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第22話「イオとアポロン」

 俺はルーツの山に足を踏み入れてすぐ、その足を止めた。――そして、声を上げる。

「いつまでそうしているつもりだ? ――イオ」

 俺がイオの名前を口にすると、木陰からイオが姿を現した。

「……いつから気づいていた、破滅の光?」

「グリーンライトの城下町を出たくらいだな」

「ほぼ最初はなっから気づいていやがったってことじゃねぇか」

「それで、イオ。俺を尾行していた理由は? ……いや、聞くまでもないことか」

「わかっているなら、話は早い。破滅の光、お前がどこに向かおうとしているかは知らないが、姉様の行方を知るにはこれが一番だと踏んでんだよ」

「ついてくるな、と言っても聞かないか?」

「だったら力づくってか? カオスも忘れたお前に、私をどうこう出来るのかよ?」

「――ま、待ってください、イオちゃん。い、今のイツキさんは雰囲気が違います」

 その声はどこからともなく聞こえてきた。俺には全く聞き覚えのない声。

「! 誰だっ?」

 その直後、イオの背後にジュピターが姿を現した。

「は、初めまして、イツキさん。わ、私はジュピターと申す者です」

「……女神、だと? まさか、イオ。お前も女神持ちなのか?」

「女神持ち? おい、破滅の光。女神って、なんのことだよ?」

「そ、それは多分、わ、私のことを言っているのだと思います」 イオの問いに、ジュピターが答えた。

「はぁ? お前が女神ぃ? ありえないだろ?」

「そ、そんなこと言われても……」

「イオ。女神ってのは通称みたいなものらしい。アポロンがそう言っていた。……しかし、イオ。お前、いつから女神を実体化出来るようになった?」

「わけのわからん事をいうなっ。……だいたい、破滅の光、お前は仲間に黙ってどこに向かっている? 昨日みたいに知らないってのは通じないぞ?」

「ま、待ってイオちゃん。い、今のイツキさんはもしかして、き、記憶を取り戻されたんじゃあないですか? わ、私の事を女神って知っていましたし、な、何より、アポロンの名前を口にしました」

「破滅の光が記憶を取り戻しているだと? ――! じゃあ、お前が今単独で行動しているのは、姉様の居場所を思い出して、そこに向かっているってことか?」

 俺はイオの問いに答えなかった。

「……だんまりかよ。まあいい、答えようが答えまいが同じことだ。私はお前が話さないのなら、このままついていくだけのことだからな」

「い、イツキさん。あ、あなたがどうしてイオちゃんに全てを話さないかはわかりませんが、な、なにかあったのでしょう? そ、それは、あなたのそばにプルートーがいないのに関係しているのですか?」

「……ジュピターって言ったな? アンタはプルートーを知っているのか?」

「わ、私はイオちゃんを通じてイツキさんとコロナさんを見てました。そ、そして、あなたたちにアポロンとプルートーが宿っていたことを知りました。――い、イツキさん。も、もしコロナさんがいなくなったことにプルートーが関係しているのであれば、は、話してください」

「……わかった。――イオ。お前は話を聞いて冷静でいられると約束できるか?」

「――っ、それはどういう意味だ!? まさか、姉様の身に何かあったってことかよ?」

「約束しろ。俺が話すのはそれからだ」

「い、イオちゃん。ここは――」

「わかってるっ。……全てを話せ、破滅の光。姉様のためだ、私の感情くらい抑えてみせる」


 俺は山道を進みながら、イオとジュピターに全てを語った。

 俺にはプルートーが、コロナにはアポロンという女神が宿っていたということ、プルートーが暴走し、コロナはそれを止めるためにプルートーとともにアポロンに封印されてしまったこと、そして、俺は今の今まで記憶を失っていたということまで。

「なんだよ、それ? じゃあ、なにか? 姉様が封印されたのは、そのプルートーとやらをほったらかしにしたお前のせいってことになるじゃねぇか」

「それについては反論しない。本来なら、俺が封印されるべきだったんだからな」

「い、イツキさん。ひ、一つ聞いてもよろしいですか? ……ど、どうしてあなたはアポロンと一緒に行動をしていたのですか?」

「? おい、破滅の光。アポロンってのは、姉様を封印した張本人なんだろ? 一緒にいたってどういうことだよ?」

「……正直、記憶を取り戻すまでは思いもよらなかったさ。まさか、記憶をなくしてからずっと行動を共にしていたヨーコが、俺の記憶を奪ったアポロンだったなんてな」

「お前と一緒にいたあの女が、姉様を封印しやがった奴だと?」

「で、でも、どうしてアポロンは記憶をなくしたイツキさんの前に姿を現したのでしょうか? しょ、正直な話、わ、私たちなら姿を見せずにイツキさんを監視することだって可能なんです。で、でも、アポロンは名前を変えてまでイツキさんの前に現れた」

「……それは俺がわかることではないな。本人に聞かないことにはな」

 俺は山道の登り――進行方向に視線を向けた。

「――なぁ、アポロン」

 俺の視線の先には、俺たちの行く手を阻むかのようにヨーコ――いや、アポロンが立ちはだかっていた。

「……私をその名で呼ぶということは、全てを思い出されてしまったのですね、イツキさん」

「そこをどいてもらうぞ、アポロン。俺はプルートーに会いにいかなければならないんだ」

「あ、アポロン。ひ、一つだけ教えてください。あ、あなたはどうして名前を偽ってまでイツキさんの前に現れたのですか?」

「それは違います、ジュピター。ヨーコというこの名前はコロナさんからいただいた大切な名前。偽りではありません。そして、今後自らはアポロンとは名乗りません。私の名前はヨーコです」

「なら、なんでそんな姉様をお前は封印なんかしたんだっ」

 イオの言葉に、アポロンは表情を曇らせた。――息をつき、アポロンが口を開く。

「……わかっています、私にだって。コロナさんを巻き込むべきではなかったことは」

「アポロン、封印が間違いだったと言うのであれば、そこを通してもらえるな? ――俺は今から封印を解きにいく」

 アポロンは俺に言うことを聞き、素直に道をあけた。

 ただ、アポロンの表情を見るかぎり、俺の言葉に納得して道をあけたようにはとても思えなかった。――何かを隠している、そんな感じがしていた。

 と、その次の瞬間だった。――頂の方から、何かが爆発したような音が聞こえてきた。

「! 爆発? ……まさか、あの洞窟からか? アポロン、いったいどういうことだ?」

 俺はアポロンに詰め寄る。――が、今度のアポロンの表情は、本当に何も知らない感じの表情だった。

「さっきの爆発は、お前がからんでいるのじゃないのか?」

「い、イツキさん。も、もしかしてすでに、ふ、封印が解けているのではないでしょうか?」

 ジュピターの言葉に、アポロンがハッとした表情を見せる。

「多分、ジュピターの言うとおりです。恐らく、イツキさんが力を取り戻したことによって、プルートーの力も――」

「くっ――」 俺はあの洞窟に向かって、山道を駆け登り始めた。

「待て、破滅の光っ」 イオも慌てて俺に続く。

「い、イツキさん、イオちゃん。ま、待ってください」

 そして、ジュピターも慌てて俺とイオを追いかけ始めた。

 ……アポロンは、俺たちを慌てて追うことなく、ゆっくりと山道を登り始めた。――何か、決意のようなものを秘めた目で、その行く先を見つめながら。


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