ヶ月前までは……


 その日も、ズボラ師匠の代わりに屋敷の掃除、脱ぎ散らかされた衣服の回収と酒の臭いに巻かれてあられもない姿で転がる頭もじゃもじゃの女性が、寝ぼけて酒をこぼしたシーツを彼女から引きはがしてそれらを洗濯。


「あー、またそんな恰好で……お腹下しても知りませんよ」

「ん~……ああ……ヘスティ……あと、あとぉ……」

「はいはい。1時間は起こしませんよ」


 ヘスティとは僕の名前だ。竈の女神から取ったらしい。……なんで女神から取ったんですか師匠……とはもう15年言い続けている。

 続いて、師匠の『持続型畏念』である小鬼(コッペリア)と協力して家事全般を切り盛り。


「コッペリア、冷蔵室から干し肉1キロと卵3つ、あと……なんか葉物野菜で悪くなりそうなのを片っ端から持って来て。僕は書簡の確認してくるよ」


 下界から送られてくる書簡の確認をし、その9割を不要と判断し庭先の専用のゴミ箱へ投擲。


「ふーん。相変わらず、戦争のお誘いですか……丸めて……狙ってぇ……よし! 入った!」


 師匠が起きてくる前に料理の下ごしらえと竈に火を入れて、時計の確認。いつもならあと30分は起きてこないので、コッペリアと協力して雑巾がけを行う。

 と、ここまではいつも通りのせわしない日常だった。だがこの日、珍しく僕はミスをした。机の上に置いた書簡のうちの一つを、誤って雑巾がけのバケツの中に落としてしまった。


「ああ! まずい、コッペリア、そこどいて! 暖炉の火の当てよう」


 書簡はしわしわに縮まり、無事には見えない。やってしまった……

 と、ここで更に僕は魔が差した。


「……中身が大丈夫か、確認しないと……ね?」


 コッペリアが低く唸って抗議するが、僕は口元に指を立ててコッペリアに黙っているように頼んだ。小鬼は顔を押さえてため息を漏らした。

 僕は慎重に、暖炉の熱で乾かしながら、ゆっくりと封筒を開いた。湿った紙はお互いに張りつき、ペリペリと糊を離すかのような感覚の作業が進む。インクが色移りしながらも、だいたいは読めそうだ。どうやら、良い紙とインクを使っているらしい。


 ふと内容に目を通した。……どうやら、『畏念使い』による娯楽の誘いらしい。僕はため息をついた。と、同時に僕の背後でもため息が一つ。


「確かに書簡の選定は5年前に言い付けたな。しかしだ……その時に厳重に注意したよな? ……な?」

「え、あ……その、中身も乾かした方が、と……」


 髪の毛がぼさぼさになって固まった、下着姿の女性は眠たげな眼をこすって欠伸をした後、一息ついて僕の顔を覗き込んだ。酒臭いと同時に、その眼の奥には微かな怒りが籠っているのが見える。


「……はぁ?」

「う……は、はい……すみ、すみません……」




「で?」


 師匠は朝食(すでに昼時は越えている)を食べながら、僕を正座させて聞いてきた。


「で、とは?」

「その手紙、読んでみて何を感じたか、と聞いている」


 先ほどの『畏念使い』を娯楽に使おうという企画の誘いの事らしい。僕は思ったことを口にした。


「馬鹿げてるかと。あんなのに参加するなんて気がしれません」

「ふむ……なるほどな……すこし、籠の鳥過ぎたかもしれんな」

「はい?」

「うーむ……」


 師匠は椅子を後ろに倒し、椅子の足の後ろ二本でバランスを取りながら何かを考え、そして……


「よし、お前、これに参加しろ」

「は!? え? はぁ!?」

「これ、私への書簡だったわけだが、お前が開けてまずお前が目を通した。それに、この……あー、と……『リヴァイアサンレース』とやら、下界の『畏念使い』たちの最高峰が来るそうじゃないか。お前の実力を見る良い機会だ。私はどうやら審査員枠で呼ばれているようだが……審査員の役得でわがまま言えば、選手枠の増設も出来るだろう。ほうほう、ゴールにたどり着けば良い、手段は問わず選手間の妨害攻撃自由、と……ほほぅー」


 僕は思わず立ち上がり、抗議の意を示したが、間髪入れずに……


「参加、しろ! 命令だ」

「いえ、しかしですね……」

「嫌というのか?」

「う……」


 少々の沈黙が流れる。

 師匠がにやりと笑いながら言う。


「よーし。決まりだな。久々の下界だ。6週間後に降りるぞ。準備しとけ」


 ため息をついた僕に対して、師匠が続けて言う。


「ああ、そうだ。お前に特権を与えよう」


 僕は師匠をいかがわしい者を見る目で見た。


「なんだその顔は。感謝するがいい。審査員として呼ばれているばっかりに、現在出場する選手の名前と現在の住処が解っている。……あとは分かるな?」

「……どんな人物か盗み見ろ、と?」


 確かに『知覚系畏念』を使えば、名前と住処が分かっていればだいたい覗き見れるだろうが……それって


「ズル、ですよね?」

「勝ってこそ官軍だよ、ヘスティくん。……要らないかい?」


 その発言とニヤリ顔は悪者です、師匠。とまぁ、差し出された名簿を受け取る僕も悪者でしょうが……



 そして、僕は名簿の上から参加者の様子をズルして確認した。僕の持つ『知覚系畏念』、一つ目入道(サイクロプス)によって、遥か遠方の人間をすぐ傍で見ているかのように視認する。幾人かの有象無象の参加者を呆れながら見ていき、そして……彼女を見つけた。

 白い肌に白い髪はサラサラと流れる。光を受けて反射する長いまつげの奥にある鳶色の瞳。小さく愛らしい鼻とうっすらと赤みを帯びた頬と、潤いを感じる唇。清楚な行動と静かな物腰。そのガラス細工のような指で宙に光をなぞり『畏念』を体に憑けるも、ゆったりとした服で隠して奥ゆかしくも力強い。

 彼女の名は、メイディア・リラ・ルー。僕は、彼女の名前を必死に覚えた。何が僕をそうさせるのか分からなかったが、暇さえあれば彼女を見ていた。

 彼女が師匠と全く違う、今まで出会った事の無いタイプの人間であったことも確かかもしれないが、それだけじゃなく、彼女が『畏念使い』としても強力であったことも、僕の目を引くに至った原因の一つだろう。


 『畏念』は使い手によってその姿かたち、強さを変える。心の強さや想像力の強さが『畏念』の質を決めるらしい。

 主に僕の持つ『畏念』は7タイプ。『知覚系』『移動系』『潜行系』『遠隔系』『支援系』『防御系』そして『攻撃系』だ。師匠曰く、多くのタイプを持つことは精神に異常を来しかねない危険な事らしく、師匠ですら5タイプまでしか持つことはできなかったらしい。

 しかし、今僕が見ている彼女は6タイプまでを制御している。しかも、『遠隔系』と『潜行系』のタイプは僕の持つ『畏念』より強力だろう……。僕は、妙な掻痒感に似た感覚を抱いていた。自分以外にも、とても強い人間が居るという事。師匠と自分以外に居るという事が、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。

 彼女と会いたい。会って、彼女の強さをこの目で見たい。なにより、彼女の使う『畏念』の美しく愛らしいフォルムと、その強さの差に心ふるえた。

 童話の世界の登場キャラクターのように愛くるしい兎や熊と言った動物たちが、真っ白な彼女の肌に負けないほど白く輝いて彼女の周りに顕現する。更には、その『畏念』を発信地点に更に別タイプの『畏念』を顕現してみせていた。なるほど、そういう使い方も有るのか……!(この後、僕も真似してみたが、全くうまくいかなかった。彼女のすごさに震えたのは言うまでもない)


 他にも、十羽一絡げの有象無象ではない参加者もいた。特に気になったのは、ルーを除いて3人。

 ウラド・ドゥシュテル・ミリアリアという女性は、最初『一つ目入道』で覗いた時に姿を確認できず、その存在自体が確認できないほどの『潜行系』に特化した『畏念使い』らしい。主に黒い色を好むようで、彼女の居る広い修練場(多分、彼女の為に用意された、広さ200m平米は有ろうかという空間)を顕現させた『畏念』で覆い尽くしてした。巨大なのか、それだけ無数に分裂させるか……


 次に気になったのがアリギエリ・トーラス。僕の持っていない『妨害系』に特化した『畏念』のようで、修練相手であろう相手が皆壁に埋まっている事を確認したが……それ以上の情報は得られそうになかった。というのも、彼の視線や体の捌き方から見て、どうにも……“僕のように盗み見ている存在”を警戒している。『知覚系』にも優れているのか、それとも、頭が切れるのか、注意深いのか……


 そしてもっとも驚いたのが、クロウリード・アレスター……歳は僕より3つほど上であろう美青年で、彼もまた5つ以上の『畏念』を持つようだ。……ようだ、というのは……


「とまぁ、ここまでが、俺が君に明かせる、俺の情報だよ。覗き魔くん」


 僕が『一つ目入道』で彼の屋敷に入り込んでいたのを、見事に看破し、トーラスと違い確かに僕の方を見ながら僕に自分の手の内の一部を公表したのだ。


「そう怖い顔をしないでくれ。君のような覗き魔が来ることは百も承知だったさ。今週は君で32人目だ。40人に行くか行かないかで、仲間と賭けをしていてね」


 アレスターは笑いながら、僕に自身の屋敷の中を案内して見せた。豪華な調度品に広い豪邸、多くの使用人……はさすがに僕の存在に気付いていないようだった。要するに、財力と権力がすさまじいと言いたいのだろうか?


「ああ、財力と権力だけじゃない。誤解してもらっては困る……来い、『コキュートス』!」


 そう言って、彼は自身の右手に燃え盛る様な『畏念』を憑けた。そしてその腕を屋敷の中庭に、何かを放り投げるかの様に振って見せる。直後、中庭に生えていた木々は一斉に拉げ、空間そのものが丸く削り取られたかのように物体が無くなっていた。その後一拍置いて、あたりの物という物がその削り取られた空間を埋めるように引き寄せられて行き、ゴミの塊を形成してからばらけて落ちた。


「暴力もある。俺は、『攻撃系』の『畏念』に特化してるのさ。『防御系』も……もちろん『知覚系』もね」


 そういって得意げに笑う薄ら顔を確認するのに飽き、僕は『一つ目入道』を切った。


 僕は、この『リヴァイアサンレース』とやらが、楽しみになっていた。ルーに会えることもそうだが、何より……僕と同じか、それ以上に強い人たちと競う事が出来る……それが何より……





 それから6週間、約ひと月と半分後、僕と師匠は『リヴァイアサンレース』の会場である廃墟SHIBUYAが見える人工都市、ドラグヴァンデルに移っていた。

 主に『最終戦争』で呼び出されたとされる『畏念』たちの影響で砂漠化したとされる地表に、これまた別の『畏念』で都市を丸ごと一つ持ち上げている。これが人工都市だ。元々地表に残っている元来の都市とは違い、天然物の食糧が無い代わりに医療や交通、何より……


「おお! 見てみろヘスティ! スイーツだぞ! あ、向うは映画の上映施設らしい。そこでアイスを買ってから言ってみるか?」


 娯楽も絶えない都市であるらしい。


「いえ、それより先にホテルと会場の情報収集を……」

「何を堅いことを言ってるんだ? 何のために2週間も余分に来たと思ってるんだ」


 師匠が僕の頭をわしわしと撫でながら言う。

 僕は、師匠がこの2週間を有意義に使ってくれるのかと口にしたが……


「遊び倒すための2週間に決まってるじゃないか!」


 期待は秒速で破られました。

 師匠が片っ端から娯楽施設を回るのを、僕は荷物を抱えながら追いかけることになった。せめて少しは自分で持ってほしい。


 後にして思えば、師匠の気遣いだったのだと思う。……まぁ、この時から一週間は、わりと楽しかった。ドラグヴァンデルでは色付きの砂糖や口の中の水分に反応して跳ねまわる飴、指で触れても溶けないのに口の中に入れると溶けるアイスが流行っていたようで、なかなか美味しかった。一方で噛まずに飲み込めるほどほどける肉、チョコ味の野菜と……一度食べれば十分な物も多かったが、僕は師匠に連れられて観光を楽しんだ。映画も初めて見た。大きなスクリーンと大きなスピーカーとで、大音量で流される作品の空間を堪能した。最初こそ師匠の付き添いだったが、次第に僕も楽しみ初め、気づけば二日酔いの師匠を引っぱりまわしていた。……そういえば、この一週間は師匠に怒られなかった気がする。要するに……思い出作りだったんだろう。



 それはそうと、僕としては別の目的も有った。もちろん、ルーを探していた。いやまぁ、他の3人も探していた、という事にしておこう。……うん、ルー以外探してなかった。『一つ目入道』で彼女の住処を覗いてみたが、既に居ないようだった。もうこっちに向かっているのだろうか? もうこっちについただろうか? どこにいるだろうか? 直接見てみたい……真っ白な彼女を。彼女と、話が出来たら……何を話そう?


「上の空だね、ヘスティくん」


 師匠のデコピンを額に受けて、現実に連れ戻される。

 食感のある食べ物が出る路地裏の小汚い小さな店で、炊き込みごはんの大皿を師匠と二人で囲みながら、僕は白昼夢に沈んでいたらしい。


「あ、すみません。今とりわけを……」

「いやぁ~、なかなか見ていて面白いなぁ、とね」


 意地悪な顔で頬杖をついて師匠は、とりわけ用の大きな鉄のスプーンを手に取った僕をまじまじと見ている。


「なんですか?」

「いやぁ~いやぁ~、良いねぇ~ 青春だぁ~」

「……」


 思わず炊き込みご飯に入っている貝を、貝殻だけ選んで入れる意地悪をしながら睨む。


「ちょ、おま、意地悪があからさますぎだろうが」

「からかうからですよ」


 僕は師匠を無視して自分の更にはちゃんとバランスよく盛った。


「そう言うなってぇ~ なんならアドバイスしてやろうか? ん? 女性経験の少ないどころか皆無なヘスティくんに恋の手引きをだな……」

「結構で」


 僕の言葉を遮るように師匠は身を乗り出し、僕の顔を覗き込みながら言った。語気が強いことに僕は驚いた。いきなりの説教に圧され、僕は近くまで寄って来た師匠の顔をただ見る事しか出来なかった。


「男なら、ちゃんと助けてやんなよ。良いね」

「え、あの……はい」


 返答を聞くや否や、師匠は椅子に腰を下ろし、いつの間にかすり替えた僕の取り皿で食事を始めていた。

 この後めちゃくちゃ抗議しましたがねじ伏せられました。



 そして僕らがドラグヴァンデルに来て丁度一週間、ついに彼女を見つけた。

 群衆が都市の出入り口の一つに集まり、そわそわしていたので、少し離れたところから何が起きるのか確認していた時の事だ。

 雪のように真っ白な髪と肌と対比するように、ほのかに色づいた頬が温かな笑みを浮かべて、彼女は、紙ふぶきを撒いて歓迎するドラグヴァンデルの市民に、真っ白な手袋をはめた手を振って応えている。ルーだ。僕は自分の中で大きく音を立てる早鐘を小うるさく感じながら、彼女の姿に目を奪われた。

 後に知ることだが、僕がのぞき見した他の3人も少なからず有名人だったらしい。まぁ、それぞれにはそれぞれの歓迎を受けたようだ。……僕と師匠は歓迎の“か”の字も無かったけど……。

 それにしても、なかなかの歓迎っぷりだ。ルーの白い衣装に似た灰色の衣装に身を包んだ付き人……だろうか、女性が4人、彼女の周りを警護するように取り囲み、彼女と共に歩いてくる。周りの風景から浮いている5人に対し、ドラグヴァンデルの住人は笑顔で迎え入れている。色とりどりの暖色の紙ふぶきは止むことなく、彼女が如何にここで有名人なのかが伝わってくる。


 その時、突如ルーたち一行の目の前に巨大な『畏念』が現れた。

 現れた『畏念』は、ルー一向を歓迎する群衆から少し離れたところに居る僕のところまで届く冷気を纏って現れた。細長い骸骨姿に襤褸切れを纏い、頭蓋骨には『畏念』の身の丈ほどの長さの銛のような物が刺さり貫いている。骸骨は下半身が無く、千切れた背骨をぶら下げているように見える。なによりもその特徴は……

 骸骨姿の『畏念』が小刻みに震えながら顎を開いて叫んだ。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!! 殺す! 殺す! 殺してやRUUUUUUUUUUUUUUUaaaaaaaaaaaaaa!! 殺す殺すコロスコロスコロスコロスコRuぁSuぅぅうううuuuuuuuuuuuuaaaaaaaaaaaaa!!」


 その特徴は明確な殺意。骸骨の『畏念』が腕を薙ぐと、群衆のうちもっとも骸骨の『畏念』に近い一団が氷になって砕け散った。同時に群衆から悲鳴が上がり、散り散りに人が駆け始める。人々を蹴散らして骸骨の『畏念』はまっすぐにルーの元へ近づいて行く。即座にお付きの者たちがルーの腰に『畏念具現機』を巻きつけて離れる。お付きの者では敵わないと判断したのか、それとも清楚な見た目に似合わず戦闘好きなのか……もっとも、彼女の実力ならこれぐらいの『畏念』は簡単に倒せるだろうけど……


『男なら、ちゃんと助けてやんなよ。良いね』


 師匠の言葉を今一度咀嚼し、僕は踏み出した。

 骸骨の『畏念』が腕を振り上げているところに割り込んで、ルーに挨拶をする。


「やあ! メイディア・リラ・ルー。僕はヘス」


 そのまま振り下ろされた骸骨の『畏念』の一撃で僕は吹き飛ばされた。

 まぁ……いくらなんでもちょっと鉄砲玉すぎた。正直言うと、ルーに何を言ったら良いのか分からなくて判断が疎かだったのは言うまでもない。

 せめてここで踏ん張れてたらかっこよかったろうなぁ……と、吹き飛ばされて近くのビルの壁に叩きつけられながら思った。とはいえ、僕自身何のダメージも受けていない。当たり前と言えばそうだが、僕の『防御型畏念』、『島蟹(キャンサー)』によって衝撃を緩和させたからである。もとより、防御型は常時発動しておくように、という師匠の教えが生きた結果とも言える。


「おお、びっくりした」


 具現化した『島蟹』に抱き留められながら、僕は体制を整えた。

 『島蟹』は防御はもちろんながら、その特徴はカウンターにあるのだが……骸骨の『畏念』が『島蟹』の反撃を受けたようには見えない。つまり、小手先の『畏念』では話にならない強力な『畏念』という事か。


「そこのあなた」


 ルーが凛と張った声で僕に呼びかけてくる。僕は一瞬思考が止まり、呆然としていた。鼻の下が伸びて阿呆面してなかったか心配だ。


「え、あ、ひゃい!」

「ある程度はできるようだけど、下がっておきなさい。もう“予選”は始まってるようだから」

「予選?」


 そう聞きながら彼女の元へ寄る僕を脇目に、ルーの『畏念具現機』が白んだ輝きを放つ。そしてその光が飴細工のように霞から実態を持ち、力強くうねりながら生き物の形を造形していく。


「おいで……『時計兎(クロックキーパー)』。あなたの力が必要なの」


 現れたのは兎だった。真っ白な色の丸々した15cmに満たないほどの兎。その兎は後ろ二本足で立ち上がり、鼻をひくつかせた後、霞のように空間に溶け込んだ。『一つ目入道』で見た限り、あの見えなくなった『時計兎』を動く拠点にして、本人と二か所から様々な『畏念』を具現化していくのが彼女の戦い方だ。同時に複数の『畏念』を操れる、僕や師匠以外の強力な『畏念使い』……僕は自然と自分が笑っていることに気付いた。

 と、そんな事を思っている隙があれば、僕は僕でこの骸骨の『畏念』に対抗しなくては……と構えたところでルーが言う。


「ちょっと、協力はしないわよ。これはもう“予選”なんだから」

「うん。僕が君を助けたいだけなんだ。気にしないで」

「でも、あなた『畏念具現機』すら持ってない……どこかに隠し持ってるの?」


 訝しげに僕を見る彼女に、僕は背中越しに笑いかけてから、自慢の『畏念』を7体とも現した。

 左腕に『移動型畏念』、『屍烏(ムニン)』を憑け、腕の肘から先が翼に変わる。

 左足に『遠隔系畏念』、『子蜘蛛(ヘズ)』を具現化して這わせる。

 胴体に『防御型畏念』、『島蟹』を憑けたことで、甲殻類を思わせる鎧に胴体部分は覆われる。

 右足に『潜行系畏念』、『火鮫(トヨタマヒメ)』と憑けことで脹脛などが鮫肌に変わる。

 右腕に『知覚系畏念』、『一つ目入道』を憑けたことで手の甲に大きなレンズが付く。

 背中には『支援系畏念』、『睡蓮(マナ)』を具現化し、茎が伸びて首元に小さな花が咲く。

 そして、左目には『武神(ピナカ)』を憑けることで左半分の視界だけ色が反転する。


「大丈夫! なくても『畏念』を具現化できるように訓練されてるからさ!」


 ルーが驚きと困惑の表情を浮かべる中、僕は骸骨の『畏念』に向きなおり、実力のほどを見せよう、と、思って振り向いた時には、既に骸骨の『畏念』はその腕を振り下ろしていた。


「あ、待って!」


 そのまま腕が振り下ろされるのを、腰から『島蟹』の鋏を伸ばして防御、同時に腕に『子蜘蛛』を付けておき、『一つ目入道』が憑いている右腕で難なく押し返す。『一つ目入道』の便利なところは力仕事が出来る、汎用性の高い『畏念』だというところだろう。

 押し返されてバランスを崩した骸骨の『畏念』に対して即座に『屍烏』で距離を詰める。左腕の翼が肥大化し、難なく体を持ち上げて敵の懐へもぐりこむ。本来は長距離移動用だが、外見がカッコいいので短距離移動でも使っている。

 僕が懐に入り込むのを骸骨の『畏念』が振り払おうとするも、既に『子蜘蛛』の糸が絡まり動けなくなっているはずだ。あとは……


「どこの誰か知らないけれど、たぶん今回の参加者で一番強いのは僕だ。諦めてご主人の元に帰りなよ!」


 左目の『武神』で焼き払う!

 視界の左半分が赤く染まり、視線が光線となって相手どころか周囲の道路すら気化させるほどの熱量で焼き払う。骸骨の『畏念』が居た場所は陥没し気化したあらゆる成分が蒸気となって僕の周囲を漂った。無論骸骨の『畏念』は跡形もなく蒸発した。

 ルーがゆっくりと口を開く。


「あなた……何者なの?」


 僕は『畏念』を外しながら言った。


「ああ、ごめん。出番取っちゃったね。僕はヘスティ。『具現機要らずのエルヴカンブ・ロイ・キャスター』の愛弟子で、君に心底惚れちゃった、今大会の優勝候補さ」


 我ながら赤面必須な言葉が出てくるものだが、ここで臆してなるものか! と僕は自身が作った大穴から這い出て、ルーに握手を求めようとしたが……


「うわぁ、ぁあ!」


 見事に足を滑らせて大穴に今一度落ちた。歯が浮くようなセリフより、こけた事が恥ずかしく、僕は少し落ち着くまで顔を上げられなかった。






前編なんです!

このまま“一週間チャレンジだし一週間で出来たところまでで”と打ち切るのが良いのでしょうが……

書きたいので隙を見つけて続き書きます!


簡単にネタバレを含めた解説や設定話を入れると

主人公ヘスティの持つ『畏念』の世界感がバラバラなのは意識してみました

今回使わなかった『火鮫』は格闘も熟せる上に地面を水中のごとく泳ぐことができるようになります

また『睡蓮』は回復能力を持つ『畏念』です。要するに、回復しながら逃げなきゃいけない状況にこの後彼を追い込むつもり、という事です


ライバルとして登場させた3人も本当は前編でも絡む予定でした

が、時間的な問題が……その……(震え声)


場合によっては中編、後編と上げるかもしれません

いやぁ……張り切りすぎちゃったよ(ならもう少しサボらずに書いたらまだマシだったんじゃなかろうか?(すみません……



ここまでお読みいただき ありがとうございました

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