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第四話 アルビオンの願い

呪いに侵された体を横たえ、じっとその時を待つ。


ドラゴンの中でも群れを作り過ごす種族に生まれ、「あの時」まではうまくやってきていた。

実力主義の群れの中で、一番力があったのも自分だし、今後、群れを率いるのは自分だと思っていた。

その驕っていた自分がいけないのだろう、呪いが付与された献上品を口にし、呪いに侵され、群れを追われた。

そうか、俺は裏切られたのだと悟ったのは、逃げてきたこの森で死期を悟った時だった。




「ねえ、ねぇ、アルビオン」



生きることの苦痛から逃れたくて、死を願い籠っていたのに、今日も今日とてやかましい声が俺の耳に響き渡る。



「……」

「ねぇってば!!」

「なんだ」

「ほら、上を見て!大きな鳥が飛んでるの!」

「……珍しくもないだろう」

「いいえ、あれは見たことない鳥よ。名前はなんていうのかしら、お友達になってくれると思う?」


世界の全てに興味を持ち、日々を謳歌している、傍らの聖獣。

子供のように全てを知りたがり、自分が特別であることを誇り、かと思えば名前を記号だと言う達観した考えを持つ、アニマ。

どんな生活をしてきたのかは知らないし、興味もない。

ただ、魂に刻まれた名を自分自身で分からないというのは聖獣として発生していても、”おかしい”部類だ。



俺の背中にひょいと飛び乗り、上空を飛んでいる鳥に声をかけるその姿は世間知らずで、子供そのものだ。

けれどその騒がしさを悪くないと思っている自分がいる。



「……ダメだったわ。やっぱりこの体がいけないのかしら」

「捕食者だろう、どうみても」

「私の主食は果物や木の実よ」


残念、と俺に体をこすりつけ慰めろと無意識に要求してくるその体を翼で包み込む。

かつて誇りだった翼は、今やこの小さな命を守るためだけに存在しているような気がした。


二度と裏切られないように死を選ぼうと思ったのに、死なせてくれなかったアニマ。

俺の孤独を知ってか知らずか、常に傍らにいる個体。

死を願っていたはずなのに、死にたいと思わなくなってしまったのは、確実にこの個体のせいだろう。


なにより、”特別”な力を誰にも見せたくないと思ってしまったのだ。

力の大きすぎるものは淘汰される。俺が群れを追われたように、うまく生き抜かなければその力は己を傷つける。

その力の扱いをアニマは分かっていないし、無邪気に誇らしくその力を使うだろう。

それが怖かった。それはこの平穏な日々を壊すものだからだ。



「アニマ」

「ふふ、なぁに」


自分の名を呼ばれると嬉しそうに、顔を俺の顔にこすりつけ甘えてくる。それを鬱陶しいとは思うが、無理にやめさせようとは思わない。


「また、飛んできたぞ。群れだな」

「え、本当!?」

「乗れ」

「いいの!?」


アニマを乗せ、翼を広げる。

どうしてそう思ったかは分からない。ただ、アニマに美しい世界を見せたいと思った。


この森に来てからじっとしていたため、些か動作が緩慢だが飛び立つ事はでき、空を切る感覚になつかしさを覚える。


「アルビオン!鳥が全力で逃げてるわよ!?」

「当然だろう。ドラゴンは捕食者の頂点だぞ」

「もう!意地悪ね!!」

「騙されたお前が悪い。だが、いいものだろう、空は」

「えぇ、とっても気持ちがいいわ!」


怖い者知らずなのか、無知なのか、俺の背中の上で飛び跳ねているアニマを落とさないようにしばらく空を飛ぶ。

世界で俺たちだけ切り取られたような美しい光景に、興奮でうろうろしていたアニマが立ち止まり、ふふっと笑う。


「ねぇ、アルビオン」

「なんだ」

「こういうのを幸せっていうのね」

「さぁな、俺には分からん」

「気ままに自由に好きなことをして、知らない事を知って、私を特別だとは言わないあなたの隣で笑えること。美しい世界を美しいと感じる事。とても素敵で素晴らしいことだと思うの」

「……」

「ずっとずっと一緒にいてね、アルビオン。約束よ、先に死んではダメだからね、死ぬってとっても痛いんだから」

「考えておく」


自分でも驚くほどスムーズにその言葉が出てきた。


俺をお前が求めるなら、少しぐらい長く生きてもいいと思えたのだ。

ただ二人、こうしてのんびり生きていければ、それでいいと。



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