第38話 七海の家族
──土曜日
勇凛くんを連れて実家近くの最寄駅に立つ。
「緊張します……」
スーツを着てコートを着ている勇凛くん。
昨日までは落ち着いてたのに突然緊張しだした。
「大丈夫だよ〜私もう三十路だし。結婚して親も安心してるかも」
「でも、大事な娘さんじゃないですか……」
若いのに考え方がやや渋い。
父は手術をして経過観察で入院中により、病院にお見舞いがてら、勇凛くんを紹介。
駅で病院行きのバスを待つ。
地元はそこまで遠くないけど、会いたい人も特にいなくて、お盆や年末年始に顔出す程度。
「あ、川崎さん……?」
後ろから声をかけられた。
子供を連れた女性。
「どなたですか……?」
全く記憶にない。
「え!小中同じだったのに!」
よーく見てみると、やや記憶が蘇ってきた。
「あ……中村さん……?」
「そうだよ〜!覚えててよかったー」
確か少し仲がよかった気がする。
しかし、見た目が全然違う!
あの時はぽっちゃりしていたけどすごくスリム。
時の流れは人をこんなに変えるのか。
「川崎さん昔と雰囲気全然違ってびっくりした〜!あの時はのほほんとした感じだったけど、今はキャリアウーマンって感じでかっこいい!」
のはほん……
のほほんとしていたのか私。
「ありがとう」
「隣にいるのは……彼氏さん?」
「ううん、夫」
「えー!すごいカッコいいね!二人ともお似合い!」
──釣り合って見えてよかった……
「急に話しかけてごめんね!じゃあね〜!」
中村さんは子供と去って行った。
「七海さんは昔は全然違う雰囲気だったんですね」
勇凛くんは興味津々だ。
「うーん。自分だとよくわからないなぁ」
ただ、まだ擦れてなかったというか。
「勇凛くんは小さい頃から東京にいるの?」
「はい。遠くに実家がある人に憧れます。俺、修学旅行くらいしか遠くに行ったことなくて」
え
「勇凛くん、家族や友達と旅行は?」
「兄さんたちと歳が離れてるし、両親は定住しませんし、家族旅行はしたことないです。友達と遊びに行くのも制限されていたので……」
切ない……。
そんな状況でもこんないい子に育ったんだ。
きっと生まれとか関係ない。
勇凛くんは生まれた時から勇凛くんだったんだ。
「これから二人で沢山色んなところ行こうね」
そう言うと、輝くような笑顔で「はい!」と答えてくれた。
◇
二人でバスに乗って病院に到着。
病棟受付で名前を告げて、病棟入口の前でしばらく待つと──
病棟の自動ドアが開き母が出てきた。
「あ、お母さん!お父さんどう?」
母は私を完全に無視して勇凛くんを見ている。
「七海の母です。こんなところまですみません」
勇凛くんに頭を下げている。
「いえ、入院中にすみません」
勇凛くんも頭を下げている。
そのあと、父の病室に案内された。
病室のカーテンの向こうには、点滴をしている父がいた。
「お父さん、体調どう?連れてきたよ」
父は身構えていた。
「ああ。もうすぐ退院できる」
勇凛くんがそっと入ると、驚いていた。
「初めまして、林勇凛と申します」
勇凛くんが頭を下げた。
「え……あ……君いくつ?」
お父さんいきなり失礼すぎる!!
「二十二です」
お母さんも驚いている。
「七海と八歳も離れてるの!?」
うーん、これは想像できてたけど。
「何があったの??」
「え、結婚したいなって思って結婚しただけだよ」
やや事実を誤魔化す。
「え?職場の人って言ってかかった?」
う……
「ごめん……実は、勇凛くんは大学生なの」
唖然としている両親。
「え、学生と結婚したの!?」
「うん……」
「相手のご両親は大丈夫なの!?」
「実はまだ挨拶できてなくて……」
「こっちより先にそっち行きないよ!」
母が焦っている。
「いえ、僕は先にご挨拶したかったです」
勇凛くんが、いつもより逞しく見えた。
「まだ学生ですが、七海さんと一緒にいたくて、僕が無理を言ったんです」
勇凛くん──
初めて会った日のことを思い出した。
居酒屋から出たら勇凛くんに話しかけられて、告白されて。
「そうか……。しっかりしてる子だな。これからよろしく。勇凛くん」
父は穏やかな顔で言った。
「はい、よろしくお願いします」
勇凛くんが頭を下げた。
「ところで二人は結婚式はするの?」
母が尋ねる。
「まだ決めてないよ」
「そう。じゃあ決まったら教えてね」
──と、あっさり終わった挨拶。
病棟から母と一緒に出ると……
「あ!七海と、“勇凛くん”だ!」
姉ちゃんがいた。
真実を全て知っている姉ちゃん。
なぜここへ!?
「なんで姉ちゃんがここに……?」
「だってお母さんから七海と勇凛くんがこっち来るって聞いたから見たくて来ちゃった」
ひあああああ
姉ちゃん言わないで色々!
「勇凛くん!すごいイケメンじゃん!林ホールディングスの社長の息子さんと結婚するなんて七海すごいよねー!」
あああああ
「は?」
母の表情が変わった。
「どういうことなの……?」
うーーーん
「お姉ちゃんの言うとおりだよ……」
母がふらついた
「そんな……七海に務まるの?」
「七海さんは父の会社で今働いてます。兄の秘書をしてますが、とても頑張ってます」
母が悩んでいる。
「まあ……頑張りなさいよ七海。自分が選んだ人生なんだから」
「うん。がんばる」
「でもさー出会って次の日に結婚はすごいよねー!」
姉ちゃんにこれから何も相談できん。
「は!?」
母はまた驚いている。
「俺が……出会った次の日に婚姻届を七海さんに持っていきまして」
姉ちゃんが色々話したせいで、また改めて来ることになった。
──帰り道
「七海さんのご家族、優しいですね。俺のことも受け入れてくれて嬉しいです」
うちはウェルカムだけど、勇凛くんの家族の方が問題なんだ……
緊張してきた!
「どうしよう……」
「どうしたんですか?」
「勇凛くんのご両親に会うのが怖い」
勇輝さんみたいに、また言われたら──
「何を言われても。俺は貫きます。この思いも、七海さんとの関係も」
勇凛くんが私の手を強く握った。
「うん……」
例えまた大きな壁が立ちはだかったとしても、私たちなら大丈夫。
──きっと




