第30話 出張同行!?
「え……いつ頃日本にいらっしゃるの?」
「まだはっきりは決まってないんですけど、近々という感じで、また連絡がくると思います」
ど、どうしよう。
ご両親にまで反対されたら、私、やっていけるの……?
でも息子が結婚したなら、親として相手の顔は見たいのは当然だし……って。
「あ、私自分の親にちゃんと言ってなかった」
自分の親が完全に空気だった。
「そうですね。俺も七海さんのご両親に挨拶に行きたいんです。ただこんな状況になってしまって、なかなか気持ちが落ち着かなくて……」
私も……。
「そんなに慌てていく必要はないよ。うちの場合は」
とりあえず電話だけしとくか。
「なるべく早く行きたいです」
勇凛君のまっすぐな視線を見ると、安心する。
迷わないで進めるから。
「一応電話で報告だけしていいかな?」
「はい!」
そして私たちは帰路についた。
◇
家に着いて、母に電話をかけた。
『もしもし~』
久々に聞いた母の声。
「夜遅くにごめんね。ちょっと話しておきたいことがあって」
『ん~?なに~?』
「私実は結婚したんだ」
『……え?』
事後報告ごめんお母さん!
「色々あって言うタイミング逃してた」
『え、相手は?』
なんていえば……!
「職場の人で……」
一応今は同じオフィスで働いている。
『色々聞きたいんだけど、今お父さんが入院しちゃって』
「え?なんで??」
なんで言ってくれないんだよ!
『健康診断でひっかかっちゃって。もしかしたら手術かもしれない』
そんな……!
「じゃあ私行くよ!」
『そんなに慌てなくていいわよ。癌とかじゃないから』
母と電話を終えた後、悶々と考えていた。
両親も、いつまでも健在じゃない。
なら、ちゃんと勇凛くんを紹介したい。
私は意を決した。
勇凛くんに私はすぐにメッセージを送った。
『土日のどちらかに、両親に会いに行きたい。できれば勇凛くんと一緒に』
するとすぐに返信がきた。
『はい。是非一緒に行きたいです』
やっと親に勇凛くんを紹介できる。
順番は逆だけど、今は胸をはって、勇凛くんが夫だって言える。
◇
──翌日
早めに出勤。
閑散とした秘書課に座り、引き継ぎ書を見ながらスケジュール確認をする。
すると秘書課のドアが開いた。
「早いな」
勇輝さん。
「おはようございます」
冷静に、秘書らしく振る舞う私。
「明日出張になったから、準備をしておけ」
──はい?
「え、どちらに……?」
「福岡だ。これが取引先の資料だ。夜に会食もあるから、宿泊の手続きもしなさい」
宿泊!?
「私も行くんですか……?」
「ああ。君は帰ってから会議資料を作るにあたって同席してもらう」
「あの、副社長と二人で、福岡に行くんですか?」
「何か問題でも?」
問題大ありだ!
「私は勇凛さんの妻ですので、たとえ秘書であっても二人というのは誤解を生みますし、よくないと思うんです」
返事がない。
っていない!!
言いたいことだけ言って彼は去った。
ちょっと待って、なんであの人と二人で福岡に!?
◇
いきなり明日から出張とか無茶ぶりすぎて、朝からテンションがだだ下がりだった。
私は慌ててパソコンを開いた。
福岡のホテル……予約サイトを開く。
でも、どこがいいの?
勇輝さんが泊まるようなホテルって、どのランク?
五つ星?
それとも?
航空券も……ビジネスクラス?
ファーストクラス?
頭が真っ白になる。
うわぁ……どうしよう。
また元秘書課の人に聞くかー……と内線を押そうとしたら
「七海ちゃんおはよ~~~」
普通に入ってくる勇哉さん。
「おはようございます……」
なんで来るんだよ。
今度はなんなんだよ。
「今日は何するの~?」
なんで聞いてくるの??
「明日から副社長と出張なので、諸々の手続きや資料確認です……」
「え!?兄貴と行くの??いいな~」
じゃあお前が代わりに行ってくれ。
本気でそう思った。
「あの……副社長が泊まるホテルってどういうところか聞いてもいいですか?」
背に腹は代えられない。
「いつも泊まる場所は決まってるよ~。場所は?」
「福岡です」
「ちょっと待ってて」
勇哉さんはどこかに電話をかけた。
「あ、林です。いつもの条件で、明日福岡往復ビジネスで一泊お願いします」
え……?
勇哉さんが電話を切った。
「え、どこに電話かけたんですか……?」
「取引先の旅行代理店。ここに言えば手配してくれるよ」
私が悩んでいたことは一瞬で解決された。
「ありがとうございます……」
やばい、私全然自分でできてない。
「どういたしまして~。あ、そうだ七海ちゃん泊まること言うの忘れてたー。俺も行こ~」
は?
「え?俺も行こうって……?」
「俺も明日福岡行く」
何言ってるのこの人!?
「え、冗談ですよね?」
「いや。行くよ」
「なんでですか?」
「なんか気になるから」
気になるから??
「会社どうするんですか!?」
「一日くらい大丈夫だから」
この人は──
「勇哉さんって、仕事でもそんな感じなんですね……」
無責任な人。
「あれ~そんなこと言っていいの?俺のおかげだよね?出張手配できたの」
う
「そうですけど、頼んでませんし」
勝手に借りを作ろうとしてるんでは……。
「俺これでも、七海ちゃんと勇凛のこと応援してるんだけど」
「え……?」
応援?
全くそうは思えなかった。
むしろ邪魔をしてるとも思っていた。
「信用できないです」
「まあいいけど。どう思われても。俺はよく知らない女と半年後に結婚するし」
結婚!?
知らない女?
「そ、そうなんですね。おめでとうございます」
「何もめでたくないよ。自由に動きにくくなるし」
勇哉さんは笑っているはずなのに、瞳からは感情を感じ取れなかった。
「あ~。本気で恋愛しておきたかったな~」
なんて答えればいいか全くわからない。
とりあえず、明日の取引先のことと資料を確認しないと。
私は資料に目を通していた。
「でもさ。見つけちゃったかも」
「はい?」
勇哉さんが私の顔を覗き込んだ。
「俺、七海ちゃんと本気で恋愛したい」
今まで見た中で一番優しい笑顔だった。
でも
「冗談はもうやめてください」
流石にこれ以上相手にできない。
「冗談じゃないんだけど」
いつもより声が低くて反射的に手が止まってしまった。
恐る恐る見た勇哉さんは笑ってなかった。
まっすぐだった。
あの時の勇凛くんみたいに──




