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第02話「初めてのギルド依頼(クエスト)」

 ギルドでは、多数の張り紙を前にヨーコが考え込んでいた。

「充分な報酬を考えると、やっぱり『グリズリー』かな? でも、私一人で手に負えるのかな?」

 しばらく考え込んで、ヨーコは覚悟を決める。

「よし、勝ち目がなさそうだったら、撤退しよう。……その場合は、野宿になるかな?」

 張り出されている多数の張り紙の内の一枚を破りとり、それを受付に持っていく。

「この依頼をお願いします」 先ほど破り取った張り紙を受付に渡した。

 依頼内容を確認し、受付の女性がヨーコに問いかけてきた。

「お一人、ですか? ……貴女は後衛型ですよね? この依頼は後衛型お一人では少々厳しいかと」

 後衛型というのは、魔導師や弓使いなどの遠距離攻撃型のアドベントのことだ。

「それは、わかっています。ですから、やれるだけやってみようと――」

「うーん、弱りましたねぇ。どうしても貴女がやると言えば、こちらとしても危険だと承知したうえで受理するほかないのですが……。せめて、剣でも扱える方がいられればいいのですが。誰か、呼びかけますか?」

「ま、待ってください。呼びかけるにも、今の私には充分な報酬を払うほどの――」

 そう言いかけた時、背後から男の声がかかる。

「剣が使える奴がいればいいんだな?」

 ヨーコが振り返ると、そこにイツキの姿があった。

「イツキさんっ!? なんでここに?」

「お知り合いの方ですか? でしたら、この依頼はお二人で――」

「ちょ、ちょっと待ってください。――イツキさん。すみませんが、あなたを雇うほどのお金が今はないんです」

「……それは俺のせいなんだろ? 俺に剣を買ったからだろ?」

「そんなっ。あなたのせいだなんて私は思っていません」

「だったら、俺を雇うとかそんなのはなしだ。今度は俺がアンタに礼をする番だ。アンタにはいろいろ助けてもらった上に、武器まで手配してもらっているんだ。その武器でアンタの手助けをするのは当然のことだろ? そういうわけだ、受付さん。それは二人で受けさせてもらうよ」

「了解しました。では、依頼内容について説明をさせていただきます。今回の依頼は『グリズリー』と呼ばれるテットの討伐依頼となります。詳しい内容等はこちらに記載されていますので、出発の前にでもご確認ください」

 そういって差し出してきたのは、張り紙よりも細かいことがかかれている依頼書の写しだった。

「では、御武運をお祈りします」


 俺たちは、グリズリー討伐のために再び山に足を踏み入れることとなった。

 ……さて、手助けすると言い出しておいてなんだが、俺は何をすればいいんだろうか。

「協力するって言い出しておいて悪いが、こういう依頼ってのはいったい何をすればいいんだ?」

「今回の依頼は、指定されたテットを倒してくればいいだけですから、そんなに難しいことはないと思いますよ?」

「テット? ――そういえば、ギルドでもそんな単語がでていたな? テットってなんだ?」

「あ、テットっていうのは、……そうですねぇ、人以外の生き物全体の総称って言えばいいのでしょうか? ほら、そこを飛んでいる鳥や山の小動物とかも大きく分けて言えばテットって呼びますよ?」

「そうなのか。――で、俺らのターゲットとなるテットってのはどこにいるんだ?」

「ちょっと待ってくださいね――」 そういうと彼女はギルドで受け取った依頼書の写しを広げ始めた。

「……これによると、この山のどこかの洞穴を巣にしている可能性が高いそうです。ますはそれらしい洞穴を探してみましょう」

 洞穴ねぇ……。そんな場所だと、随分と戦いにくそうだな。

「あ、もしそれらしい洞穴を見つけても、中で戦闘するのは避けましょう。もし、グリズリーがそこにいたとしても、まずは外に誘いだしてから、です」

「だな。俺も今そう思っていた。戦いにくそうってな」


 俺たちは周囲を警戒しながら山道を進んでいった。

 途中、白い鳥のような小さなテットや、猪みたいな獰猛なテットまで、名前も知らないテットたちと交戦することとなったが、たいして苦戦することもなく、それらを退けていった。

 記憶がなくても、身体は覚えているってことだろうか。今の俺にとって、それは不思議な感覚でしかなかった。

 先を歩いていた彼女が、急に足を止める。

「イツキさん。それらしい洞穴があります」 彼女の視線の先には、いかにもな洞穴の入り口が見えている。

「あれが、ターゲットの根城か?」

「それはまだわかりませんが……。とにかく入って調べてみないと」

「わかった。ここからは俺が先を歩こう」 彼女を押し退けて、俺が前に出る。

「あ、待ってくださいイツキさん。これを使ってください」

 そういって彼女が俺に手渡したモノは、一枚のカードだった。

「? なんだ、これは?」 表裏とひっくり返し、カードの両面を眺めながらそう問い返した。

「それは照明の魔法です。光の届かない洞穴に入る以上、それは必要ですよ?」

「魔法? こんなモノがか?」

「あ、その魔法の使い方については、少し説明が必要になりますね? そのカードを手に持ったままでイメージをしてみてください。その魔法はただ光るだけの照明魔法ですから、カードが光るイメージをしてもらえれば発動します」

 言われた通りにカードが光るイメージを頭の中に描いてみる。――カードが光輝きはじめた。

「これは、どうやって消すんだ?」

「そのまま消えるイメージをしていただければ、消えますよ? あ、けど、邪魔になったらそのまま捨ててもらっても大丈夫ですよ? カードに込めた魔法力が尽きれば、そのままカードごと消えちゃいますので」


 洞穴に、もらった照明魔法カードをかざして中を照らしてみる。

 洞穴の中を見て、それはすぐにわかった。

 この洞穴は自然に出来た洞穴ではない。――何者かが土を掘り進めて作った形跡があるのだ。

 どうやらこいつは当たり、かな?

 何者かが掘り進めた狭い通路を慎重に進んでいくと、しばらくして、すぐに行き止まりに突き当たった。

 その行き止まりの足下を照らしてみる。

 そこには、わらや枯れ葉が敷き詰められており、その周りには木の実や野菜くずが転がっていた。

「どうやらここがグリズリーの巣で間違いないみたいですね、イツキさん?」

「ああ、そのようだな」

「じゃあ、入り口に戻って、ここの主が戻ってくるのを待ちましょう」

 今度はヨーコを先頭に、洞穴を引き返し始める。

 少し歩くと、洞穴の出入り口から外の光が見えてきた。

 ――が、その光はすぐに見えなくなってしまった。

 俺の気のせいか? そう思った時、急に前を歩いていたヨーコが足を止めた。

「あれ?」

「ん? どうした、ヨーコ?」

「あ、いえ。さっきまで外の光が見えていたような気がしたんですが……」

 俺と同じ、か。

 ヨーコが自分の照明魔法カードで前方を照らしながら、ゆっくりと前進していく。

 そして、出入り口付近に戻ってくる。

 戻ってきたはずなのだが、出口が見あたらない。

 ヨーコが照明魔法で壁を照らしてみる。

 映し出されるのは、土色の壁。――いや、一ヶ所だけ色の違う壁があった。

 鮮やかなほどに灰色をした壁。その灰色の壁が、洞穴の出入り口と同じカタチをしているということには、すぐに気付くことは出来なかった。

 灰色の壁が動き出す。――そこに現れたのは、暗闇に怪しく光る二つの眼球。

「下がれ、ヨーコ」 ヨーコを押し退けて、前に出る。

 そして、とっさに手持ちの照明魔法カードを現れた眼球に投げつけた。

 カードが眼球に命中すると、砕け散る間際に目映い光を放ち、粉々に砕け散った。

 カードが砕け散る寸前に照らし出したのは、巨大な熊の顔だった。

 その熊は、先ほどの目映い光に視力を奪われたのか、雄叫びを上げながら、前足で自分の顔面を押さえている。

 その瞬間、外の光が洞穴に差し込んできた。

 俺はこの隙を見逃さない。――前足で顔を隠している状態の巨大熊に、渾身の体当たりを食らわせた。

 出入り口の隙間が広がる。

 その隙間から、俺とヨーコは洞穴を脱出した。

 そして振り返り、問題の巨大熊と対峙する。

「イツキさん。グリズリーです、気をつけてください」

「わかってる」 俺は背中に手を伸ばした。――背中に固定されているバスタードソードを鞘から抜き、身構える。

 ……立ったままでも難なく歩くことの出来た、奴の巣穴の大きさを考えれば、想像が出来たことなのかもしれないが、グリスリーの大きさは、予想を一回りも二回りも越えていた。

 体長はおよそ三メートル。――巣に帰るところを邪魔されてか、かなり気が立っているように見える。

 グリズリーが後ろ足のみで立ち、両前足を広げて威嚇行動に出た。

 身体をより大きく見せて相手を怯ませる行為なのだが、それは相手が怯んでこそ効果のある行動だ。

 この時俺は、すでに奴の懐に潜り込んでいた。

 そして、威嚇行動で無防備となっている奴の腹部めがけて、バスタードソードを振り上げた。


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