第6話 お泊り
私は起きてすぐ勇凛くんにメッセージを送った。
『おはよう。今日勇凛くんに話したいことがある』
暫くするとメッセージがきた。
『はい、わかりました。大学行ったあと、病院に行きます』
そして、次は会社。
私は電話スペースに行った。
「川崎です。体調不良で入院しているので、今日は休みます」
『入院?いつまで?』
「わかりません」
『そうか……仕事回らないから早く退院して欲しいな』
全く私の体調を心配しない上司。
「退院したらなるべく早く出勤します」
『ああ。宜しく』
電話はすぐに切られた。
これが当たり前だった日常。
本当に私を大切にしてくれる人。
そんな人が現れるなんて。
人生も捨てたもんじゃない。
運はあまりよくないタイプだけど、勇凛くんと出会えた私は運がいいのかもしれない。
病院の窓から見える朝日を見ながら考えていた。
◇
「血液検査の結果は良好なので、今日退院して大丈夫ですよ」
医師に言われた。
「はい!ありがとうございました」
よかった、やっと退院できる。
「旦那さんも喜びますね」
看護師さんが微笑む。
「はい……」
医師と看護師が去った後、勇凛くんにメッセージを送った。
『今日退院になったよ』
するとすぐに既読がついた。
『わかりました。できるだけ早く迎えに行きます』
優しい。
その後私は退院の手続きをして、勇凛くんが迎えにくるのを待った。
◇
──午後二時過ぎ
勇凛くんが病棟に来た。
「お待たせしました!」
息を切らした勇凛くん。
走ってきたのだろうか。
「勇凛くん、話したいことについてなんだけど……」
「はい」
「私、勇凛くんの奥さんになるよ」
勇凛くんは目を見開いている。
「本当ですか……?」
「うん。自分がやったことに責任持ちたい」
──それと
「私も勇凛くんと恋がしてみたい」
三十路でそんなことを言うのは恥ずかしかった。
でも、勇凛くんには正直でいたかった。
「嬉しいです」
勇凛くんの笑顔が眩しかった。
その時、医師と看護師が来た。
「川崎さん、退院後も規則正しい生活とバランスのいい食事を心がけてください」
「はい、わかりました」
医師が去ったあと、担当した看護師が微笑んだ。
そして、やっと退院できた。
といっても二日くらい。
「七海さん家まで送ります」
「うん」
二人でバスと電車を乗り継いで、私の自宅へ向かった。
駅からマンションまでの道のりを二人で歩く。
「七海さんの家、俺の家とだいぶ離れてますね」
「そうなんだ」
結婚する覚悟は決まったものの、私たちは別々の生活。
どうしたものか。
「七海さん、一緒に暮らしませんか?」
「え?」
「俺たち夫婦ですし、七海さんを一人にするのは心配です」
勇凛くんと一緒に暮らす──
今の距離感ですら感情が忙しいのに、同じ屋根の下で暮らすんなんて。
返答に悩んでる間に、自分のマンションに着いてしまった。
「あ、あの、その件はゆっくり考えていいかな?」
「はい」
「じゃあ勇凛くん、また落ち着いたら会おう」
とても夫婦の会話だと思えない。
家の前で離れようとした時、
「七海さん、俺今日泊まってもいいですか?」
勇凛くんが真剣な顔で言った。
──泊まる
そんな、この前知り合った男の子を家に泊めるの?
この前酔い潰れて勇凛くんの家に泊まったけど。
シラフでなんか狭い部屋の中はキツイ!!
いやでも勇凛くんとは夫婦であって、なんの問題もないし、むしろ断るのに違和感もあるし!
私は深く悩んでいた。
「嫌ならいいですよ。退院したばかりだから、何か手伝えればと思って……」
捨てられた子犬みたいな顔をしている勇凛くん。
「……いいよ。部屋片付けてくるから、どこかで待っててくれる?」
勇凛くんの顔が明るくなった。
「はい、待ってます」
私は複雑な気持ちを抱えたまま、家に戻って部屋を掃除していた。
どこに勇凛くんを寝かせるか。
床は申し訳ないし、ベッド譲ると床で寝るだろうし。
考えても答えが出ない。
勇凛くんにメッセージを送った。
『待たせてごめんね。準備できたよ』
するとすぐに返信がきた。
『俺も買い出し終わりました』
「買い出し?」
なんのことだろうか。
勇凛くんに電話しようとしたら、インターホンが鳴った。
ドアを開けると、スーパーの袋を持った勇凛くんが立っていた。
「夕飯を作ろうと思って買ってきたんですけど、いいですか?」
「わざわざありがとう……。勇凛くん料理できるんだね」
「そんなに得意という訳ではないですけど、七海さんの健康のためなら頑張ります」
健気だ……。
私もこういう人間だったら今頃おひとり様じゃなかったはず。
勇凛くんを自宅に上げた。
「七海さんの部屋……七海さんの匂いがします」
顔が熱くなった。
「七海さんはゆっくりしててください」
私は促されるまま座った。
「あ、そうだ、これ買ってきたんです」
勇凛くんはリュックから雑誌を取り出した。
「てんつなぎ??」
「はい。番号順に点をつなぐと、絵とか文字がでてくるんですよ。これも景品があるんです」
また可愛いイラストの表紙。
「勇凛くんってこういうのが趣味なの?」
「いえ、病院のコンビニにそういう雑誌がたくさんあって。やってみたら面白かったので」
私のために買ってきてくれたのか。
優しさが身に染みる。
「ありがとう。勇凛くんはいい子だね」
「……年下扱いしないでください」
少し不機嫌な顔に。
「ごめんね、これから気をつける」
「いえ、俺はまだ学生で、七海さんを養える金もないんで」
「ううん、学生とか関係ないよ。勇凛くんはそのままで十分だよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
少し機嫌が治った。
野菜を切ったり、味噌汁を作ったりしている勇凛くんを横目に、私はてんつなぎをしていた。
「七海さん、できました」
テーブルに置かれた勇凛くんの料理。
二人で席につく。
「いただきます」
手を合わせた。
味噌汁を飲んでみた。
「美味しい!」
「よかったです」
勇凛くんみたいな、穏やかで優しい味だった。
「勇凛くんは自炊するの?」
「そうですね。簡単なものですが作ってます」
「勇凛くんはすごいな。私なんてスーパーで買ってきたものばかりだよ」
「じゃあこれからは俺が作らないといけませんね」
「いや、私も作るから」
「七海さんは仕事だけでも大変だからいいんです」
「うん……ありがとう」
勇凛くんと一緒に暮らすことを真剣に考えた。




