第41話 それぞれの道
勇凛くんのお父さんは、数日後に海外に帰ってしまった。
勇凛くんのお母さんには会えないままだった。
「うーーーん」
スッキリしない気持ちを抱えながらパソコンを睨んでると
「どうしたの?」
突然話しかけられた。
「わっ!」
勇哉さんである。
「びっくりしましたよ!」
「ごめん、なんか深刻な顔してたから様子見てた」
勇哉さんはいつものように、読めない表情。
「七海ちゃん色々巻き込んじゃってごめんね〜〜〜」
──今頃何言ってるのコイ……この人
いやもっと早くその言葉を聞きたかった。
「まあ、私も後先考えないで飛び込んだ道なので」
「え、そうなの?」
「……はい」
婚姻届を役所に持って行って提出したのは私だ。
巻き込まれた訳ではない。
「そうかー。俺さ、しばらく旅に出るわ」
「そうですか」
・・・。
「え?」
旅って
「会社どうするんですか?」
「森川くんがどうにかしてくれるよ」
いや森川さん来て少ししか経ってないよね!?
「それは無責任すぎるのでは……」
勇哉さんは椅子の背もたれに寄りかかり、のけ反って天井を見ている。
「自分の人生に責任を持つために、リセットしたいんだよ、心を」
意外な言葉だった。
「でも、結婚はどうするんですか……?」
「頭下げてキャンセルするよ」
ひ
「すごいお金かかりそうですね……」
「まあなんとかなるよ〜たぶん」
ニコニコしている。
訳がわからない人だけど、この人なりに人生をちゃんと考えているのだと、やっと少し理解できたような気がする。
ただ深く関わりたくはないから、この距離感でいたい。
「じゃあ七海ちゃん、元気でね」
「え……もう行くんですか?旅に……」
「うん、兄貴には前言ってOKでたから」
じゃあこの人とはしばらく会わなくなるのか。
「お気をつけて」
最後なら少しくらい笑顔を、とほんの少しの作り笑顔をした。
「あーーーそういう顔されるとつら」
私は顔を背けた。
笑顔なんてするんじゃなかった。
「帰ってきたら沢山かまってね」
そう言うと部屋から出て行ってしまった。
やはり嵐のような男だ。
◇
午前中の会議が終わり、私が会議室を片付けていると勇輝さんが来た。
「話したいことがある」
「なんでしょうか?」
「これから会社の体制が変わる。秘書課の人員配置も変える。何人かまた社員を戻す」
それは……
「認めてくれたってことですか!?」
「それとこれは話は別だ」
冷静な男だ。
そうか、社長になる……のか。
「勇輝さん、社長になったらもっと忙しくなりそうですね。体調気をつけてくださいね」
「は?」
凍てつくような視線で睨まれた。
「失礼しました……」
今は仕事中。
馴れ馴れしかった。
「私が忙しくなれば君も忙しくなるな」
「……私続投なんですね」
「まだ君の力量をちゃんと測れてないからな」
そう告げると彼は会議室から去った。
多分認めるなんて一生言われる気がしない。
ただ、クビにならなかったってことが、私がここに存在していい証明なのだろうか。
──それより
今日は勇凛くんが会社にいる日。
私はずっと我慢していた。
でも今なら……
私は勇凛くんが研修しているフロアに行った。
そして、勇凛くんがいる部署を覗く。
スーツを着た勇凛くんが、先輩社員と真剣に話している。
あああああ
尊い。
これだけ見られれば私はここで生きていける。
「何してるんだよ」
背後から声をかけられた。
「わ!森川さん……?」
たった一週間かそこらで、もうすっかりここの社員ですオーラが放たれている。
確かに森川さんがいると、安心する。
「ちょっと栄養補給を」
「自分の夫でか……。変な夫婦だな」
「いいんですこれで!」
そんな毎日見てる訳でもないし。
「じゃあこれからもほどほどに頑張ってね、社長秘書サン」
森川さんが私の頭にポンと触れた。
森川さんは勇凛くんの方へ向かって、何か説明している。
そんな姿を眺められる今をとても幸せに感じた。




