第06話「記憶の中のイツキ」
部屋に戻ると言っていたリョッカだったが、リョッカは部屋には戻らず、ここルーツの武器屋に足を運んでいた。
「おう、坊主じゃねぇか。珍しいな、今日は何の用だ?」
「おっちゃん、『ホルダー』を見せてくれる?」
「ホルダー? おいおい、魔法使いのお前には必要ないモンじゃねぇか」
「へへ。使うのはおいらじゃないんだよ」
「やけに上機嫌だな、坊主。……そっか。お前さん、ついに仲間が見つかったんだな?」
「そういうこと。そういうわけだから、おっちゃん。とびっきり格好いいヤツを頼むよ。兄ちゃんに似合うような、とびっきりのホルダーをね」
俺の視界にセピア色の光景が広がっていく。
この光景が現実のものではないということには、すぐに気づいた。
俺がこの光景を夢で見ている光景だと認識するのと同時に、セピア色の光景は鮮やかに色づき始めた。
目下に平原が広がっている。それを俺は空から見下ろすかのように見ている。
平原に、四人の少年少女の姿を見つけた。二人の少年と、二人の少女。少女の一人は、他の三人よりさらに幼い感じの少女だった。
そして、少年の一人は多分――俺だろう。
四人は大量のテットに囲まれた状態でテットたちと交戦していた。
俺じゃない方の少年が声を上げた。
「イツキっ、いつまで手を抜いて戦うつもりだっ。早く『ディライト』しやがれ」
ディライト? 何のことを言っている?
「何で俺なんだよ、ツムジ? 俺じゃなくてもコロナやイオでもいいだろうがっ」 少年イツキがツムジに言い返す。
「ちょっとイツキ? それにツムジも。今はそんなこと言い合っている場合じゃないでしょっ」 大きい方の少女――コロナと呼ばれていた少女が、イツキとツムジに対し声を上げるが、彼女もテットに囲まれていて、それどころではないようだ。
「コロナ姉様。アイツらになにを言っても無駄なことです。――こんな奴ら、私が一掃してみます。Delight」
この中では一番幼い少女――イオがディライトと声を上げた。イオの身体が、蒼白き光に包まれていく。
「! 馬鹿野郎っ、イツキ。こんな混戦状態で爆弾娘をディライトさせるんじゃねぇ」 ツムジの言う爆弾娘というのは、間違いなくイオのことだろう。
「イオがディライトしたのは俺のせいじゃねぇっ」
「『瞬殺旋風』も『破滅の光』も黙って見てろ。こんな奴ら、すぐに消し飛ばしてやんよ」 どうやらイオはコロナ以外の仲間のことは通り名で呼んでいるようだ。
イオがテットに向けて掌をかざすと、そのテットの周囲の空気が爆発し、テットを吹き飛ばす。
「ははは。消えろ消えろ、みんなまとめて吹き飛んじまいなよっ」
イオがところかまわず周囲を爆破していく。
「こりゃ、ちとまずいかな? ――イツキ、コロナ。後は任せた。Delight」 今度はツムジがディライトを宣言した。
「! 待ちやがれ、ツムジ。お前だけ逃げる気かっ」
イツキがツムジが逃げるのを阻止しようと、ツムジに手を伸ばすが、ツムジがディライトの光に包まれた瞬間に、旋風がツムジを包み込み、ツムジはその場から姿を消した。
「ちっ。アイツ、マジで逃げやがった」
「イツキ。暴走したイオちゃんを抑えるのは、私たちでも難しいよ? どうするの?」
「こうなったら、俺らもディライトしてあいつらをとっとと全滅させた方が早いぞ?」
「そうみたいね。――Delight」
「――Delight」
イツキとコロナが同時にディライトを宣言した。
そして、見下ろしている光景が切り替わった。
息を切らせながら、イツキ、コロナ、イオの三人がそこにいる。そして、その周囲には動かなくなった大量のテットたち。
……どうやら先ほどの大量の敵を撃退した後の光景のようだな?
旋風が現れ、ツムジがこの場に戻ってきた。
「おう。どうやら片づいたみたいだな?」
「瞬殺旋風っ。お前、よくもバックレやがったなぁ?」 イオがツムジに詰め寄る。
「おいおい。お前が言うか? そもそも、お前が無差別攻撃を始めたのが原因だろうが?」
「やめなさい、ツムジ。――ほら、イオちゃんも」 コロナが二人の仲裁に入る。
「まぁ、姉様がそうおっしゃられるのであれば……」 イオはコロナの言うことを素直に聞き入れた。
「この爆弾娘は……。本当、コロナにだけは懐いていやがる」
「お前も退け、ツムジ。……しかし、日に日にテットの数が増えてきてないか? このままじゃ、俺たちだけでは手に負えなくなるぞ?」
「それに関しては破滅の光の言うとおりだね。いくら私たちが強くても、これじゃあいつか、数に押されかねないよ?」
「じゃあ、『サージ』の奴に聞くか?」 そういうとツムジは左手の甲を軽く指で叩いた。
……あれは、刻印を立ち上げる時の動作か? だが、刻印は刻んでない。――どういうことだ?
ツムジの手の甲から光の文字が浮かび上がる。
ツムジはその文字に触れて項目を切り替えていく。
「ねぇ、ツムジ? それはいったいなんなの?」 見慣れぬ光景に、コロナがツムジに問う。
「これか? これはサージが試験的に作ったプログラムとかいうモノらしい。実験とかいって俺に埋め込みやがった」
項目を決定すると、電話の呼び出し音のような音が手の甲から聞こえてきた。
すぐに呼び出し音は止まり、今度は左手の甲から一人の少年の映像が宙に投影される。
映像の少年はこの光景のイツキたちに比べて、少しだけ年上のように見える。
「――おや? どうされました、ツムジさん。さっそく通信プログラムを使っていただいて?」
「くだらん前置きはいい、『サージ』。こっちはもう限界が来とるってよ?」
「『天眼明智』、お前も高見の見物なんかしてないで、こっちに出てきやがれ」 イオはサージの事を天眼明智と呼び、浮かび上がった映像のサージに向けて声を荒げる。
「高見の見物とはひどい言われようです、イオさん。私だっていろいろと策を練っているんですよ? ……もう少しだけ我慢してください。もうすぐ、この人手不足を解消することができます」
「! おい。まさか、西の連中を呼ぼうっていうんじゃないだろうね? 私はゴメンだよ? あいつらと一緒になるなんてのは?」
「ちょ、ちょっとイオちゃん?」 イオの発言をコロナが制止しようとする。
「はぁ。困りましたね、イオさんの人見知りには。でも、彼らをこちらに呼ぶことは出来ないのです。西の方もこちらと同じで人手が足りてないと報告を受けております」
「ちょっと待て、サージ」 イツキが話に割ってはいる。
「こっちも西も人手不足でどうやって問題を解決させるつもりだ?」
「それはですね、イツキさん。――組織を立ち上げるんですよ。一般の冒険者の方にも、テットの討伐を依頼して、それに応じた報酬を払う。つまりは冒険者ギルドを立ち上げるのです。すでに様々の国の方から援助を受ける話は進んでいます」
「ちょっと待って、サージ。それってつまり、私たちの仕事を一般の人に押しつけるってこと? でも、それでどうやって報酬を支払うわけ?」
「姉様の言うとおりだよ。そんなの、倒してきただの嘘をつかれたらどうするんだよ?」
「それに関してはご心配なく。ツムジさんや西の方に試験的に導入しているそのプログラムで管理をする予定です。そうですねぇ……、ギルドに登録してくれた一般の方に、なにかしらの証――ライセンスのようなものをお渡しするなりして、それに私の作ったプログラムを入れて、依頼の遂行度の管理や報酬の受け渡し等を考えております」
「天眼明智。そういうことになったら、私らは今のこの状況から解放されるんだな?」
「すみませんがイオさん。皆さんには『エスタブリッシュ』となっていただいて、別の仕事をお頼みしたいのです」
エスタブリッシュ? ……何だ? 何のことだ?
俺の疑問をそのまま、そこにいるイツキが口にする。
「エスタブリッシュ? おい、サージ。そのエスタブリッシュてのは何のことだ?」
「エスタブリッシュというのはイツキさん、異国の言葉で組織を立ち上げた者とかそういう意味の言葉になります。皆さんには新しく立ち上げるギルドの管理者となって、私の作ったプログラムを不正に使用しようとする人たちの監視や、一般の方では手に負えないテットへの対応などをお願いするかもしれません。――詳しいことは、話が全てまとまってからになりますので、もう少しだけお待ちください」
差し込む朝日の眩しさに、俺の意識は現実へと戻されていく。
もう一つのベッドでヨーコが寝息を立てている中、俺は完全に夢から覚めていた。
……エスタブリッシュ、か。あれは俺の昔の記憶、なのか?




