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#シマエナガの ストラップを 欲しがる島江さん

「コウイチ、そのストラップ、なかなかいい趣味してるナ」


食べていたウドンを吹き出しそうになった。


いつのまにか見知らぬショートヘアの女子が、学食で食事中の僕のヒザの上に乗って、ケータイストラップをいじっているからだ。


「ちょ、ちょっと降りてくれよ! さすがにヤバいだろこれ」

「ああ、いきなりゴメンゴメン、あいにく学食はこの通り満席でナ。ことわりを入れるべきでアッタ」

「いや、そういう問題じゃなくてだな」


テーブルの向かいの女子生徒が気を利かせてくれたのか気味悪かったのか、席をあけてくれた。

僕のヒザの上を占領していた子は、開いた席に瞬間移動した。

テーブルの下をくぐったのか、ぐるっと回ったのか、定かではない。


「そのストラップを選ぶとは、オヌシ、なかなかお目が高いゾ、モグモグ」

もぐもぐ? この女子、なんか小皿を抱えているぞ?


「あーコラッ! 何で僕の『天ぷらウドン&いなりずしセット』のおいなりさんを食ってるんだ⁉」

「いやー、コウイチの食が進んでないようでナ、それならウチが手伝ってあげようと思ってナ、モグモグ」

なんで僕の名前を知ってるんだ?


「……いなりずし、それ僕の好物。最後に食べようと、とっておいたのだが?」

「そうであったカ? それは悪いことをした。 モグモグ……そういえば、好物を最後にとっておくタイプは、計画性があるものの、計画倒れに終わりやすいと、今朝見たネットの診断サイトに出てたナ。さてはコウイチ、理系クラスダロ?」

そう言いながら、その子はカラになった小皿をテーブルの上を滑らして僕に返した。

理系男子に変な偏見を持っているような。


「……確かに僕は、国立理系クラスだけど……キミはいったい、どこのクラスの誰? 名前は?」

「そうか、コウイチはウチのことを知らないんだな……申し遅れたが、ウチは私文クラスの『島江 凪』と申ス」

「シマエナギ?」

「そうダ、以後お見知りおきヲ」


僕らの学年は全部で三百名ほどいるとはいえ、初めて聞く名前、初めて見る顔だった。

「名は体をあらわす」とはよく言ったもので、丸顔でツヤツヤの白いほっぺに、小さい黒丸の瞳と、ひし形に開いたばしは、シマエナガを彷彿とさせる。


「ごめん、島江さんのこと、今日の今日まで知らなかったわ」

「気にしないでくれたまエ。この通り、ウチは背が低いし、地味だからナ」


「ところで、何で僕の名前、知ってるの?」

「カンタンなことダ。君はみんなに『コウイチ』と呼ばれておるだロ?」

「まあ、そうだけど。島江さんはそれを聞いて僕のことを知ったってわけ?」

「ああ、クラスのみんなが探しておったダロ、『コーイチ、どこだー』って。山の中で」

「山の中? どこの?」

「まあ、どこでもいいじゃナイカ」


その子はいつの間にか、再び僕の膝の上に瞬間移動し、ケータイストラップをいじっている。

周囲で食事をしている生徒がザワザワし始めた。


「だから、僕の膝から降りてくれ。だいたいさ、ウドンが伸びる」

「おう、これは悪かっタ」

そう言うと島江さんは、膝から降り、僕の隣りに直立して僕がウドンをすすっているのをじーっと凝視している。

気が散りながらも、僕はウドンを食べ終える。

そのタイミングを待っていたのか、島江さんから声がかかる。


「コウイチ、たっての頼みがあるンダ」

「何でしょう?」


「そのケータイストラップ、ウチにプレゼントしてはくれまいカ?」

「な、何で?」


「トモダチの証しとして」

「僕たち、友達⁉」


「コウイチは初めてのトモダチだ、キミにとってもそうだろ?」

「え⁉ いや僕フツーにダチは何人かいるけれど?」


「そうであったカ、でも、ウチにとってはキミが初めてのトモダチだ」

「……クラスに友達とかいないの?」

「勘違いするでナイ、カレシなら……いないこともナイ」

と言いながらそっぽを向いたから、彼氏がいるのかどうかは、なんか怪しい。


「そうか……で、何で僕なんかを友達にしてくれるのかな?」

「それは、墓場までもっていく、ヒ・ミ・ツなのダ」

「……」


彼氏だけいて、友達がいない女の子って、わりとポピュラーなのだろうか。


「でも、このストラップ、あげるわけにはいかないな。北海道の修学旅行みやげだし」

「なぜ、シマエナガのストラップを選んだのかナ?」

「修学旅行に行ってる間にちょっと困ったことがあって。コイツに助けてもらったんだ」


「そうか、そんなに大事なモノだったのカ……それはザンネン……食事の邪魔をして悪かったナ」

「いえ、どういたしまして」


「それでは、さらばジャ、アディダス」

「アディダス?」

「じゃなかった、アディオス」

「なんでアディオス?」


「親の転勤でな。明日、北海道へ。支度をセネバ」

「そう……だったのか」


僕は慌ててストラップをケータイからはずし、彼女の手のひらに握らせた。


「コウイチ、いいのか⁉」

「ああ、だって初めての友達だろ。餞別代わりだ」

「餞別?」

「じゃあ、元気でな」

「……あ、ああ、ありがトウ……」


 〇


僕はその夜、夢を見た。

北海道の修学旅行の思い出。


僕のグループは、三日目の旅行メニューとして山林のトレッキングコースを選び、滝野すずらん丘陵公園付近で山歩きを楽しんでいた。

しかし、何をどう間違ったのか、一人だけはぐれてしまった。


大自然の中、どうやったらコースに戻れるか、皆目見当がつかず途方にくれていたら、一羽のシマエナガが現れ、僕の前を先導して飛んで、無事、仲間と合流することができた。


だから、僕は帰りの新千歳空港で、お守り代わりに、シマエナガのストラップを買ったんだった。


夢から目覚める。


まさか、あの子……


翌朝。

なんとなく喪失感を背負いながら登校する。


ちょっと変わった子だったけど、もう会うことはできないのか……


「コウイチ、おはよウ」


下駄箱で靴を履き替えていると、背後から声がかかった。

振り向いて驚く。


「し、島江さん⁉……引っ越したんじゃ?」

「早とちりするナ。北海道に引っ越したのはパパ、単身赴任ナノダ」


なんかまんまと引っかけられたような気がしないでもないが……


彼女は学生カバンを両手で持ち上げた。

シマエナガのストラップがブラブラしている。


「トモダチの証しダ」


そう言って微笑んだ……ような気がするが、小さくて黒い瞳が笑っているのかどうか、よくわからなかった。


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