第15話 ギャップ萌え
「染まる……?」
勇凛くんは頷いた。
「俺は自分の足で生きていきたいんです。親の所有物のようにはなりたくないんです」
陽が少し傾いてきて、勇凛くんを照らした。
勇凛くんが輝いて見える。
「兄たちのように生きるのは嫌なんです。今までは経済的理由で親の決めた学校に行ってますが、卒業したら、自分の自由に生きたいんです」
勇凛くんは私を見た。
「結婚も……自分の決めた人としたかったんです」
胸が高鳴った。
「うん……。話してくれてありがとう。嬉しい」
涙が出そうになった。
「なんで私なのかな。いまだによくわからないよ。それだけは」
勇凛くんは私の手を握った。
「初めて会った時、あなたがいいと思ったんです。それじゃダメですか?」
ダメじゃない。
ただ自信がない。
「七海さん。自分では気がついてないかもしれませんが……とても魅力的です。今まで会った女性の中で一番惹かれました」
自分だとまったくわからない。
「大袈裟だよ」
「他の誰がどう思っても、俺にとって七海さんが一番なんです」
勇凛くんの握った手に力がはいる。
勇凛くんの気持ちが伝わる。
自信はないけど、勇凛くんの気持ちは信頼できる。
「勇凛くんありがとう。私も今まで出会った男の人の中で、勇凛くんが私のことを一番大切にしてくれている。本当に信頼できる人だよ」
二人の手が硬く握られる。
絆を深めるように──
「早く家を決めましょう」
「うん」
「あと……」
「うん」
「これからラウンド2行きませんか?」
「……え?」
予期せぬ誘いだった。
◇
勇凛くんに導かれながら、私たちはラウンド2に行った。
久々に来たな……。
勇凛くんは受付に行ってお金を払っている。
「あああ!私も払うから!」
「いえ、俺が払います。俺が誘ったんですから」
しばらくすると勇凛くんが戻ってきた。
「まず、ボーリングやりませんか?」
ボーリング。
ちょっと……いやだいぶストレス溜まっていたから、やりたい。
「うん!」
私たちはシューズを履いて、ボーリングレーンに向かった。
まずは勇凛くん。
投げる前からわかる。
目線、姿勢。これは上手い。
勇凛くんが思い切り投げた一投。
──ガーター一直線だった。
え?
勇凛くんはショボンになってる。
「あーやっぱダメです」
「え?勇凛くん今の偶然だよね?」
「いえ……俺苦手なんです。ボーリング」
意外すぎた。
なんでもできるイメージだった。
「じゃあ七海さんの番ですよ」
今度は私が構える。
私も得意じゃない。
ピンをじっくり眺める。
その時、なぜか勇凛くんのお兄さんが頭に浮かんだ。
その時の怒りをそのまま一投に込めた。
──まさかのストライク。
「七海さん凄いです!」
勇凛くんが手を叩いて喜んでいる。
ごめん、勇凛くん、お兄さんにボーリング投げつけてた。
その後も勇凛くんはガーターと、わずかなピンを倒す程度で、そのギャップが逆に尊かった。
私は──
今までやってきた中で一番の高得点を叩きだした。
これはストレスのせい……?
「七海さんすごいですよ。結構運動神経ありますよね?」
「いや……部活でバレーボールやってたくらいだよ」
その時、勇凛くんの目が輝いた。
「七海さんのバレーボールやってる姿、見たいです!」
唐突なお願いに戸惑った。
「暫くやってなかったから、もう無理かも」
しかもレギュラーじゃなかった。
「じゃあ今度、市民体育館とか借ります!」
マジか!!
「勇凛くんはスポーツやってなかったの?」
「弓道を……でもやっぱ当たる方が珍しかったです」
勇凛くんの弓道技姿。
死ぬほど見たい。
「え、写真とか持ってる?」
私は必死だった。
「え、一応ありますけど……」
「見せて」
「嫌です……」
「じゃあ私のも見せるから」
「……はい、じゃあ見せます」
勇凛くんは嬉しそうだ。
勇凛くんのスマホに入っていた、高校時代の弓道着姿──
カッコ良すぎる!!
やばい、これは同じ高校に通っていたら一目惚れしてた。
今度着てくれないかな。
「勇凛くん、ありがとう……私なんか回復してきた」
「え、なんでですか?」
「いや、気にしないで」
「じゃあ七海さんの見せてください」
勇凛くんの真剣な眼差し。
私は仕方なくスマホの写真の履歴を漁っていた。
十年以上前の写真。
あった。でも最悪だ。
写真の私の両脇に可愛い女子がいた。
「どうぞ……」
勇凛くんに見せた。
「……七海さん。可愛い……」
「え?」
「俺、たぶん同じ高校だったら告白していたと思います」
一気に顔が熱くなった。
「ありがとう……。お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないです!本当です」
勇凛くんはまた見ている。
「これ、大判印刷して、家に飾りたいです……」
「え……」
私の高校時代の写真を……。
「勇凛くん、画像送ってあげるから、それはやめよう。なんか嫌だ」
勇凛くんはまたショボンに。
「だって昔の私愛でられるの複雑だよ。今の私、見てないみたいで」
昔の方が若くてエネルギーあったから仕方ないけど!
「今の七海さんが一番好きです。でも昔の七海さんにも恋してしまったんです……」
複雑な心境だった。
「勇凛くん、次はカラオケをやろう」
私はこの話題から抜け出したかった。
「え……」
凄い嫌な顔をされた。
「え、ダメ?」
「いや……七海さんが歌いたいなら、どうぞ」
勇凛くんの反応が気になるが、私たちは次はカラオケの部屋に入った。
「勇凛くん先歌っていいよ」
「……いや、七海さん歌ってください」
「え、うん。わかった」
私は懐メロを歌った。
もう今の流行りの曲もわからず、青春時代の曲しか歌えない。
「七海さん、歌上手いです!」
勇凛くんは目をキラキラさせている。
「ありがとう。じゃあ次、勇凛くん」
マイクを渡した。
「あ……俺はいいです」
なぜ!?
「え、聞きたいよ」
「いや、俺はちょっと」
「少しでいいから」
勇凛くんは悩んだ末、なぜか昭和の歌謡曲を選んだ。
「七海さん、引かないでください」
勇凛くんは歌い出した。
それは──
見事に音程を外しまくっていた。
「もうここまでで勘弁してください」
「う、うん。大丈夫だよ」
──しばしの沈黙
「幻滅しましたよね」
「ううん。勇凛くんのこういう一面が知れて、嬉しい」
「本当ですか?」
「うん、親近感湧いた」
「……ならよかったです」
勇凛くんが安心している。
ヤバい……。
これがギャップ萌えというやつだろうか。




