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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第40話 親子

「勇凛くん……」


「七海さんお疲れ様です」


 勇凛くんの表情は思ったより穏やかだった。


「すまんね呼び出して」


 社長は私たちの方へ来た。


「二人はどういう馴れ初めかな?」


 いきなり!?

 これはなんで答えれば……


「俺が一目惚れして、プロポーズしました」


 勇凛くんが直球で言った。


「そうか。七海さんは勇凛のことをどう思う?」


「え……と、真面目で誠実な方だと思っています。私のことをいつも気にかけて下さって、心優しい人です」


「そうか……。安心した」


 社長は窓際に言って、都会の夜景を見ている。


「勇凛もうちの会社に入ると聞いたから大事なことを話す」


「はい」


「私はね、経営のセンスがある方でないんだよ。だから、昔勇輝にかなり迷惑をかけてしまった」


「勇輝は責任感が強い子だから、私が失敗して経営が傾いた時、あの子が一生懸命この会社を立て直してくれたんだよ」


 それが勇哉さんが言っていた、『尻拭い』なのかな……。


「大事にしていた恋人がいたのに別れて、休む間もなく仕事をして、そして大手取引先の令嬢さんと結婚したんだよ」


 勇凛くんの瞳は揺れていた。


「そんなことがあったんですね……何も知りませんでした」


「勇哉もそんな勇輝を見てるからか、ちゃんとした恋人も作らず、勇輝のように会社に都合がいい人と結婚しようとしているね……」


 勇凛さんのお父さんの顔には後悔が滲んでいた。


「私は社長をしているが、もう身を引こうと思う」


「え……?」


 勇凛くんが目を見開いた。


「この会社の社長に相応しいのは勇輝だ。……ただそれは勇輝を縛りたい訳ではない。私なりの勇輝への謝罪だ」


 社長はそのあと、勇凛くんの肩を叩いた。


「あまり今まで一緒にいられなかったな。でも立派に育って、結婚して安心した」


 その表情は、親として子に向けられた、愛情のように感じた。


 そして私と勇凛くんは部屋を出た。


 エレベーターに乗って、二人で帰ろうと思った時──


「七海さん、すみません、もう一度父と話したいです。今日は送れないです」


 勇凛くん……。


「いいよ。沢山話してきて」


「ありがとうございます!」


 勇凛くんは途中の階で降りて、また社長室に向かった。


 私はそのまま帰ろうと思い、ビルから出ようとしたら──


「おい」


 この声は……。


 勇輝さんがエントランスに立っていた。


「お疲れ様です」


 ちょうど帰ろうとしていた様子だった。


「父と会ったのか?」


「……はい」


「そうか」


 き、気まずい……。


「今から時間をもらっていいか?」


「え?」


「そんなに時間は取らせない、ついて来い」


 ──な、なに??


 ◇


 勇輝さんに連れて行かれたのは、高級ホテルの中にあるバーだった。

 薄暗くて、お酒やグラスや間接照明に反射してキラキラしていた。


 勇輝さんの隣に座る。


 勇輝さんはウィスキーを飲んでいる。

 私はノンアルコールのカクテル。


 今日は覇気がいつもより少ない……気がする。


「体調は回復されましたか?」


「……ああ」


 勇輝さんはグラスの中で揺れる氷を眺めている。


「社長は俺の事を何か言っていたか?」


 言ってしまっていいのだろうか……。


 私が悩んでいると


「君が何を言っても何の支障もないから安心しろ」


 ならば。


「社長は、自分が経営のセンスがなくて勇輝さんに迷惑をかけたと、後悔していました」


 勇輝さんが飲み干した。


「そうか」


「あと……社長を退任する意向があるようです……」


 勇輝さんは何も言わなかった。


「大変な時に、とても頑張られてたんですね」


 勇輝さんが鼻で笑う。


「私も社畜だよ」


 う……

 キレて勇輝さんに言ってしまった言葉を思い出した。


「あの会社の利益のことしか考えこなかった。ずっと」


 店内のBGMだけが私たちの間に響いている。


 その後は何も言葉も交わさず、ただ私はそこにいるだけだった。


 勇輝さんは何かを考えながら、ゆっくりと呑んでいた。


 ◇


 バーから出た私が帰ろうとすると


「タクシーで帰りなさい」


 一万円が差し出された。


「勇輝さんはどうされるんですか?」


「私はここに泊まる」


「……女の人が来るんですか?」


 つい余計な事を聞いてしまった。


「あれは取引先で関わった人間が寄ってきて、都合がいいからああしているだけだ」


「そ、そうなんですね……」


「もうそこまでする気もなくなった。今日は一人でゆっくりしたい。それだけだ」


 勇輝さんは私にタクシー代を渡したら客室に行ってしまった。

 複雑な思いを抱えながら、私は自宅に向かった。


『お父さんと話せた?』


 勇凛くんにメッセージを送る。

 しばらくすると返信が返ってきた。


『はい。今日は送れなくてすみませんでした』


 勇凛くんはお父さんと何を話したんだろう。


 私には計り知れない林家の親子事情。

 でも他人事ではない。


 電車の中でこれからのことをぼんやりと考えていた。

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