第24話 は や く に げ ろ
家に入って私たちはすぐにお風呂に入った。
二人で……。
この前はすごく動揺していたのに、勇凛くんから一緒に入ると言いだした。
狭い湯船に二人で浸かる。
勇凛くんの肌が心地よかった。
お風呂の中の勇凛くんは色っぽい。
張り付いた髪。
滴る水滴。
まるで頑張ってきたご褒美のようだ。
でも勇凛くんの表情は曇っている。
「勇凛くん、どうしたの……?」
「……あの人、七海さんのこと好きですよね」
──あの人……?
森川さん!?
いや、そうなんだけど。
「違うよ。私が世話が焼けるから色々してくれるだけだよ」
「好きでもない相手になら、そこまでしないですよ」
なんて言えばいいのか。
「勇凛くん。例えそうだとしても、私はあの人のことを恋愛対象としては見てない」
「……そうだとしても、悔しいんです」
勇凛くんの綺麗な顔が歪む。
「あの人にも、兄さんたちにも俺は敵わない」
勇凛くんのこんな姿、見たくなかった。
こんな思いをさせたくなかった。
どうすればいいんだろう。
私は勇凛くんにキスをした。
「勇凛くん!あの人たちがどうであれ、私にとって一番の男は勇凛くんだよ!」
私の気迫に勇凛くんがやや驚いている。
「年齢も肩書きも関係ない!私が欲しいのはあなたなの!」
風呂の中に大きく響く私の声。
しばらくすると勇凛くんの腕の中に包まれた。
「ありがとうございます」
勇凛くんの表情が優しくなって、嬉しかった。
流石にのぼせそうだ。
「もうそろそろ出ようか」
私が立ちあがろうとすると、腕を掴まれてキスをされた。
深く絡み合う。
私は混乱していた。
勇凛くんがこんなことをしたことに。
心臓がおかしくなりそうだった。
離れたあとに、私は硬直していた。
「すみません……ちょっと今日は余裕がないです」
そう言う勇凛くんの表情は、どこか艶めかしかった。
お風呂から上がって速攻で布団の上に寝転んだ私たちは、二人の温度だけで溶け合っていた。
この前は受け身だった勇凛くんが別人のように求めてくる。
本当にあれが初めてだったの……?
「七海さん……最低なこと言ってもいいですか?」
「え……?」
「本音を言わせてください」
「うん」
何……?
勇凛くんは深呼吸したあと、呟いた。
「七海に触れていいのは俺だけ。七海に近づく男は許さない。七海は俺だけのもの。」
その瞳が真剣すぎて、息を呑んだ。
「……引きましたか?」
「ううん。嬉しい」
驚いだけど、独占欲剥き出しの勇凛くんも好きだ。
──そのあと
何かが溢れたように、勇凛くんは何度も何度も求めてきては同じ言葉を囁き、私はそのたびにその喜びに浸っていた。
◇
──翌日
私は森川さんに謝罪した。
「昨日はご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
森川さんはいつもと変わらない表情。
「旦那さんとは話し合えた?」
「はい」
「……大変だな。二人とも」
「そう……ですね」
「心配だ」
そう呟いて森川さんは戻った。
◇
仕事が終わって、ビルから出ると勇凛くんからメッセージがきた。
『今日はゼミの集まりがあるので連絡が遅くなります』
今日は勇凛くんに会えない……。
寂しさを抱えながら駅に向かおうとすると──
路肩に見たことがある車が。
私は引き返そうとした。
「あ!七海ちゃんお疲れ〜」
──勇哉さんが待ち伏せていた。
今日はお前か!!
ほぼ毎日ローテーションで誰かとエンカウントするのなんなの!?
私は逆方向に歩いた。
「何でそっち行くの??」
追いかけてくる。
私はやや小走りに。
「待って〜」
勇哉さんは追いかけてくる。
「私に関わらないでください!」
「なんで?俺たち家族じゃん!」
家族!?
「家族とか言わないでください!!」
そりゃ私も一応戸籍上は林家の人間だけど!
この人と家族というのに抵抗感がある。
勇輝さんもそうだ。
「あ、こっち向いた」
勇哉さんが笑う。
弄ばれてる……
「あなた何しにきたんですか……?」
「暇だから七海ちゃんとご飯食べたくて」
は?
「私は一応あなたの義妹ですけど……」
「それだとダメなの?」
ダメというか……この人は何かが欠けている。
私が絶望の淵に立たされていると肩を叩かれた。
振り返ると──
森川さんが立っている。
なんでまたいるんだよ!
勇哉さんは森川さんを見てキョトンとしている。
「え、七海ちゃんの彼氏?」
なんでそうなるの?
「会社の先輩です!」
「イケメンだし。七海ちゃんやるね!」
聞いてない?わざと?
「勇凛くんのお兄さん?」
小声で森川さんが聞いてきた。
「はい。二番目のお兄さんです」
私も小声で答えた。
「初めまして。七海さんにいつもお世話になってる森川と申します」
森川さんは勇哉さんに対して突然腰が低くなった。
「そうなんだ~森川君よろしくね~」
相変わらず何考えてるかわからない笑顔の勇哉さん。
「七海さんがそちらに転職すると聞いて。俺も転職を丁度考えていて、そちらに行きたいなーって思ってたんです」
何を言ってるの?
本気で言ってるの……?
「え、マジで?いいよ~おいで〜」
いいよ?
「いいんですか……?」
私はつい言葉にだしてしまった。
「うん。なんか仕事できそうだし森川君」
それはそうなんだけど!
なぜ林ホールディングスに、その場のノリで!
「本当ですか!?嬉しいです!これからよろしくお願いします」
「うん、宜しくね!森川君~」
え、これは、どういうこと?
「じゃあ森川君これから一緒に飲みに行こうよ。いい店あるからさ~」
「はい!ありがとうございます、是非!」
勇哉さんは嬉しそうに森川さんと車へ……。
私は空気になってしまった。
森川さんが振り返った。
は や く に げ ろ
そう口が動いた気がした。
そして勇哉さんは森川さんを乗せて、行ってしまった。
森川さーーーん!!
なんでこんなことに……。




