第39話 勇凛の父
──翌日
私と勇凛くんは水族館にいた。
張りつめていた毎日の息抜きのため。
暗い空間が落ち着く。
「七海さん、クマノミかわいいですね」
大きい立派な魚たちが泳ぐ中、ささやかにイソギンチャクの中に潜むクマノミを見ている勇凛くん。
「そうだね」
クマノミを見つつ勇凛くんを見る。
綺麗な瞳。
最近じっくり見れていなかった。
周りの環境が騒がしくて。
勇凛くんとプカプカ浮かぶクラゲを見て、
ペタペタ歩くペンギンを見て、
イルカをショーを見て──
のんびり二人でデートするのは幸せ。
デートする時は、いつもより甘めのコーディネート、ナチュラルメイク、見た目だけでも年の差を埋めようと頑張る。
「七海さん、今日もすごく可愛いです」
勇凛くんはちゃんと気持ちを伝えてくれる。
「ありがとう」
だからもっと自分磨きをしないと!と気合が入る。
「でも、七海さんが会社でもそうだと、不安です」
「何が?」
「また誰かが近づいてくるかもしれないので……」
くっ
勇凛くんの思い込みからの可愛い嫉妬。
顔がにやけそうになる。
「会社では、こんな格好したら勇輝さんに怒られるよ」
「そう……ですよね」
余計な名前を言ったせいで気まずい沈黙が流れる。
「これは勇凛くん専用コーディネートなの!勇凛くんの前以外ではしないよ?」
「……嬉しいです」
優しく微笑む勇凛くんが愛おしい。
そして、水族館を満喫して、今日は私の家へ。
「今日はロールキャベツを作る!」
私は新たな料理に挑戦することにした。
「俺も手伝います!」
具材を混ぜて、二人で茹でたキャベツで具材を包む。
煮立てた鍋に入れて、グツグツ茹るのを待つ。
二人で久々に『まちがいさがし』をしながら。
「なんでこんな簡単な絵なのに見つからないんだろね……」
「はい。挫けそうになりますね」
そしてタイマーが鳴った瞬間
「見つけたー!」
最後の間違いを見つけてスッキリ。
そのあと食べたロールキャベツは
『美味しい!』
二人で声が揃ってしまった。
笑顔がこぼれる。
その時、勇凛くんのスマホに着信があった。
「すみません」
勇凛くんが離れたところで電話にでた。
「え、明日?」
勇凛くんが焦っている。
電話を終えたあと、神妙な面持ちの勇凛くん。
「どうしたの?」
「……実は」
「うん……」
身構えてしまう。
「もう父が帰ってきてて、明日父が本社に来るそうです……」
え……?
そんな……
これは……
またもやピンチ……?
◇
──月曜日
勇凛くんのお父さんが会社に来る。
緊張して眠れなかった。
でも月曜日は溜まったメールを朝からチェックしないといけないからいつもより早めに出発。
デスクで仕事に勤しんでいると、秘書課のドアが開いた。
とても険しい顔の勇輝さんが来た。
「お、おはようございます……」
私何かやらかした……?
「今日は社長が来る。会議があるから同席するように」
社長は勇輝さんのお父さんでもある。
確か勇哉さんが、勇輝さんがお父さんの尻拭いをして大変だったと言ってたような。
「承知しました」
初めて会う勇凛さんのお父さん、そして勇輝さんの過去。
何があったのか……。
◇
──午前10時
本社大会議室。
末席で緊張してソワソワする私。
会社の重役が沢山いる。
その中に勇輝さんはもちろんのこと、勇哉さんも。
心なしか勇哉さんの表情も険しい。
──そして、一人の男性が颯爽と入ってきた。
落ち着いた雰囲気で穏やかそうな……
なんだか勇凛くんに少し面影がある人。
この人が、勇凛くんのお父さんなんだ……。
全員が着席すると
「では定時になりましたので始めます」
勇輝さんが告げた。
そのあとは勇輝さんはじめ重役が現在の会社の経営状態について説明をした。
社長はうんうんと頷きながら資料を見ていた。
会議は淡々と続き、あっという間に終わった。
「質問はありますか?」
勇哉さんが尋ねる。
──沈黙
「それでは、以上をもちまして本日の会議を終了いたします」
会議が終わり、社員がどんどんいなくなり、残ったのは、社長と勇輝さんと勇哉さん。
と私。
行った方がいいのか……?
「失礼します……」
小さな声で私が会議室から出ようとすると
「待ちなさい」
社長に呼び止められた。
こ、怖い……
恐る恐る社長の方を見ると──
笑顔だった。
「君が勇凛と結婚した七海さんかな?」
「は、はい……」
勇輝さんと勇哉さんは冷たい視線で私たちを見ている。
「勇凛が結婚したって聞いて驚いたが、しっかりしてそうな人だ。また今度ゆっくり話そう」
そう私に言うと、会議室から出て行ってしまった。
あまりに難なくすんなり話が終わって拍子抜けしてしまった。
「なんだあれ」
勇哉さんが吐き捨てるように言って出て行った。
勇輝さんもため息をついた。
「戻って業務を続けろ」
「はい……」
この親子……何があったの?
よくわからないまま、自分のデスクに戻って仕事をした。
◇
──定時
勇凛くんは今日は大学。
だけど
『父に呼ばれて本社に来てます』
とメッセージが来ていた。
──え
すると内線がかかってきた。
「はい、秘書課です」
『私だ。勇凛の父だ。社長室に来なさい』
社長室……。
嫌な思い出が蘇る。
また私たち二人に何か突きつけられるのではないかと身構える。
「今から向かいます」
私は揺るがぬ信念を胸に社長室に向かった。
◇
──最上階
なぜか今日は空気が落ち着いてる。
社長室をノックする。
「どうぞ」
社長の声が聞こえる。
「失礼します……」
そっと入ると、そこに社長と勇凛くんがいた。




