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第25話(終)「大団円」

 日が完全に昇りきり、俺の乗る旅客船の蒸気機関が激しく蒸気を吹き上げた。それと同時に、けたたましい汽笛が港中に鳴り響く。――出航の合図だ。

 船は桟橋を、そして港を徐々に離れていく。

 遠目に見えていたグリーンライトの城下町も、次第に小さくなり、やがて見えなくなってしまった。

「……これで、いいんだ」

「なにがいいんですか、イツキさん?」

「!」 背後からの声に俺が振り返る。

 そこにいたのは――ヨーコだった。

「ヨーコ、お前なんでここに?」

「イオちゃんが教えてくれました。イツキさんがひとりでどこかに行こうとしているって」

 ヨーコの背後から、イオとジュピターが姿を現す。

「勘違いするなよ、破滅の光。私はこいつらに借りを返しただけに過ぎない。お前の事なんてどうでもいいんだよ」

「? こいつら?」

 さらに姿を見せたのは、城で療養中のはずのリョッカだった。

「なに、兄ちゃん? おいらを置き去りにして行くつもりだったわけ? それはちょっとひどくない?」

「お前、身体はもういいのか?」

「もう大丈夫だよ。――ただ、黙って城を出てきちゃったからねぇ、今頃城の方は大騒ぎになっているかもね」

「……王にも黙って出てきたのか?」

「いや、親父とは目を覚ましたときに話をしているよ。そして、兄ちゃんについていくことの許可ももらってる」

「イツキさん、どうして黙って出ていくような真似をしたんですか?」

「それは――」

「プルートーちゃんのことね? 今のイツキが私たちの前から姿を消そうとする理由はそれしかないでしょ?」

「コロナ……」

「や、やっぱり黙って出ていくのはよくないですよ、イツキさん。い、イオちゃんだって本当は――」

「お前っ、余計なことは言うなっ」

「……ったく、お前等は揃いも揃って。なぁ、ヨーコ、リョッカ。お前らが俺と一緒にいるのは、俺の記憶が戻るまでじゃなかったのか?」

「今は事情が違いますっ。プルートーのこともありますし、それにまだあなたは能力を封印したままなんですよ?」

「前にさ、姉ちゃん――ヨーコ姉ちゃんが言ってたよね? 兄ちゃんは目が離せないって。結局、記憶が戻っても兄ちゃんは目が離せる人じゃなかったんだね? だから、記憶が戻るまでって言葉は取り消させてもらうよ」

『イツキ、イツキ』 頭の中でプルートーが俺を呼ぶ。

 俺は目を閉じ、プルートーの声に集中した。

『イツキ、みんな一緒がいい。その方が、きっと楽しい』

『いいのか、プルートー? またお前一人、寂しい思いをすることになるかもしれないんだぞ?』

『心配ない。見てて、イツキ』

 プルートーがそう言うと、俺は目を閉じた世界から弾き出されるかのように、目を開けた。

 そして、その次の瞬間だった。ポンッという音を立てて、プルートーが姿を現したのだ。

「なっ!?」「ど、どうしてプルートーが!?」

 これには俺もヨーコも驚きの表情を隠せなかった。

「イツキ、出来た。プルートー、姿作れた」

 うれしそうにはしゃぎ回るプルートーだったが、俺から2、3メートルほど離れた瞬間、まるで見えない鎖があるかのように、突然プルートーの首が引っ張られてプルートーはその場に転倒する。

「? ?」 プルートーはなにが起きたのかわからないようだ。

 だが、それを見ていたジュピターが口を開く。

「あ、アポロン。これって……ち、『チェイン』なんじゃあ……」

「チェイン? まさか、イツキさんとプルートーが? でも、そんな……」

「あ、ありえない話ではないです。じ、条件は満たしています」

「おいっ。お前等二人でなにを話している。私らにもわかるように説明しやがれっ」

「ヨーコ。イオちゃんの言うとおり、何の話か教えて」

「チェインというのは、宿主が私たちを実体化させるほどの力がないのに、実体化が出来てしまうという現象なんです。この現象で実体化すると、私たちは宿主の周囲数メートルの範囲でしか行動は出来ません」

「ち、チェインを実際に目の当たりにしたのは、は、初めてなんです。ち、チェインが発動するには条件があって、や、宿主の人に対する絶大な信頼がないと出来ないんです」

「つまりは、その子が兄ちゃんに絶大的な信頼を寄せたってこと?」

「プルートーはプルートーだよ? ソノコ、じゃない」

「悪い悪い。おいらはリョッカだ、よろしくなプルートー」

 そういってリョッカは幼子をあやすようにプルートーの頭を軽くなでた。

「よろしく、リョッカ。――プルートー、リョッカ好き。イツキ、好き。……アポロン嫌い」

「アポロンって、ヨーコ姉ちゃんの事だよね? ねぇ兄ちゃん? どうしてプルートーは姉ちゃんのことが嫌いなわけ?」

「まぁ、ヨーコはプルートーに対して厳しいところがあるからな」

「あ、あれはプルートーがいけないんです。……でも、イツキさん。これであなたを一人にするわけにはいかなくなりましたよ? 今度は、プルートーの事が解決するまで、私はあなたを監視させてもらいますから」

「あ、じゃあおいらもそういう事で。おいらも一緒の方がいいだろ、プルートー?」

「うん。プルートー、リョッカ一緒がいい。あ、あと――」

 そう言うと突然、プルートーがイオの方に向かって歩きだした

「な、なんだお前? 私になんの用だ?」

「オマエじゃない、プルートー。……イオ、だよね? 手を出して」

「はぁ? なんで私がそんなことを?」

「い、イオちゃん。ここはプルートーの言うとおりに――」

 イオは仕方なくプルートーの方に手を出した。すると、プルートーはその手を両手で握り、上下に振った。

「これで仲直り、出来る?」

 プルートーがイオに求めたのは、仲直りの握手のようだ。

 それを見て、リョッカがその手の上に自分の手を重ねた。

「そういえば、おいらもお前とは仲直りをする必要があったな?」

「なっ、お前等いい加減に……。――私は謝らないからな。だが、お前等がそうしたいなら勝手にしろ」

 イオのこの発言はもはや、謝っているのと同じだろう。


 船のマストの上部に造られている見張り台から、そんなイツキたちのやりとりを眺めている男がいた。

 エスタブリッシュメンバーの一人、ツムジだ。

「やれやれ。イツキが行方をくらます可能性がある、か。サージが心配したとおりになりそうだったが、どうやら問題は全て解決したようだな。……しかし、あんな爆弾娘の表情は初めて見たな。あいつはいままで年上しかいない環境で育っているからな、やっぱり、同世代や年下っぽいのといると、変わるものなのかもな。――さて、一応サージの奴に報告しておいてやるか」

 そういうとツムジは、刻印の通信会話機能を立ち上げた。


「そうですか。ありがとうございます、ツムジさん」

 サージが刻印の通信会話機能を終了する。

「さっちゃん、何だって?」

「イツキさん――冥王の女神の宿主の方はもう大丈夫だそうです。……さて、イツキさんたちがちょうどこちらに向かわれているようなので、ついでにここにも立ち寄ってもらいましょうか」

「あ、さっちゃん。私、ぷるーとに会いたい」

「では、メッセージよりこちらで連絡を差し上げた方がよろしいですかな?」


 突然、俺の刻印が青く点滅しだし、電話の呼び出し音のような音を鳴り響かせる。

「な、なんだ? ……いや、これはたしか――」 点滅する刻印に触れ、刻印を立ち上げる。

 すると刻印からサージの映像が映し出される。

「お久しぶりですね、イツキさん。それに、コロナさん」

「……天眼明知か。私にはあいさつなしか?」

「これはこれはイオさんもご一緒で。――さて、早速ではありますが、手短に用件をお伝えいたしましょう。私の知人が――」

「ぷるーと、おるん?」 突然、映像にサターンが割り込んでくる。

「ちょ、ちょっとサターンさん。まだ私の話が途中――」

 映像に映ったサターンを見て、プルートーが声を上げた。

「さっちゃんっ」 プルートーはサターンの事をそう呼んだ。

「ちゃうちゃう。この時代でのさっちゃんは私じゃなくてこっち」 そういってサージを指さす。

「さ、サターン。な、なんであなたがそこに?」 そしてもう一人、ジュピターもサターンの顔を見て反応を示す。

「おお。じゅっぴーまでおんの。……さっちゃん、すごいよ。ぷるーととじゅっぴー、それにもうひとり。そこだけで三人も女神がおる」

「たしかに驚きましたね。――それぞれの宿主はだれですか?」

 サージの問いにはコロナが答えた。

「私のそばにいるヨーコが私の女神。プルートーちゃんはイツキ、ジュピターさんはイオちゃんよ。どういうこと? なんでサージまで女神がいるの?」

「知りませんよ、私にも。しかし、イオさんまで女神持ちですか。これは会って詳しくお話ししたいものですね? どうです、そのまま本部に来てもらえますか?」

「……悪いが、俺は断らせてもらう。俺はこれから新しい仕事をとらなくちゃいけないからな」

「え? なんで、兄ちゃん? 兄ちゃんにはドラゴンバクの賞金があるんじゃないの?」

「ああ、あれな。お前の緊急手術の代金でほとんど使いきったんだ」

「はぁ? ちょっと待ってよ。じゃあ、なんでその代金を城に請求しなかったのさ? おいらの手術代でしょ?」

「過ぎたことだ。それに、仲間の為に使った金だ。お前だって俺の時の治療代を出しているだろ? これで帳消しだ。――ま、そういうことだ。俺はそっちには戻れない」

「いい大義名分を口にしてくれましたか、イツキさん。それで、他の方は?」

「プルートー、無理。イツキから離れられない」

「私もパスだね。第一、天眼明知の所に行くのは面倒なんだよ」

「す、すみません。い、イオちゃんが行かないって以上は、わ、私も……」

「おいらは関係ないよね? ま、おいらも兄ちゃんについていくから無理なんだけど」

「悪い、サージ。本来なら私とイツキは一度そっちに顔を出すべきなんだろうけど、今はまだ心配事が残っているの。ね、ヨーコ?」

「私はイツキさんを監視しなくてはなりませんから」

「やれやれ、嫌われてしまいましたね。では、最後に一つだけ。いつでもかまいませんから、気が向いたら遊びに来てください。もちろん、リョッカさん、あなたも歓迎いたしますよ」

 刻印の通信会話が終了する。

「おいらも歓迎するって言われても、ねぇ」

「……それで、リョッカとヨーコは俺についてくるってのはわかった」

「イツキ、プルートーも、プルートーも」

「お前の場合は別行動はできんだろ? ――で、コロナ、イオ、ジュピター。お前たちはこれからどうするんだ?」

「私は、しばらくはヨーコと共に行動するよ? だから、ヨーコがイツキと行くのなら、一緒に行動することになるね」

「わ、私は、イオちゃんの一緒ですから、い、イオちゃんの思うとおりで……」

「……お前が姉様を連れ出す以上、不本意だがお前に付き合ってやる」

「イツキ、イツキ。つまりは、リョッカもイオもコロナもジュピターも一緒?」

「そういうことみたいだな」

「ちょっとプルートー。あなた、わざと私を外しましたね?」

「アポロン、いらない。こなくていい」

「まぁ、プルートー。我慢してくれ。ヨーコも大切な仲間なんだからさ」

「イツキがそういうなら、プルートー、我慢する」

 水平線の先に、うっすらと大陸の影が浮かび上がってくる。

「あ、兄ちゃん。大陸が見えてきたよ?」

「よし。じゃあ行くか、みんな。――俺たちの新しい旅に」


 エスタブリッシュ 終わり


「ちょ、ちょい待ちぃや。これで終わり? わいらの出番、少のうない? 結局わいら、本編になんにもからんでへんがな? なぁ、ふぃーちゃんもなんか言うたってぇな」

「……」

「なんとか言ってぇな、ふぃーちゃぁん」


 とりあえず、終わり。


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