第22話 罠
──翌日 夜7時30分
私は林ホールディングスの本社ビルの前にいた。
勇凛くんには会社で飲み会があると嘘をついてしまった。
いったい何が目的なのか。
エントランスの受付に行き、名前と要件を告げると、また最上階に案内された。
一人でエレベーターに乗って最上階に行く。
鼓動が早くなった。
エレベーターが開くと、前と同じく、空気が重たい重厚感があるフロア。
勇輝さんがいるであろう社長室に向かった。
深呼吸をしてノックをする。
すると、扉が開いた。
──勇輝さんだった。
緊張して足がすくんだ。
「逃げずによく来たな」
含みのある笑みを浮かべている。
「逃げませんよ。ところでご用はなんですか?」
わざわざこんな時間に呼び出して。
「腹が減ってるだろう」
「は?」
「今から食事に行くからついてこい」
え。
なんで……?
「お腹はすいてません!用事だけ済ませて早く帰ります!」
その時凍てつくような視線で睨まれた。
動けなくなった。
「要件はこれから話す」
私は仕方なくついていくことにした。
エレベーターで二人で一回まで降りると
「こっちに来い」
正面ではなくビルの裏の出口に彼は向かった。
外に出ると、目の前に黒いリムジンが停まっていた。
「え……?」
状況がわからず声が出てしまった。
リムジンの扉が開き、勇輝さんが乗った。
「君も乗って」
私も!?
わけもわからず私はリムジンに乗った。
私が乗るとすぐに車は動いた。
初めて乗った……。
テレビだと見たことあるけど、自分が乗ることになるなんて。
豪華な内装を見渡していた。
「初めてか」
勇輝さんが呟く。
「はい。そうですけど」
何故かそれ以上言ってこない。
何を考えているかさっぱりわからない。
そのまま無言で車に揺られてしばらくすると──
リムジンは超高級ホテルの前に泊まった。
「え?」
なぜホテル!?
用件っていったいなんなの?
私は激しく混乱していた。
リムジンから降りて、勇輝さんは真っ直ぐホテルのエントランスへ。
「ちょっと待ってください!なんでここに来たんですか!?」
「食事をしに来た。それだけだ」
こんな高級ホテルで……?
「……その前に連れて行きたい場所がある」
また!?
「どこですか?」
「ついて来い」
話を聞け!
返事をしろ!
だんだんイライラしてきた。
連れて行かれたのはホテル内のブティック。
「へ?」
間抜けな声が出てしまった。
「ドレスコードがあるから、適当に選びなさい」
ドレスコード……?
店にはフォーマルなドレスがずらりと並んでいた。
デザインや質感からして高そう。
「こんな高価なもの買えませんよ」
「私が払う」
なぜ?
訳がわからない!
「早くしろ」
鋭い目で睨まれた。
くっ……
私が払わなくて済むなら、適当に選んで着てやるよ!
私は一番高そうなドレスを選んで着てみた。
「じゃあこれで」
嫌がらせだ。
「わかった。じゃあこれもつけろ」
次は箱を渡された。
なんだこれ。
開けると……
宝石がついてるネックレスにイヤリング。
なんでこんなことになるの……?
私が戸惑っている間に店員が靴を待ってきて、勇輝さんは支払いを済ませた。
私は全身を金で埋め尽くされた気分だ。
「じゃあ行くぞ」
足早に店を出る勇輝さん。
追いかけようとしたら、ヒールが高くてコケてしまった。
が、受け止められた。
「悪かった」
なんかこの人今日若干優しくない?
奇妙な違和感感じていた。
そのままエレベーターに乗り、ホテルの最上階のレストランに向かった。
その間、チラチラと勇輝さんを見ていた。
全く読めない男だ。
ため息が出る。
エレベーターが開くといい匂いがして、自然とその方向に足が向いてしまった。
今まで一度もこんな立派なレストランに来たことがない。
場違いだ。
たじろいでしまう。
「行くぞ」
勇輝さんが手を差し伸べる。
「いえ……自分で歩けるんで」
この手に触れたら危険だと頭がアラートを出している。
店員に案内された場所は、個室だった。
都会の夜景が一望できる場所。
綺麗な夜景に見惚れていた。
「意外に似合ってるな。ドレス」
「はい?」
「中身に問題があるんだな」
どういう意味!?
すると、店員が入ってきたから仕方なく椅子に座った。
なぜこの人とサシで食事しなきゃいけないんだよ。
食欲がゼロになった。
「なぜ勇凛を選んだ」
いきなり核心を突く質問。
本当のことなんて言えない。
でも。
「彼が私に誠実だったからです」
これは真実だ。
「……そうか。その返事は悪くない」
すると、ワインが運ばれてきた。
血のような色のワインが注がれる。
「乾杯しよう」
「私、お酒飲めません」
「……仕方ない」
そのあと水が入ったグラスが置かれた。
私が水を飲もうとすると、勝手にグラスを鳴らされた。
──もう嫌だ。
食事が運ばれてくる。
私の気持ちを置いてけぼりに、かわるがわる料理が並べられる。
優雅に食べる勇輝さんを横目に、一口程度しか口に入らない。
結局ほとんど食べることができずディナーは終わった。
勇輝さんが会計を済ませる。
「あの、結局用件はなんなんですか?」
「あとで話す」
なんで今じゃないの!?
「明日も仕事あるのでもう帰ります!」
もう我慢の限界だった。
「わかった。すぐ済むからついてきなさい」
なら今ここで済ませろ。
と言いたいところだけど、彼はそのまま出口に一直線。
もーーー!
「待ってください!」
彼についていくと、客室の方に向かっている。
「え?どこに行くんですか?」
彼が向かった先に客室の扉。
彼はキーをかざして扉を開けた。
中は、テレビで見たことあるようなホテルのスイートルームだった。
「入りなさい」
「……嫌です」
なんで客室に……?
「話を聞かれるとまずい」
なんの話なの?
「安心しろ。このあと別の女が来る。君に手はださない」
人をからかうような目線。
私はその女とよろしくやるための繋ぎか。
よく見たら指輪もしてるし、既婚者。
私の前で、まるで不倫宣言。
「……わかりました。用件だけ聞いたらすぐに帰ります」
私は客室に入った。
立派な客室を眺めてると、ドアが閉まり、その瞬間──
彼に抱き寄せられた。
──は?
驚きすぎて何も声が出なかった。
そんなに強い力ではない。
でも、身動きがとれない。
怖い。
「欲しいものはなんでも与えてやる。だから俺のものになれ」
え。
どういう意味……?
「……なに言ってるんですかあなた」
「気に入った」
全く心が読めない表情。
──でもわかった。
「あなた、勇凛くんから私を引き離すためにこんなことをしたんですね」
罠だったんだ。
「……なぜそう思う?」
「信用できないからです」
腕の力が緩んだ。
彼はソファに座った。
「一筋縄ではいかないか」
私は渡されたアクセサリーを外してテーブルに置いた。
そして靴もその場に置いて履き替えた。
流石に目の前で服は着替えられない。
「ドレスは今度返します」
「不要だ」
私はすぐに部屋を出た。
エレベーターに乗ると、スマホに通知が来た。
『飲み会どうですか?迎えに行きますよ』
私はそのメッセージを眺めて、胸が熱くなった。
絶対に負けない。
屈しない。
この関係を守り抜く。
そう誓った。




