第17話「イツキとイオ」
セピア色の光景が次第に色づいていく世界。――どうやら俺は、また夢の光景を見ているようだ。
「待ちな、『破滅の光』」
光景のイツキを背後から呼び止める少女の姿が見える。
辺りの光景は――山、か? どこかの山のようだな。
光景のイツキが破滅の光と呼ぶ声に振り返る。
少女の顔が確認できる。――少女は今のリョッカと同じくらいの歳に見える。
彼女の顔に見覚えがあった。前の夢に出ていた、たしか、イオという名前の少女。どうやら、あの子が成長した姿のようだな。
「イオ、か。悪いが今はお前にかまっている暇はない。俺には時間が残されていないんだ」
「私もお前の都合を考えてやれるほど余裕はない。――答えろ、破滅の光。お前はコロナ姉様の居場所を知っているはずだ」
「……」 イツキは何も答えない。
「それは、知っていて隠していると取っていいんだな? ――Delight」 なにも言わないイツキに対し、イオがディライトを宣言する。イオの身体が蒼白い光に包まれていく。
そして、ディライトした次の瞬間、いくつもの火球がイツキの周囲を取り囲む。
「やめろイオ。俺にはもう、あまり時間が残されていないんだ。早くしないと、俺の――」
「だったら答えろっ。姉様は今、どこにいる!?」
「……Delight」 今度はイツキの方がディライトを宣言した。
イツキのディライト宣言に、イオは表情をこわばらせる。
イオがイツキの周囲に浮かせてあった多数の火球を一斉にイツキの身体にぶつけにいった。
イツキの足下から、イツキの身体を包むように光の柱が現れ、空へと伸びていく。
光の柱は、イツキに向かって飛んできた火球をすべて飲み込み、その火球を上空へと打ち上げた。――上空で火球が大爆発を起こす。
火球が消えると、イツキはディライトを解除し、イオを無視して歩き始めた。――イオの脇を素通りしていく。
「――破滅の光っ」 イオはそんなイツキを鋭く睨みつける。
「頼む、イオ。今は俺をこのまま黙って行かせてくれ。俺にはもう、時間が残されていないんだ。このままだと、俺は俺でなくなってしまう。だから、俺をこのまま行かせてくれ」
イオが聞き分けの良い子供だったら、どれだけよかったか。――イツキの言葉に対してのイオの返答が、イオが納得なんてしていないと言うことを物語っていた。
「――ChaosDelight」 イオは、カオスディライトを宣言した。今度は、赤黒き光がイオの身体を包み込む。
さすがのカオスディライト宣言には、イツキは足を止めないわけにはいかなかった。足を止め、イオのいる方へと振り返る。
「やめてくれ、イオ。これ以上お前が俺の邪魔をするというなら、俺はお前を――」
「お前が姉様の居場所を答えればいいだけだっ。――私のカオスディライトはお前もよく知ってるだろ? すでにお前の周りの空間は私の能力で支配している。一歩でも動けば、私はお前に向けて能力を発動させる」
「……ChaosDelight」 イツキもカオスディライトを宣言する。赤黒き光がイツキの身体を包み込む。
「イオ。お願いだ、お前のカオスディライトを解除してくれ」
「解除しなければ、お前のカオスで私を撃つってことか? ……なんでだよ? いまお前が抱えていることは、姉様の失踪と深く関係していることなんだろ? 私ら仲間だろ? 私もお前もコロナ姉様を思う気持ちは同じようなものだろ? 姉様が困っているのなら、私は惜しむことなく力を貸す。お前が姉様のことについて、なにか問題を抱えていたとしても、一言、力を貸してくれといってくれれば、お前にだって惜しむことなく力を貸すさ。なのに、なんで力を貸してくれって言わないんだよ? なんで、こうして互いに刃を突きつけるような真似をしなくちゃいけないんだよ!?」
「イオ。今から放つ俺の攻撃は、絶対に全力で防御してくれ。……絶対に、防いでくれ。お前を傷つけるつもりはないんだ」 イツキがイオに掌を向ける。
ドラゴンバクをも簡単に貫いた、あの強力なカオスディライトの光線が今、イオに向けて撃ち放たれた。
「――くっ。破滅の、光っ」 イオの身体に、イツキの光線が命中する。
光線がイオの身体を貫かないことを見ると、イオは言われたとおりに全力でイツキの光線を防御してくれているということなんだろう。
だが、イオが受け止め続けている光線は、イオの身体を徐々に空へと押しあげていく。
イオの足が地面から離れた瞬間、イオの身体は光線とともに彼方へと飛ばされてしまった。
イオの姿が見えなくなると、イツキはカオスディライトを解除する。カオスディライトを解除した瞬間、イツキは頭を押さえながら、その場に片膝をついた。
「……まだ、消えないでくれ。せめて、もう一度『プルートー』に会うまでは、まだ全てを忘れてしまうわけにはいかないんだ。……許してくれ、イオ。すでに俺とプルートーの問題にコロナを巻き込んでしまっているんだ。その上、イオまで巻き込もうなんて俺には出来ないんだよ」
気力を振り絞り、イツキはその場から立ち上がる。そして、重い身体を引きずるように、再び歩きだしていた。
翌日、俺が目を覚ましたのは、日が高く昇りきった正午過ぎの時間だった。
「あ、おはようございます、イツキさん」 俺が目を覚ましたことに気づき、ヨーコが声をかけてきた。
「おはようじゃないでしょ、姉ちゃん。もう完全に太陽が昇りきってんだよ?」
「じゃあ、イツキさんも目を覚ましましたし、ギルドの方に行きましょうか」
「兄ちゃんがずっと目を覚まさなかったから、まだギルドに行ってないんだよ? だからちゃっちゃと準備しちゃいなよ、兄ちゃん」
「リョッカくんっ。――大丈夫ですよ、イツキさん。ゆっくり準備していただいても」
「いや、大丈夫だ。すぐに出られる。――行こう」




