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第05話「リョッカvsフォルク」

 リョッカは、今から自分の部屋の手配をしようとしていたらしく、宿の受付で発見することが出来た。

 そして、食事を取りながら詳しい話をすることとなり、俺たちは宿の食堂に場所を移した。

「いやぁ、ゴメンゴメン。おいらとしたことが、肝心な内容を言うのを忘れていたよ。お詫びって言うのもなんだけど、ここの代金はおいらが持つから、好きな物を頼んでよ」

 食堂の給仕人が注文を取りに来た。俺たちが注文を告げると、その内容をメモに取り、厨房の方に消えていった。

「ったく、人に頼みごとをしにきといて、その用件を伝え忘れるってどういうことなんだよ?」

「そういうイツキさんだって、私に言われるまで気づかなかったくせに……」

 ……ヨーコめ。言わなくてもいいことを。

「でもさ、わざわざそのことを伝えるためだけにおいらを呼びに来たってことはさ、いい返事を期待していいってことかな、兄ちゃん?」

「そうだな。お前は駆け引きとかそういうのはするつもりないって言ってたな? だから、俺たちも率直に言おう。俺もヨーコもお前は信用していい奴だと思ってる」

「じゃあ、おいらの――」

「だが、その前に話しておくことがある。――さっき、部屋でヨーコが俺のことを『訳あり』って言っていたことは覚えているか?」

「! い、イツキさんっ」

 身の上を話そうとしていることに気づいてか、ヨーコが俺の言葉を制止しようとする。

「止めなくていい、ヨーコ。……俺はな、自分が何者なのかわからないんだ。気づいたときには、ただ空を眺めていた。それ以前になにをしていたのかもわからずにな」

「? どういうこと? それって、兄ちゃんは記憶喪失ってこと?」

「ああ、そうらしい。――グリズリーを倒したのだって、ただの成り行きだ。彼女には世話になったから、その恩返しにやっただけだ。報酬は譲りあったんじゃなく。彼女が受け取って当然だったってだけの話。もっとも、ヨーコは俺を騙してまで報酬を折半にしやがったんだがな」

「わ、私は無償で傭兵を引き受けてくれただけで、お礼としては充分だと言いました。折半は当たり前のことなんです」

「ま、そういうわけだ。お前が思っているようなことではないってことだ。……どうだ、話を聞いてまだ俺たちを仲間にしようと思うか?」

「……兄ちゃん。改めてお願いするよ。おいらの――ううん、おいらを兄ちゃんたちの仲間に入れて欲しい」

「ちょ、ちょっと待って、リョッカくん? 私たちの仲間にって、歳はともかくにしても、アドベントとしての経験やレベルはあきらかにリョッカくんの方が上じゃない?」

「今の話で確信に変わったよ。兄ちゃんも姉ちゃんも、おいらが仲間として探していた理想の人たちなんだ。だから、おいらのバウンティが終わった後でも、兄ちゃんたちと一緒に行動したいんだ」

「連れていくもなにも、俺には記憶がないんだぞ? これからどうするかなんて考えてもいないし、なによりまだ、ヨーコと共に行動するとは決まっていない。だから、彼女にも意見を聞く必要がある」

「私はイツキさんの記憶が戻るまで一緒にいるつもりです。――記憶のないあなたが、今度はどんな無茶をしでかすか……」

「じゃあ、おいらも兄ちゃんの記憶が戻るまで一緒にいる。それでいいよね?」

「待て待て。記憶が戻るまでって、戻るあてなんて全くないんだぞ?」

「そんなことを言ってもダメですからね? 今のあなたから目を離すと、きっとまたとんでもない無茶をしでかします。だから、私が一緒にいてあなたを止める必要があるんです」

「やれやれ。俺に選択権はないってことなのかよ。はぁ、わかった、とりあえずは俺の記憶が戻るまでってことでいいな? ――さて、リョッカ。今度はきちんと話してもらうぞ? お前の追っているバウンティとやらの詳細を」

「わかってるって。――兄ちゃんたち、『フォルク』ってテットは知ってる?」

「フォルク」 ……いきなりテットの名前を口にされても、俺にわかるわけがない。

「ほら、イツキさん。昼間、山に入ったときにいたでしょ? あの、白い小さな鳥みたいなテットが――」

「あ、ああ。あの剣で軽くはたいただけで地面に落ちたあいつか」 たしかにいたな。変な鳥みたいのが。

「知っているんなら話が早いよ。そのテットがおいらの追っているバウンティ」

「は?」 思わず聞き返すのは当然だろう。あんなのに賞金をかける方も気がしれん。

「ま、まぁ、話の流れでいっちゃうと、当然そんな反応になっちゃうよね? ちょっと待って。今、映像を見せる――」 そう言いながら刻印を立ち上げようとしたところで、リョッカの手が止まった。

「……ここで映像を流すのは、ちょっと人目についちゃうな。――兄ちゃん。また後で兄ちゃんたちの部屋に行っていい?」

「それはかまわんが……、映像ってのはなんだ?」

「おいらの刻印には戦闘記録を映像として記録する機能が入れてあってね。ま、百聞は一見にしかずっていうし、実際においらが戦った映像を見た方が早いと思ってね」

 給仕人が、俺たちの注文した料理を運んできた。テーブルに料理を並べると、一礼をし、厨房の方へと戻っていった。

「詳しいことは後で兄ちゃんたちの部屋で話すとして、料理もきたことだし、いまはこれをいただこうよ」


 食事を終えて、俺たちはリョッカを連れて自分たちの部屋に戻ってきた。

 最初に部屋に来たときと同じように、化粧台の椅子を引っ張りだし、部屋の中央に置いてリョッカが腰かける。

 そしてリョッカは刻印を立ち上げ、刻印の文字に触れて映像機能を呼び出す。

「じゃあ、映像を流すよ」

 部屋の壁に、リョッカの刻印から映像が投影され始めた。


 映像の中のリョッカは、刻印を立ち上げ、何かを確認しながら山道を進んでいた。

 刻印から投影されていたのは、小さな球体の映像だった。

 その球体の中には、二つの光の点が点滅している。

 中央には白い点が、そして、中央からやや右上方には赤い点が点滅している。

「……上、か。けっこう近くを飛んでいやがる」

 球体はどうやら、シグナルを打ち込んだターゲットとの位置関係を表示するレーダーのような機能みたいだ。

 リョッカはターゲットが近くにいることを確認すると、戦闘体勢をとるために、レーダーの球体を消した。

 球体を消した直後、リョッカの頭上を巨大な影が横切っていった。

 リョッカが自らのフォースウェポンであるアームガンを生成する。

 そして、その銃口を影の主に向けた。

 巨大な影の主は、紛れもなくフォルクである。

 ただ一点、俺が出会ったフォルクとは決定的な違いがあった。

 ――それは、奴の体長だ。圧倒的な大きさ。翼を広げたその姿は。ゆうに五メートルは超えているだろう。


「おい、なんだアイツは?」 俺は声を上げずにはいられなかった。

「だから、あれがおいらの追っているフォルクだよ」

「あんな大きさだなんて聞いてねぇぞ?」

「まるでドラゴンみたい……、あの山に、あんなフォルクがいるなんて思いもしなかったわ」

「なんであんな化け物じみたフォルクが現れたのかはおいらも知らないんだ。ただ、あいつは大きいだけじゃなく、とんでもなく強いんだよ」


 映像のリョッカが魔法カードを生成する。――その魔法カードを、アームガンのカードスロットに挿入した。

 そして、巨大フォルクに向けた銃口の的を、奴の中心――腹部に絞った。

 銃口から炎の弾が連続で撃ち放たれる。――炎の弾はフォルクの腹部に命中し、小さな爆発を起こすが、フォルクは何事もないように飛行を続ける。

 リョッカのアームガンから炎の弾の射出が止まり、カードスロットから魔法カードが排出される。

 排出された魔法カードは灰となり、風に消えていった。

 リョッカの攻撃の手が止まるのと同時に、フォルクは上空で旋回し、リョッカに向かって突撃してきた。

 リョッカはフォルクの体当たりをギリギリのところで回避する。

 突撃回避の直後、リョッカは新たな魔法カードを生成し、それをアームガンのカードスロットにセットした。

 すぐさま銃口をフォルクに向けるが、フォルクは体当たりを回避された後、その勢いのまま上昇したらしく、リョッカが用意した魔法の射程外へと移動されてしまっていた。

 攻撃の機を逃したと判断したリョッカは、アームガンに入れた魔法カードを排出し、そのカードを懐にしまう。

 そして、新しい魔法カートを生成し、それをカードスロットに挿入した。

 上空で旋回したフォルクは、再度リョッカに対して体当たりを仕掛けてくる。

 リョッカは冷静に、向かってくるフォルクに銃口を向ける。狙いは一点――奴の頭部に絞る。

 銃口の先端に炎の魔法が収束していく。どうやら、新たにセットした魔法は先ほどの連発型とは違い、強力な一発を撃ち放つ一撃必殺の魔法のようだ。

 ――銃口から、巨大な火球が撃ち放たれた。

 火球を放った反動で、リョッカは背中から地面へと叩きつけられる。

 だが、火球は見事フォルクの頭部に命中し、フォルクは爆炎に包まれた。

 爆炎を見上げ、勝利を確信したリョッカはアームガンを消し、完了処理を行うために刻印を立ち上げる。

 が、次の瞬間、フォルクが咆哮をあげながら爆炎を突き抜け、空へ急上昇を開始する。

 かなりのダメージを受けたためだろう。リョッカに見向きもせず、必死に空へと逃れようとしているのがわかる。

「! まずいっ」

 リョッカは慌ててアームガンを生成し、フォルクに向けて小さな光の弾を撃った。

 その弾は、フォルクに命中するとフォルクの体内へ消えていった。

 そして、フォルクはそのまま飛び去っていってしまった。

 映像は、ここで終わった。


「見ての通りだよ。今の魔法が、おいらの使う魔法で一番強力なやつなんだけど、あれで決められない以上、おいらに打つ手はないんだよ」

「最後にリョッカくんが撃った、あの光の弾はなんなんですか?」

「あれはシグナル弾だよ。ああやって、常に新しいシグナル弾を撃ち込んでおかないと、シグナルが切れた途端に、またアイツを探すことから始めなくちゃならなくなるからね」

「ひとついいか、リョッカ? ――最後のあの一撃、お前はなんでアレを奴の頭部めがけて撃ったんだ?」

「なんでって、頭は全ての生物に共通する弱点じゃないか? 一撃でしとめるんだったら、狙うのは当然なんじゃあ――」

「いや。俺がお前の能力で戦うとしたら、まず翼を狙うな」

「翼? でも、兄ちゃん。翼を狙うって……攻撃を拡散していたら、それこそ中途半端なダメージしか与えられないよ?」

「なぜ攻撃を拡散する必要がある? 狙うのは両翼ではなく、どちらかの翼だけでいいんだよ。それだけで奴は羽ばたけなくなる。――いや、正確にいえば、羽ばたいても満足に飛べなくなると言った方が正しいな」

「ねぇ、兄ちゃん。……兄ちゃんは、おいらと姉ちゃんと兄ちゃんの三人なら、アイツに勝てると思うの?」

「それはまだ何とも言えないな。俺はお前と違って、実際に奴に遭遇したわけじゃないからな。――だが、俺は勝つつもりで話をしているつもりだ」

「そっか……。はは、なんか兄ちゃんと一緒なら、おいらもアイツに勝てるような気がしてきたよ」

 リョッカが椅子から立ち上がり、その椅子を鏡台に戻した。

「じゃあ、そろそろおいらは部屋に戻るね。明日のチェックアウトの時間くらいに迎えにくるから、それまでに準備は済ませておいてね」

 そう言い残すと、リョッカは俺たちの部屋から出ていった。

 リョッカが出ていってすぐ、ヨーコが俺に話しかけてきた。

「でも、本当に大丈夫なんでしょうか? なんだか私、嫌な予感がしてならないんです」

「まぁ、仮にも賞金首になるような奴だ、一筋縄でいくとは思わない方がいいだろう。だが、今度は三人で挑むんだ。もしかすると、グリズリーより楽に済むかもしれんぞ?」

「そうだといいんですが……」

 ……嫌な予感、か。ヨーコの思い過ごしで済むといいな。


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