第04話「少年、リョッカ」
それは、完全に日が暮れた後――イツキとヨーコが去った後のアドベントギルドでの出来事だった。
イツキたちがギルドを後にしてからしばらくたって、ギルドに一人の少年が入ってきた。
どこにでもいるような、普通の少年――に見えるのだが、腕に身につけている変わった形の銃が気になった。
……見れば見るほど、変わった銃だ。引き金や撃鉄がなく、あるのは銃身と弾倉だけ。しかも、その弾倉には銃弾を入れる場所がなく、カードスロットのようなモノが取り付けられていた。
少年はギルドの中に入ると、適当な長いすに腰を下ろした。――いつの間に片づけたのだろうか? 腕につけていた変わった形の銃は、少年の腕から消えていた。
少年の顔を見て、先ほどヨーコと話をしていた受付の女性が少年に話しかけてきた。
「あら、『リョッカ』くんじゃない? どう、『バウンティ』の方は?」
「あー、ダメダメ。おいらの攻撃じゃ、ぜんぜん歯が立ちゃしない。とりあえず、『シグナル』は撃ち込んでおいたから、今日はもう引き上げだよ」
そういいながら、リョッカと呼ばれた少年は長いすから立ち上がり、何気なしに貼り紙が張り出されている壁の方に歩いていく。
「せめて、信用のおける仲間でもいれば、少しは違ってくるんだろうけど……。――あれ? 昼間に入ったグリズリーの依頼は誰か持ってっちゃてるの?」
「あ、それはもう解決しましたよ」
「ありゃ? ……また『ハイクラス』の小遣い稼ぎに持っていかれちゃったか」
「いえ。それを解決したのは、ノーマルクラスの男女ペアでしたよ? ――変わった二人組でね、報酬を折半してたのに、それを受け取れないだの、もらって当然だの、互いに譲り合ったりしてね」
受付のその言葉を聞いたリョッカの表情が変わる。
「ねぇ、その二人と連絡は取れる?」
「え? ……初めて見る二人でしたからねぇ。あ、でも、帰ったのはちょっと前のことだから――」
受付の人の言葉が言い終わる前に、リョッカはギルドを飛び出していた。
ギルドを飛び出して、すぐに周囲を見渡す。――周囲を見渡しながら、頭の中に考えを巡らせていく。
「こんな時間だ。急ぐ理由でもない限り、町を出るなんてことはないはず。……だとしたら――宿屋か」
リョッカが走り出す。――宿屋のある方へ。
イツキとヨーコは、ギルドでの出来事などつゆ知らず、宿の手配のため、宿屋の受付に来ていた。
「すみません、二人部屋って空いていますか?」
ヨーコが宿の女将に空き部屋の確認を取る。……しかし、二人部屋って何だ?
「ちょっと待て。何だ、二人部屋って。なんで二人部屋を手配するんだ?」
「ダメですよ? ……あなたは、目を離すと何をしでかすかわかりませんから」
「だからって、いい歳の男女が二人部屋ってのはまずいだろ?」
彼女の目を見る。――何を言っても自分の意見を変えようとしない、真っ直ぐな瞳だ。
「何を言っても変える気はないってことか。……はぁ」
その瞳の前に、俺はため息をついてあきらめるほかなかった。
と、宿の女将が部屋の鍵を棚から取り出し、それをカウンターに置いた。
「はい、お待たせ。二人部屋だと、あわせて三千だね?」
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」 ヨーコが自分の荷物の中から財布を探し始める。
彼女が財布を取り出す前に、俺は三枚の金貨をカウンターに置いた。――さっき返しそびれた、グリズリーの報酬だ。
「まいど。――じゃあ、これが部屋の鍵ね。部屋は二階の奥の方になるよ。部屋番は鍵についてるプレートで確認しておくれよ」
俺は差し出された鍵を受け取り、階段の方に歩きだした。
「……宿代くらい、私が出しますのに」 ヨーコは俺の行動に不満があるようだ。
「これ以上、世話になれるかっての」
するとヨーコが財布から金貨を一枚取り出し、それをカウンターに置いた。
「すみません。これを銀貨に崩してもらっていいですか?」 彼女が両替を申し出ていた。
俺は慌てて受付に戻り、彼女の手を取った。
「部屋に行くぞ」
「ちょ、イツキさん。お金を崩さなきゃ、半額が渡せません」
「今度は俺がおごる番だ。――報酬の折半は譲渡したんだ、今度は黙って奢られろ」
彼女の手を引き、階段口へと向かっていく。
次の瞬間、宿屋の入り口の扉が勢いよく開かれた。
「そこの二人、ちょっと待った」
息を切らせながら突如現れたのは、ギルドで「リョッカ」と呼ばれていた、あの変わった銃を身につけていた少年だ。――当然、イツキとヨーコに彼との面識はない。
息を切らせたまま、リョッカが話を切り出した。
「――兄ちゃんたちだよね? 昼間、グリズリーの依頼を請け負った二人組って?」
俺とヨーコが顔を合わす。当然だ。いきなり面識のない少年に呼び止められたのだから。
「えーと、キミは?」 ヨーコがリョッカに名をたずねる。
「あ、ゴメン。おいらはリョッカって言うんだ。実は、二人を見込んで頼みたいことがあるんだよ」
「頼みたいこと、ですか? ……まぁ、私たちで出来ることであれば――」
「おい、ヨーコ。ちょっと待て。――ここじゃあ、ちょっとマズい」
俺にそう言われ、彼女は周囲を見渡した。
ここは宿屋の中でも、一番人の出入りが多い場所だ。その上、リョッカは注目を集めるような現れ方をしている。
ここにいる者たちの視線が、俺たちに集中するのも無理はない。
「リョッカって言ったっけ? とにかく、ここだと人目がありすぎる。とりあえずは俺たちの部屋に行って、そこで話を聞こう」
「……その方が良さそうだね。えーと――」 リョッカが俺たちの名を呼ぼうとしたのか、言葉がそれで止まる。
「あ、そう言えばまだ名前を言っていませんでしたね? ――私はヨーコと申します。で、こちらの方はイツキさんです」
「ヨーコにイツキ、ね。まぁ、おいらは兄ちゃん姉ちゃんで呼ばせてもらうよ」
俺たちはリョッカを連れて、階段を二階へと上がっていった。
二階の奥に、鍵に書かれている部屋番と同じ番号の書かれた扉を見つけ、鍵穴に鍵を通した。
鍵を回し、部屋の扉を開ける。
こぢんまりとした部屋に、ベッドが二つ。ベッドは左右それぞれの壁に密着させるよう配置されており、狭い部屋ながらも、部屋の中央の空間を広く取れるように設計されているようだ。
部屋の入り口付近には小さな鏡台が置かれており、簡単な化粧や身支度が出来るよう配慮されているようだ。
俺とヨーコは、それぞれのベッドの脇に手荷物を置いて、そのままベッドに腰を下ろした。
リョッカは、勝手知るかのように、鏡台の小さな椅子を取り出し、それを二人のベッドの中間の位置に置いて腰掛けた。
「で、お前の頼みごとってのを聞かせてもらおうか?」 さっそくではあったが、俺は話を切りだした。
「面倒な駆け引きとかはするつもりないから、単刀直入で言うよ? ――兄ちゃんたちに、今おいらが追っている『バウンティ』の討伐を手伝って欲しいんだ」
バウンティ? なんのことだ?
「……バウンティって、なんのことだ?」
「え? 兄ちゃん、グリズリーを倒すほどの腕があるのに、バウンティについて知らないの?」
「い、イツキさんは少々訳ありなんです」
「……ま、詮索するつもりはないから、聞かないよ。――バウンティってのは、早く言えば賞金首のことだよ。ギルドで依頼書を受け取らなくても、手配されている対象を討伐すれば、賞金がもらえるってわけ」
「でも、イツキさん。バウンティの対象になるテットは、手配がかかるくらいですからものすごく手強い上に、その捜索から始めなくちゃならないので、普通の依頼に比べてかなりの日時を要する場合が多いんです」
「それについては問題はないよ、姉ちゃん。すでに奴は見つけているし、シグナルを撃ち込んでいるから簡単に追える状態になってる。……問題は、おいら一人じゃ奴に致命傷を与えることが出来ないってことなんだよ」
そういうと、リョッカは俺たちの前に自分の右腕を差し出した。
リョッカの右腕に光の粒子が集まり始める。
そして、リョッカがギルドに入る前まで身につけていたいた、変わった形のアームガンが姿を現した。
「リョッカくん、『フォースウエポン』が使えるの?」 ヨーコがリョッカの武器を目にして、フォースウエポンという言葉を口にした。
「? 姉ちゃん、フォースウエポンがそんなに珍しい? そういえば兄ちゃんはリアルウエポンを使ってるみたいだね?」 今度はリョッカが俺の剣を見てリアルウエポンという言葉を使う。
「……なんか、お前と話していると知らない言葉がどんどん出てくるな?」
「イツキさん。フォースウエポンと言うのは、今のリョッカくんみたいに自分の魔法力を使って何もないところから自分専用の武器を作り出す能力のことなんです」
武器を作り出す能力、か。もしかすると、俺が丸腰でいたのは記憶を無くす前の俺もそういう能力を持っていたからなのか?
「まぁ、私もフォースウエポンの生成を見たのは初めてなんですけどね」
「……なぁ、リョッカ。お前はそれほどの能力を持っているって言うのに、なんで俺たちに声をかけたんだ?」
「あ、私もそれは疑問に思っていました。強い方を探しているのであれば、なにもノーマルクラスの私たちに声をかけなくても――」
「腕のいい人を雇うんじゃ、意味がないんだよ。仮にハイクラスの傭兵を雇ってバウンティの討伐に成功したとしても、それは傭兵の手柄として見られちゃう。おいらみたいな子供じゃなおさら、ね。対等の条件で同行してくれるアドベントでないと意味がないんだ」
「俺たちが手柄を横取りしないって保証はどこにある?」
「……ギルドで面白い話を聞いたよ? 兄ちゃんたち、グリズリーの報酬をどちらが受け取るかでもめたんだってね? しかも、互いに譲り合うカタチで」
「あ、あれはイツキさんが受け取らないって言い出して――」
「おいらね、その話を聞いた瞬間、兄ちゃんたちしかいないって思ったんだ。兄ちゃんたちなら、おいらが子供とかそんなの関係なしに対等に接してくれる。現に今だって、おいらの話をこうして真剣に聞いてくれているしね」
「そういってくれるのはありがたいんだが……、お前の話、少し考えさせてくれないか?」
「……わかったよ。じゃあ明日、兄ちゃんたちがチェックアウトする時間に、受付のところで待ってるよ。――いい返事を期待してるよ、兄ちゃん」
話を終え、リョッカは椅子を鏡台に戻して部屋を後にした。
そして、部屋には俺とヨーコの二人だけとなった。
「で、どうするおつもりなんですか、イツキさん。まさか、引き受けるおつもりなんですか?」
――ん? 『まさか』?
「意外だな、お前から『まさか』なんて言葉が出てくるなんて。俺はリョッカは信用できる奴だと思っているぞ?」
「私もリョッカくんは信用できる、いい子だと思いますよ?」
「じゃあ、なんで『まさか』なんてこと言うんだ?」
「イツキさん。リョッカくん、バウンティの内容も、対象テットの特徴とかも言わずに帰っちゃいましたよ? 私が言いたいのは、仕事の内容も知らずにリョッカくんの話を受けるのかってことなんですけど……」
……そういえば、聞いていないぞ?
「――追うぞ、ヨーコ」
「はい」
俺たちは荷物もそのままに、慌ただしく部屋を出た。




