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第六話 世界を救うもの

「ねぇ、あなた今幸せ?」


私を前に言葉も出ない人間の命を救済に導く。

簡単な事だった。


アルビオンを失ってから、なぜか聖属性の力が増した。

だから、「戦意」という傷を癒して奪う。奪って奪って奪って、私に祈りを捧げる人間の命を救う。



最初はアルビオンを殺した人間たちを。

その後、アルビオンを殺すことを命じた国王を。

国王だけじゃ足りなくて、城にいる人間。

でも、不老不死を求めるのは人間だから、城下にいた人間を。

城下以外にも人間がいるから、それ以外も。


そうやってどんどん人々を幸せに導いていった。

あぁ、どんどん世の中が良くなっていく、人々が幸せになっていく……。


「見てますか、女神様。今、私は一生懸命人々を幸せにしています。ねぇ、いい子でしょう?あなたの愛しい子はちゃんと人々を幸せにするという使命を果たしていますよ」


私の行いが良いことだから、女神様の力の一端である聖属性の力が増したのだ。

だからこれは女神様も認めている「人々の救済」なのだ。



ふらり、ふらり……。

人間を見かければ、幸せに導き、飽きれば眠る。これの繰り返し。

たまに、襲い掛かってくる人間もいるけれど、癒してあげれば、幸せになりたいと皆泣くのだ。


「助けてください」

「お願いします、命だけは」

「生きたい」


耳元で何かが鳴っている。 命乞い、だろうか。

かつて私もそう叫んだことがあったような気がする。

けれどそんなものよりも素晴らしいものを私は与えてあげられる。


大丈夫、心配しないで。

誰一人、取りこぼすことなくちゃんと幸せにしてあげるから、待っていてください。



最初の頃は真っ白な体に血がついて汚れるから困っていたけれど、今は真っ黒になったから血の色なんて気にしなくて良くなった。

綺麗な私でいられることは気分が良かった。



ふらり、ふらり。

あぁ、今日はあの村がいい。

あの村を救いに行きましょう。


「や、や、やめてくれ!!」

「この子だけは、どうかこの子だけは……」



大丈夫、私がみんなを幸せにしてあげます。

家族みんなで幸せになってください。


「あ、あ、あぁ……!!!」

「化け物め!!」



化け物?

おかしなことを言いますね、私は聖女で、聖獣で、清く正しいものですよ。

大丈夫、そんなあなたたちでも私は幸せにしてあげますから。



ふらり、ふらり、ふらり。

あら、珍しい、私を前に武器を持って立っているなんて。

大丈夫、辛く苦しいことはなにもしなくていいですからね。

今、楽にしてあげますから。



「……アニマ」



その言葉に魂が震え、足が止まる。



「アニマ、約束通り会いに来た」

「……」


あなたは誰?

どうしてその名前を知っているの?


「アニマ、それがお前の名前だ。俺が見つけた魂に刻まれた名」

「……っ」


”アニマ……。それがお前の魂に刻まれた名だ”

いつかの光景が甦る。ねえ、あなたなの?


「随分と汚れたな……」

「アル、ビオン……?」


どうして人間になっているの?あなたの美しい白銀の体はどこへ行ってしまったの?

ねぇ、どうして、私を置いていったの?


「疲れただろう、もう休んでいい。おいで」

「あ、あ、あ……」


一歩も動けなかった。

ありえない、アルビオンは死んだ。

それに私の前に立っているのは人間だ。私が幸せにしなければいけない人間。


なのに、どうしてこんなに懐かしいの。嬉しいの。幸せなの。


「もうあの大きな翼はないが、お前を抱きしめる両腕がある」


そうして私の首を抱きしめた彼は優しく私を撫でた。


「バカだな、本当に。お前は純粋で、子供で、世間知らずで……。俺がいないとこれだ」

「アルビオン……。私、たくさん人を幸せにしたよ」

「……あぁ」

「生きてる不幸から、みんなを幸せにしたの」

「……そうだな」

「だから私頑張ったの」

「それがバカだって言ってるんだよ。見せるなって言ったのに」

「……?」

「大丈夫だ、もう大丈夫。俺がなんとかするから」

「そっか」

「だから、ごめんな」



貫かれた胸の痛み。燃えるようなその痛みに、過去の記憶が甦るけど、あの時と違うのは何故、どうして、とは思わなかったことだ。

アルビオンに撫でられるのが気持ちよくて、幸せだった。

一人じゃないって素敵な事ね。役割を終えられるってとても安心できることね。


「もういいの?」

「あぁ、十分だ。お前は十分頑張ったよ」

「そっか。みんな幸せになれたかな」

「……ああ、きっとな」

「会いに来てくれてありがとう、アルビオン」


アルビオンだけが私の幸せなんだって思い出した。

彼の腕の中にいるだけで満たされ、心が穏やかになっていく。

だんだんと意識が溶けていくけれど、何も怖くない。

あぁ、私も人々にこんな穏やかな気持ちを与えられたのだろうか……。


ありがとう、アルビオン


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