第11話「イツキの選択」
「おい。なんだ、あの旋風は?」 映像が終わった直後にイツキから出た言葉は、最後にツムジが使った能力についての質問だった。
「何って、見ての通りだ。あれが俺のディライト能力だ」
「あの能力のおかげで、私たちは一瞬でギルドの前に移動することができたんです。そして、すぐにイツキさんをギルドの医療施設に連れていったんです」
「ここはギルドの二階にある、医療施設の病室なんだよ、兄ちゃん」
「ここに至るまでの経緯は理解できたな、イツキ?」
「……あと一つ。『エスタブリッシュ』って何のことだ?」
エスタブリッシュという単語にはずっと引っかかっていた。……あの夢でも出てきた、エスタブリッシュってなんだ?
「あれ? 俺、エスタブリッシュの事を口にしたか?」
とぼけているのか? それとも……
「えーと、ツムジさんがイツキさんの刻印を見たときに、エスタブリッシュからのメッセージがどうとか……」 ヨーコが確実に口にしていたことを告げる。……これで言っていないっていう言い訳はできないぞ。
「そうか、口にしちまったのか。……さて、どうしたものか。どこまで話していいものか」
「いいじゃん、全部話してくれても。もしかすると、その話で兄ちゃんの記憶が戻る可能性だってあるわけなんだしさぁ」
「イツキは俺からのメッセージを開けられなかったんだろ? だったらそれがどういう意味になっているのか、ある程度は察しがつくだろ?」
「ノーマルクラスのアドベントである私たちが、知っていい内容ではないと言うことですか?」
「だったら、おいらと姉ちゃんはまた席を外すよ? 別においらたちはツムジ兄ちゃんたちの秘密が知りたいってわけじゃないんだからさ」
「そういう問題じゃあないんだよなぁ。……仕方ない。あまり気は進まないが、こいつを使うとするか」
そういうと、ツムジが自分の刻印を立ち上げる。
宙に浮かび上がる文字に触れ、刻印に追加登録されている機能を選択する。
すると、この世界ではまず耳にすることでないであろう、電話の呼び出し音のような音がツムジの刻印から聞こえてくる。
「――はいはい。おや? どうされました、ツムジさん? あなたがコレで連絡をしてくるとは珍しいですね?」 ツムジの刻印から、男の声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた直後、ツムジの刻印から投影されていた文字が消えて、代わりに、恐らく声の主であろう男の姿が映し出される。
映像の男と、目が合った。
「! イツキさんじゃないですか!? ……そうですか、ツムジさん、イツキさんを発見されたのですね?」
見知らぬ男が、俺の名を口にしている。
「……アンタも、俺の事を知っているってことか?」
「どうされたのですか、イツキさん? いくらなんでも、それでは他人行儀ではありませんか?」
「今のイツキは記憶をなくしているんだとよ。――そこの二人が記憶をなくしたイツキを拾ってくれた仲間だそうだ」
ツムジが映像の男にヨーコとリョッカを紹介する。
「あ、はじめまして。私はヨーコと申します」
「おいらはリョッカだよ」
男がリョッカの名を聞いて表情を変える。
「リョッカさん、ですか? ……リョッカさん、以前に私とお会いしておりませんか? たしか、『グリーンライト』で――」
「! ひ、人違いだよ、きっと。おいら、兄ちゃんに覚えがないもん」
「そうですか……。まぁ、歳をとると若い方の見分けがつきにくくなるといいますしね、私の勘違いでしょう。――私は『サージ』といいます。しかしツムジさん? イツキさんが記憶をなくしているとはどういうことなんですか?」
「俺も詳しい経緯は聞いていないから何も知らないんだ。――俺はただ、イツキが能力を発動させた気配を察知してその場に駆けつけただけだったからな。で、どうすりゃいいか困ってお前に連絡を入れたってわけだ」
「サージさん。これからイツキさんはどうなるんですか? やっぱり、あなた方のところに戻られるのでしょうか?」 ヨーコがイツキの身の行方を心配して、サージに問う。
「おや? ……もしかして、ツムジさん? あなた、イツキさんがこれからどうしたいのかを聞いてはおられないのですか?」
「おいおい。聞くっていったって、イツキには記憶がないんだぞ? 本来なら、消息を絶った『コロナ』について聞きたいことがあったんだが、今のイツキじゃ聞けないだろ?」
……気のせいか? ツムジがコロナという名前を口にした時、一瞬だけヨーコが表情を曇らせたような気がした。
「ところかまわずはツムジさんの悪いところです。……今はコロナさんの事を口外してほしくはなかったです」
「おいらたち、席を外した方がいい?」 リョッカが場の空気を呼んでそう口にする。
「いえ、それには及びませんよ。……それに、まだイツキさんがこれからどうしたいのかを聞いておりません」
……どうするかって言われても、そんなの俺にもわからんよ。
そんなことを考えていることが顔に出ていたのか、サージは俺に向けて言葉を続けた。
「あなたには今、二つの選択肢があります。ひとつはツムジさんとともに、我々のところに戻ってくるか――」
「アンタらのところ? ――それが、エスタブリッシュってやつか?」
俺がエスタブリッシュと口にすると、サージが表情を変えた。
「ツムジさん?」 そして、サージの矛先はツムジへ。
「な、なんだよ、サージ?」
「あなた、エスタブリッシュについても、なにか口外しているのですか?」
「なりゆきで口に出しちまっただけだ。それ以上はなにも言っていない。――つぅか、なにを話したらいいかってところでお前に連絡を入れてんだ」
「そうですか。まあいいでしょう。――では、もう一つの選択肢です。もうひとつは、このまま、今のお仲間と行動をともにするという選択です」
「待て、サージ。イツキをこのままにしておくつもりなのか!?」
「選ぶのはイツキさんです。あなたが決めていいことではありませんよ、ツムジさん。……ですが、こんな重要な選択に即答を求めるのは酷というものでしょう。今日一日、そこのお二人ともじっくり話し合って決めてください。明日、もう一度どうするのかをお尋ねしますので、それまでに答えを決めておいてください。――ツムジさん。あなたにはお話がありますので、後で私のところに来てくださいね」
そう言うと、ツムジの刻印が映し出していたサージの映像が消えた。
「やれやれ、また説教かな? ――じゃあ、俺も失礼させてもらうとするよ。明日、ここを出るくらいの時間になったら、この下のギルドで待っているから、その時に答えを聞かせてくれ」
ツムジが部屋の扉を開けて退室していった。
この部屋には、俺とヨーコとリョッカの三人だけとなった。
「……兄ちゃん。これでお別れだなんて言わないよね?」
「私は、ツムジさんやサージさんのところに戻るべきだと思います」
「ちょ、姉ちゃん、何を言い出すんだよ? 姉ちゃんだって本当は――」
「それが、イツキさんのためなんです。その方がきっと、記憶を取り戻す可能性が高いんです」
「だからって……。おいらはイヤだよ? 兄ちゃんと別れるなんて」
「――心配しなくていい。俺の答えはもう、決まっている」
そう、答えはすでに決まっている。俺は――




