5色に輝く真実の石
私は8歳ころ、父と河原の散歩中に、不思議な岩を拾った記憶がある。
5色に輝く、てのひらサイズの岩である。
私は今その石を握っている。まるで加工を加えたように滑らかその岩肌からは、もとは巨大な岩だったが、河を流される間に削られていったことが容易に想像でき、時の流れを感じることができた。
ちなみにこの石、光の角度によって色が5色に変化する、というありがちなものではない、石は触れている人の感情によって、色が変化するのだ。
喜=橙色 怒=朱色 哀=藍色 楽=黄色 その他=白
と、いうように。
この石を見ると父との思いでが蘇る。
私は父が大好きだった。毎朝私が起きてくるころには仕事に出かけ、眠ったあとに帰ってくる。しかし、毎晩仕事から帰ったあとに、部屋に入り、寝顔を確認していることを私は知っていた。去年、高校に進学したあとも反抗期などを迎えることなく、父を尊敬しているし、愛していた。不安で眠れない夜には、父の帰宅を待ち、ドライブに連れていってもらう。どんなに疲れている日でも、父は笑顔であたたかく了承してくれた。目的地のない心地よい車の振動に揺られ、父と会話をしながら私は眠りにつく。そして、朝を起きると私はベッドにいる。父が運んでくれているのだ。
そんな父が、先週交通事故で他界した。あまりに突然の出来事。なぜか私は悲しくなかった。悲しみを感じない私が、信じられなかった。あんなに大好きだった父。その父の死に対し、私は一粒も涙を流すことが出来ない。許せなかった。自分が憎い、そうとさえ感じた。毎日泣き崩れ、父の遺影にすがりつく母。実感がないわけではない。はっきりと、わかっているのだ、父が死んだ、ということを。私には感情がない、欠落した人間だ、と思った。何も感じず、大切な人の死を偲べない。
赤子のように丸くなり、ベッドの上でうずくまる。そんな時、ふと、あの岩のことを思い出した。たしか、なぜか色が変わる岩を、父と一緒に見つけたんだ。記憶の糸を手繰り寄せ、しまってあったその岩を探し当てた。
「見つけた時は岩だと思ってたんだけどなぁ。この大きさじゃ、石ね。」
小さな小さなその石を手に取る。真っ白だったその石は、藍色に染まった。
私は泣き崩れた。
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