最終話 三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚した件につきまして
仕事が終わってスマホを見ると、勇凛くんからメッセージがきていた。
『今日、話したいことがあります』
──え?
何?
話したいこと……?
そんな改まって言われると怖い。
『うん。わかった』
そう送ると電話がかかってきた。
『七海さん仕事終わりましたか?』
「うん。勇凛くん今どこ?」
『駅前にいます。今日家に来てもらうことできますか……?』
「うん。大丈夫だよ」
『じゃあ待ってます』
通話を終え、私は勇凛くんの元へ向かった。
◇
駅に着くと改札前に勇凛くんがいた。
「七海さん、お疲れ様です」
「勇凛くんもお疲れ様」
私たちは改札を抜けて、勇凛くんの家へと向かう。
話したいことってなんだろう。
勇凛くんの顔を見ると、いつもとそこまで変わらない。
謎だ。
「七海さん今日俺を見に来てたんですか?」
「え」
「森川さんに聞きました」
なんで言うんだよ……。
「ごめん。どうしても見たくて」
「嬉しいです。七海さんがこれからも、仕事もそうじゃない時もそばにいてくれるって、幸せです」
優しく微笑む勇凛くんの顔を見て、不安は安心に変わった。
◇
勇凛くんの家に着いて家に上がると、勇凛くんに抱きしめられた。
「七海。好き」
勇凛くんの温もりが私の疲れた心を癒す。
「私も好きだよ。勇凛」
優しくキスをする。
そして二人でソファに座った。
「話したいことって何かな?」
勇凛くんは真剣な顔をしていた。
「実は兄と話しました」
兄……とは。
「勇輝さん?」
「はい」
「どんなこと?」
「俺は、無理やりあの会社に入社させられましたが……父の話を聞いて、あの会社と兄のことをもっと知りたいと思ったんです」
「うん」
「それを兄に伝えました」
「なんて言われた……?」
「『そうか』って」
絶対そう言うと思った。
「あの人の本心、わからないよね……」
「いつかわかる日がくればいいなと、思ってます」
あんなに酷い仕打ちを受けた私たち。
でも、今は知ろうとしている。
不思議だ。
「私たち、成長したのかな」
「七海さんはすごいですよ!兄がこのまま七海さんを秘書にするなら認められてますよ!」
いや、それは、なんとも言えない。
「あ、あと、このマンションは解約してもいいと言われました」
「え?」
それってつまり
「二人で暮らせる……」
「はい。俺が迷ってしまってすみませんでした。でも、もう心は決まったので、俺は大丈夫です。七海さんと暮らしたいです。今すぐにでも」
その言葉を聞いたら、安心して涙が出てきた。
「よかった……」
やっと、やっと二人で暮らせる。
夫婦だったら当たり前なことがずっとできなかった。
でも、諦めなかった。
そんな自分を、私たちを今心から誇れる。
「七海さん、これからもずっと一緒です」
勇凛くんが抱きしめてくれた。
出会っていきなり入籍した私たちが、やっと心置きなく一緒に居られる喜びと安心に包まれ、幸せな余韻に浸りながら今日を終えた。
◇
──春
勇凛くんは大学を卒業し、林ホールディングスに正式に入社した。
そして、勇輝さんは正式に社長に就任した。
秘書課の人数が補充され、勇輝さんの仕事がより一層忙しくなったけど、勇輝さんは前よりか少し穏やかになったような気がする。
勇哉さんの行方を知っているのは森川さんだけ。
どうやら世界一周旅行を試みているようで、たまに森川さんに送られてくる写真を見せてもらっては、元気そうな姿に安心した。
勇凛くんが配属された部署は森川さんと離れてしまったけれど、たぶん勇凛くんなら大丈夫。
研修中から勇凛くんを間近で見ていた森川さんは、結構勇凛くんを気にかけている。
まるで三人目のお兄さんのように心配していて面白い。
そして私たちは──
ラウンド2の近くにいい物件を見つけ、二人暮らしを堪能している。
たまに仕事帰りにボーリングとカラオケを練習している。
勇凛くんはまだ一年目なのに仕事も家事も全力だ。
「勇凛くんも大変なんだから無理しなくていいよ」
とキッチンで言うと、
「また七海さんが入院したら大変なので頑張ります!」
スーツのジャケットを脱いでエプロン姿の勇凛くんが気合を入れている。
良き。
──その日
勇輝さんに同行して取引先に向かうため、車に同乗していた。
そしたら、前の会社の目の前を通り過ぎた。
そして勇凛くんのバイト先。
二人で話した雑居ビルの前。
婚姻届を書いた居酒屋。
婚姻届を提出した役所。
たった半年くらいでこんなに人生が変わるなんて、夢にも思わなかった。
三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚した件につきまして、
現在夫婦仲は良好。
社畜は卒業し、今は健全な社会人生活を送っている。
私は大切な人と一緒にいるために、これからも歩んでいく。
勇凛くんと一緒に。
──fin
最後まで読んで頂きありがとうございました。




