第八話 女神の償い(エピローグ)
真っ黒に染まった魂を腕に抱き「この子」が私から離れていった、泉のほとりへと足を向ける。
私は救えなかった。
愛していたのに救えなかった。
一度目は神の理を破ることが出来ずに、見殺しにした。
私はこの子に力を与えることしかできず、定められた寿命を伸ばすこともできない。
その理を破れば世界そのものが崩壊してしまうから、どうしても助けることができなかった。
泣き叫ぶこの子をただ見ている事しかできなかった。
二度目はこの子を守るために与えた力が暴走し、世界の三分の一を破壊する獣へと変貌させてしまった。
愛する者が死んでから、寄る辺を失い、聖女としての使命を暴走させたこの子を二度と人に侵されないよう、力を与えた。
けれど、間違いだった。
それを私に認められているとこの子は誤認し、さらに力を暴走させた。
人々が死にゆくたびに私の心は裂けるようだった。
それでも、この子が再び傷つき、蹂躙され、汚されることだけは、どうしても許せず力を与え続けた。
私は、世界よりも、正義よりも、ただこの子が他者に侵されない事を選んでしまったのだ。
だから誰にも止められなくなってしまった。
このままでは世界が滅ぶ、その滅びの先にこの子の幸せはない。
傷つけたくなかった、でもこれ以上の暴走を見過ごすこともできなかった。
どうしたらいいか頭を悩ませ、最後の望みを託し、この子が愛し再会の約束をした魂を輪廻転生の輪にそっと流した。
せめて愛したものの手で終わることが出来たことに安堵したけれど、その魂は黒く染まり、ただ消滅を待つだけの存在となっていた。
「ごめんなさい、それでも私はあなたを殺せない」
泉へと魂を浮かべ、浄化されるように祈る。
いつか輪廻転生の輪へ戻れるように。
いつか愛した人と再び出会えるように。
いつか本当の幸せを得られるように、ただ私はこの魂が浄化されることを祈ることしかできない。
◆
「アルヴィン、私幸せよ。とっても幸せ」
「アウラ、僕もだよ」
「なんだか、ここまで長かった気がするわ」
「そうかい?僕は君と出会ってから、瞬く間に幸せな時が過ぎていったよ」
二人の男女が身を寄せ合い、笑いあう。
彼女のふっくらしたお腹を、二人は愛おしそうに撫でている。
ずいぶんと長い時が過ぎたけれど、ようやく私はあの子を幸せに導くことができた。
私はもう、あの子たちの運命の糸には触れない。いいえ、触れてはいけないのだ。
ただ見守るだけの女神として、彼らの幸せな一生を見守りましょう。
さようなら、愛しい子。
私の声が二度と届かない場所で幸せになってね。




