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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

【BL】彼と僕の嘘

作者: ありま氷炎
掲載日:2025/10/28

 週に一度、僕は女装する。

 義兄のために。

 僕の双子の姉は義兄を捨ててどこかにいってしまった。

 壊れてしまった義兄は、僕を姉だと思い込んでいるようだ。

 彼と会うのは病室。

 姉が置いて行ったワンピースを身に着け、母に化粧を施してもらって、義兄に会う。


「佳乃。来てくれたんだ。ありがとう」


 義兄は体が弱かった。

 余命を宣告された義兄を捨てて、別の男について行った最悪な姉。

 男なのに、華奢な僕は化粧をすれば姉そっくりになる。

 背が僕のほうが高いのだけど、義兄は気が付かない。

 こけた頬を綻ばせ、微笑む。

 彼の笑みを見る度に僕の胸は締め付けられる。

 姉への恨み、彼への罪悪感。

 おかしくなりそうになる。

 だけど、彼の前では僕は笑顔を心がける。

 この冬を越せるかわからない義兄。

 彼を少しでも幸せに気分にできたら、そう願って、僕は週一女装して、病室へ向かう。

 ある日、いつものように受付で登録を済ませようとしたら、変な顔をされた。


「あの、えっと、山田佳乃さんはすでにいらっしゃってますよ?」


 看護婦も状況はわからないらしく困惑した表情だった。


「それは姉です」


 細かい説明をしたら余計混乱させるだけだと、私はそう言って登録を済ませる。


「和也。ごめんね。ずっと来れなくて」

 

 猫撫で声で、姉は兄に許しを請う。

 本物の妻を見て、やっと彼は僕が偽物だったことに気が付いたのだろうか。

 扉の陰からしか僕は覗けなかった。

 彼に僕の姿を見られたくなかった。


「これからは毎日来るわ」


 姉はそう言った。

 

 僕が来たことを気づかれないように、その場から去る。

 目から涙が溢れて、化粧がぐちゃぐちゃになる。

 僕はハンカチで顔を覆い、家に帰った。

 そして直ぐに着替えて、化粧を落とす。

 しばらくして、姉が戻ってきた。


「佳男。あんた、私の代わりに通っていたって?妻は私よ。彼のものは全部私のものになるんだから」


 二人はまだ夫婦のまま。

 愚かな姉は彼の財産を狙って、戻ってきたのか。

 怒りで僕は震える。


「佳乃!恥さらし!お前なんか私の娘じゃないよ!あちらには既に説明してるんだ!お前はもう和也さんの妻ではないんだよ!赤の他人だ!」

「なにそれ!そんなことできるわけないじゃないの!」

「あんた離婚届け、置いて言っただろ?それに和也さんは既に署名して印鑑も押しているんだ。お前の出る幕はない。さっさと出ていけ!」


 母はすごい剣幕で叫び、姉も叫び散らした。

 けれども母の剣幕におされて、結局出て行った。


「か、母さん。どういうことなんだ?」


 二人が離婚したなんて聞いてないし。

 和也さんはなんで、僕を佳乃って呼んでいたんだ。

 意味がわからない。


「二か月前に、和也さんに聞かれたんだ。私は耐えられずにすべてを話してしまった。だけど、お前には会いたいって言うから」

「何それ、僕は知らないよ。そんなの」


 一体、この二か月、僕は何をしてたんだ。


「和也さんの家族からも頼まれているんだ。これからも見舞ってくれないか。これは罪滅ぼしでもあるんだ。佳乃の。双子のお前に頼むのはお門違いだけど」


 どういうこと。 

 理解できない。

 僕は意味がわからなくて、次の週、行かなかった。


「佳男!」


 朝早く、母が僕を叩き起こしに来た。


「和也さんが!」


 僕はベッドから起き上がって、着替えもろくにせず、病院に向った。

 

「和也さんの弟です」


 受付でそう言うと、すぐに通してもらった。

 病室にはたくさんの人がいて、僕が場違いな気がした。

 だけど、僕に気が付いた人が和也さんに耳打ちして、彼が僕を見た。

 一週間見ないうちにすっかりやつれていた。


「来てくれた。ありがとう。佳男くん」


 彼の一声で、僕の瞳から涙が溢れだす。

 するとご家族の方が病室からいなくなり、僕と彼は二人っきりになった。


「騙していてごめんな」

「そ、それは僕の言葉です」


 泣き声でみっともない声だった。

 和也さんは儚く微笑む。


「佳乃の振りをさせてごめん。最初、本当に佳乃が戻ってきてくれたと思って嬉しかったんだ。だけど、君は佳乃と違って優しくて、気が付いてしまった。でも君といるのがとても心地よく、ずっと来てもらった。女装までさせて」

「すみません」


 気持ちがぐちゃぐちゃで、僕はただ泣くことしかできなかった。


「佳男くん、これからも病室にきてくれないか。そんな頻繁じゃなくてもいい。来てくれたら嬉しい。女装なんかしなくていいから」

「はい」


 僕は頷き、和也さんのお見舞いを続けた。

 一時は危なかった和也の容態も安定して、僕はこうして彼と穏やかな時間をもっと過ごせると思っていた。

 知らせは突然きた。

 病室に到着した時は、すでに和也さんは亡くなっていた。

 昨日は一緒に話して、笑いあったのに。

 和也さんのお母さんから、手紙を受け取った。

 これは彼が亡くなったら、僕に渡すように言われていた手紙らしく、中身はお母さんでも知らないようだった。


『佳男くん

 こんな形で私の気持ちを君に伝えることを許してほしい。

 本当は、言うべきでないし、だから、何度も書き直した。

 直接言うには勇気がなくて、手紙を書く私を許してほしい。

 君のことを好きになってしまった。

 最初は女装した君に恋した。

 佳乃に似ているからだと思っていた。

 だけど、君が女装をやめて、わかったんだ。

 私は君を愛している。

 去りゆく私が君に告白することは醜い独占欲とでもいうのだろうか。

 けれども書かずにはいられなかった。

 こんな私を許してくれ。

 最後の最後で手紙を託す私はとても醜いだろう。

 君の記憶に私を留めてほしいんだ。

 愛してる。

 和也』


 醜くなんてないよ。

 和也さん。

 もっと早く気持ちを知りたかった。

 そしたら、あなたに触れることもできたのに。

 僕はあなたを忘れない。

 ずっと想い続けるだろう。


(END)

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