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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第37話 世界で一番

「森川くんも七海ちゃん好きなくせに何強がってるんだよ」


 それを今言わないで!


 ──沈黙


「俺は、別に彼女とどうにかなりたいわけじゃないので」


 肉を食べながら冷静に答える森川さん。


「兄さんもうやめてください……」


 弱々しい声の勇凛く……ん?

 と思って顔をよーく見たら酔っている。

 そんなに飲んでないはずなのに。

 まさか私と同じく酒に弱い……?


「七海は俺の妻です!いい加減にしてください!」


 大きな声を張り上げる勇凛くん。


 店員が来た。


「お客様、もう少しお静かにお願いできますか?」


 ──沈黙


「七海の可愛いところ知ってるのも俺だけだよ」


 それ言わないで……。

 私は俯いて顔を押さえていた。


「へー俺も見たーい。今度お願いしよ〜」


 勇凛くんを弄ぶかのような笑みを浮かべる勇哉さん。


「は?」


 勇凛くんの目が血走る。

 酔っ払い兄弟が一触即発。


「もう出ようか」


 冷静で落ち着いた声の森川さん。

 そして、私たちは店から出た。


 酔っ払い勇哉さんを森川さんが請け負い、酔っ払い勇凛くんを私が支える。


「じゃあ、お疲れ」

「はい、色々すみません……」


 森川さんはタクシーに勇哉さんを押し込めて一緒に去った。


 嵐のようだった。


 ◇


「勇凛くん、歩ける?」


「七海さん……すみません」


 夫婦で禁酒だ……。


 勇凛くんを連れてまた勇凛くんの家に向かう。


 空に月が見えた。

 勇凛くんと初めて出会った時に見た時みたいな満月。


「私たち、頑張ってるよね」


「七海さんは、本当にすごく頑張ってて尊敬します。森川さんも、どんな人かよく分かってませんでしたけど、社会人の先輩として、こうなりたいって純粋に思えましたよ」


「うん。私もあの人には色々助けられてる」


「……そうですね。それは正直本当に悔しいです。でも俺もすぐ追いつきます」


「無理に追いつかなくていい」


「え?」


「あの人はあの人、勇凛くんは勇凛くん。私は勇凛くんらしくあってほしい。私はただ側にいてくれてるだけで十分なんだ」


「……はい」


 正しい夫婦の在り方なんて私は知らない。

 ただ、私と勇凛くんが笑顔で一緒にいられればどんな形でもいいんだ。


 いきなり夫婦になってしまった私たち。

 そこからもう普通ではなかった訳で、それでも私たちは夫婦であろうとしてる。

 それだけですごいことなんだ。


 勇凛くんの家に着いたあと、私は家には上がらずに自宅に帰った。

 もちろん勇凛くんには止められたけど、今日は一人で歩きたかった。


 前の私に少し戻って、今を見つめるために。


 ◇


 一人で電車に揺られ、帰る道のり。


 前までこれが当たり前の日常だった。

 仕事をして残業して、理不尽に耐えて、波風立てず目の前にあることをこなす。

 そして空っぽな心と気怠い体を引きずって歩く。


 一人で暮らす、一人で過ごす。

 気楽だけど少し寂しくて、世の中に置いて行かれているようで。


 電車の窓の外の住宅街の夜景を眺めていると、スマホにメッセージがきた。


『七海さん、今日は迷惑かけてすみませんでした。気をつけて帰ってください』


 ──勇凛くん


 君に出会わなければ、今ごろ私はどうしていただろう。

 結局不満を溜め込みながらあの会社を続けていたかな。

 転職して、その先で別の人生があったかな。


 君に出会って何もかも変わったよ。

 忘れていた大切な気持ちをたくさんくれた。

 人を愛することを知ることができた。

 守りたいと本気で思える。


 突きつけられた現実に挫けそうになったけど、出会ったことに後悔なんて一度もしたことがない。

 むしろ出会えてよかったよ。


 入院したあの日


『七海さんとなら、うまくやっていけると思うんです。これからずっと』


 って言ってくれた。


 あの時は全く想像もできなかった。

 でも、今ならはっきりと言える。

 勇凛くんとなら何があっても私はずっと一緒に歩んでいける。

 どんなに大変でも頑張れる。


 君は私と恋がしたいと言った。

 私も君に恋をした。

 その気持ちは絆になって、愛になって、私は君とこれからもずっと一緒にいることを誓える。


 年下でも頼りなくても、誰がなんと言おうと、私は君のことが世界で一番大切だよ。



 私はそのあと、実家の母にメッセージを送った。


『約束通り、土曜日に連れて行くね』


 そして電車から駅のホームに降りた。


 ◇


 家に着いて勇凛くんにメッセージを送る。


『家に着いたよ〜』


 するとすぐに


『お帰りなさい』


 と返ってきた。


 そして、念のために森川さんにメッセージ。


『どうですか……?』


 やや情緒不安定な勇哉さんを丸投げしていたから気になっていた。


 すると着信が。


「お疲れ様です!大丈夫ですか?」


『うん。なんかあの人、マリッジブルー?みたいな感じだな』


「え……なんか全くその言葉と勇哉さんが結びつかないんですけど」


 意外すぎる。


『川崎さんと勇凛くんの事見て、羨ましいって言ってたし、たぶん色々あの人なりに悩んでるんだと思う』


「そうなんですね……」


『まあ、そんな感じだから、川崎さんはいつも通りで』


「あ、はい。教えて頂きありがとうございます」


『……勇凛くん。真っ直ぐで真面目な子だな』


「はい。勇凛くんはそういう人なんです」


『二人には幸せになってほしいよ』


「え……?」


『じゃあおやすみ』


 電話は切られてしまった。


 ──森川さん


 私もあなたに幸せになってほしい。

 勇哉さんには迷惑しかかけられてないけど、あの人にだって幸せにはなってほしい。

 私の今後のためにも……。


 そして私は、勇凛くんから前もらった、勇凛くんの高校時代の弓道着姿の画像を見ながらその日を終えた。


 これも私の宝物。

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