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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第2話 目覚めれば夫婦

 朝起きて、昨日のことが夢なんじゃないかと思った。

 でも、スマホを見たら、しっかり名前とトークがある。


 現実だった。

 どうしよう……


 私は急いで着替えた。


 もしかしたら彼の気持ちが変わってるかもしれない。

 そんな望みをかけて家を出た。


 ◇


 職場に着くと、重くのしかかる現実。

 育休中の先輩に続き、産休に入った後輩、穴埋めに入った派遣社員は仕事が遅い。


「矢野さん、さっき渡した資料、入力終わった?」


 派遣社員の若い女の子は、のんびりとキーボードを打っている、


「あ、まだです。もう直ぐ終わります」


 私がやれば十分で終わる。

 でもそこまで手が回らない。


 気分を切り替えるために、自販機でエナドリを買って一気飲みした。


「うわ、それやめた方がいいよ」


 振り返ると、同じ部署の森川さんだった。

 私の二個上の先輩で、仕事ができて、会社の評価もよくて、割とイケメンである。


「お疲れ様です」


 私が呟くと、森川さんは缶コーヒーを買って私の隣に立った。


「カフェイン中毒になるよ」


「……でも飲まないと頭冴えないんですよ」


「川崎さん毎日遅くまで残ってるもんね」


 森川さんはコーヒーを飲み干すと、「無理しないでね」と言って去っていった。


 無理しないと終わらないんだよ……。

 心の中で呟いた。


 ◇


 案の定、今日も残業。

 派遣社員は大して仕事もせずに帰る。

 これ以上人件費を出せないからと補充はなし。

 上司は私の教え方が悪いと言う。


「もう無理かも……」


 スマホで転職サイトを開いた。


 その時、メッセージの通知がきた。

 勇凛くんからだった。


『お疲れ様です。仕事どうですか?』


 はて。

 そういえば昨日、また会う約束をしてたような……。

 でも、今日も遅い。

 また今度にしてもらおう。


『ごめん。今日は無理かも』


 するとすぐ返信がきた。


『待ってます。昨日二人で話した場所で』


 このままフェードアウトしようと思ったのに、昨日の彼の真剣な顔を思い出すと、できなかった。


 ──午後10時


 やっと仕事が終わって、私は急いで会社を出た。

 そして昨日、2人で話した場所に向かった。

 大通りの雑居ビルの前。

 そこに行くと、勇凛君が立っていた。


「待たせてごめんね」


「いえ、仕事、お疲れ様です」


 寒い中、かなり待たせてしまった。


「あの……待たせたお詫びにご飯行かない?」


 こんな時間にする提案ではないのは重々承知してるが、思いつくのはそんなことだった。


「はい!」


 勇凛くんの爽やかスマイル。

 癒される……。

 母性本能を刺激してくる。


 そのあと、近くにある飲み屋に行った。

 少しだけご飯を食べて帰るはずだった。


 しかし、一杯だけなら──


 私は気が緩んだ。


 ◇


 鳥の囀りが聞こえる。

 朝か。


 ゆっくり起き上がると──

 全然知らない場所にいた。


「なに、ここ……」


 ワンルームの部屋。

 シンプルな家具。

 私は黒いシーツのベッドで寝ていたようだった。


 寝息が聞こえる。


 ふと床を見ると──

 勇凛君が寝ていた。


「え!?」


 思わず叫んでしまった。


 私が叫んだら、勇凛くんもびっくりして起き上がった。


「なんでなんでなんで!?」


 私は混乱していた。


「落ち着いてください。昨日七海さんは酔い潰れて、仕方なく家に連れてきたんです」


 最悪だ。


「ごめんなさい……」


 項垂れる私を見ると、勇凛君は立ち上がった。


「コーヒー飲みますか?」


「はい……」


 申し訳なくて目を合わせられない。


 勇凛君はドリップコーヒーを淹れてくれた。

 マグカップがテーブルに置かれる。


「ありがとう」


 コーヒーのいい香りが漂う。

 私はコーヒーを少し飲んだ後、ふと現実に戻った。


「え、今何時?」


 見渡すと時計があった。


 ──8時


「やばい!!」


 また叫んでしまった。


「どうしよう!遅刻だ……」


「七海さん、今日土曜日ですよ」


「え?」


 勇凛くんがスマホからカレンダーを見せてくれた。


「あ、本当だ……よかった……」


 安心して、空気が抜けた風船のようになった。


「七海さん、あの、昨日のこと覚えていますか?」


「え?」


「覚えてないんですね……」


 勇凛くんは困っている。


「え、何があったの?」


「昨日、飲み屋にいる時に、俺、婚姻届を七海さんに渡したんです」


 ──え?


「婚姻届!?なんで??」


 頭の中は大混乱だった。

 全く覚えていない。


「結婚することを前提に、なら考えてくれると言ってたので……。俺の本気を見せました」


 嫌な予感がした。


「それ今どこにあるの……?」


「七海さんが書いて、そのまま役所に一緒に行ったんです」


 まさか……。


「何度か意思確認したんですけど、そのまま七海さん婚姻届出しちゃったんです」


 血の気が引いた。


「え、つまりそれは……」


 勇凛くんが少し恥ずかしそうにしている。


「俺たち、夫婦になったんです」


 あまりの衝撃的な事実に、そのまま気を失ってしまった。


 勇凛くんの私の名前を呼ぶ声が聞こえた──


 ◇


 ──目が覚めたら、今度は真っ白な天井。


 周囲がカーテンで仕切られている。

 腕には点滴針が刺さっている。


「ここって……」


 その時カーテンが開いた。


「あ!七海さん、目覚めてよかったです!」


 勇凛くんが飲み物を持っている。


「え、私病院に運ばれたの?」


 勇凛くんは頷いた。


「声をかけても反応がなくて救急車呼びました」


 勇凛くんは真剣な顔で私を見ている。


「無事でよかったです」


 その真っ直ぐな視線に射抜かれてしまう。


「ありがとう」


 恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。


 暫くすると、またカーテンが開いた。


「あ、川崎さん、起きられたんですね」


 看護師だった。


「最近すごく忙しかったんじゃないですか?。血液検査の結果をみると、やっぱりちょっと過労の影響が出ていますよ。」


 血液検査の紙を渡された。


「具体的には白血球が少し増えていて、体がストレスを感じているサインです。それから肝臓の数値もちょっと高め。無理が続くと血糖値や脂質も乱れやすくなるので、これからは少し休むことも大事ですよ。」


「はい……」


 仕事で身体に支障が出まくりだった。


 その後、今度は白衣を着た男性が来た。


「川崎さん、今日は経過観察のために入院してください」


「え!!」


 明日退院できるの!?


「月曜から仕事があるんです!」


「川崎さん、自分の体調を一番に考えてください。健康はお金では買えませんよ?」


 看護師が優しく言う。


 まさかこんなことになるなんて──

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