File3:VRMMO飲み会
まずは、前回分までの不手際をお詫びします。
エピソードタイトルの話数の部分が企画段階のままで直されていないところがあったので、決定稿の『File:』に変更しておきました。
「まっだかなまっだかな〜、シルバーブレット〜!」
「……すみません、マサゴさん。このバカがまた飲みたいって五月蝿かったもんで……」
「気にしないで、私もみんなと飲み会がしたかったから」
「でも、こうしてオンライン飲み会するのももう何度目だろうね?
しかも、BoomとかSwipeとかじゃなくてMetaChatで」
「確かに綺麗よね、この景色……」
「今回は夏ってことで、満月の夜空とホタルにしました☆」
「蛍の時期はもう過ぎているけれどね……」
「ま、細かいことは言いっこなしってことで☆」
「あのパンデミックで必要に迫られて始めたことだけど、慣れてしまえば近未来的で面白いな」
「私もそう思うわ。
こんなVRMMOが現実に飛び出したような世界で……。
小説でもVRMMOものを書いたことはあるけど、その世界が現実化したみたい」
「それは同感です」
「ナナシさん、超有名なVRMMO作品がきっかけでゲーム業界目指したもんねー」
「ま、今じゃ会社を辞めて、しがない同人サークルだけどな」
「あっ、どうもー☆
そこ置いといてください!」
「あら、もう届いたの?」
「はい! さっき着きましたー☆」
「マサゴさんも準備できましたか?」
「ええ。それじゃちょっと早いけど始めましょうか」
「それじゃ、乾杯」
「乾杯〜!」
……………………
「かァ〜〜〜。キンッキンに冷やされてるぜ〜〜〜〜〜〜」
「ステラ、それはビールじゃなくてシルバーブレットじゃないのか?」
「まあまあ、細かいことは気にしない」
「……あら? シルバーブレットって冷やして出すようなものだったかしら?」
「いやその……別に本当に冷やされてるんじゃなくって、ノリっていうか……」
「ああ、それとこっちは本当にビールだから冷やされてるぞ」
「ちなみにこっちは冷酒よ。冷蔵庫で冷えてるわけじゃないけど」
「あっ知ってます。もともと熱燗じゃないお酒を指すんでしたっけ?」
「ええ。この場合ちょっとだけ冷やしてるから涼冷えっていうんだけれど。
更に冷やすと花冷え、雪冷えと呼び方が変わっていくのよ」
「へぇ〜温度帯によって違うんだ〜」
「……そういえばステラ、今いるのはもしかしてカラオケか?」
「えっ、なんでわかったん!?」
「そうだな……。
まずお前の声の響きからして、防音が施されている部屋だということがわかる。
それにステラの側から、微かに壁越し……おそらくドア越しの音が聞こえてくる。
もう一つ気になったのは、さっきカクテルを店員が持ってきたとき、ドアが開いたっぽいことだ。
この特徴にあてはまるのはカラオケか……とな」
「聞こえてる? マジ? どうしよう!?」
「心配しなくていい。
別にノイズがひどい訳でもないしな」
「つーかいちいち推理しないでよ。
前も盗撮か盗聴かってドキッとさせられたし……」
「更に言えば、カクテルが来たとき別の食器の音がしたが、
何かつまみになるものを一緒に注文したとか……」
「マジで? ドライフルーツも!?」
「自分で言ってどうする」
「……ナナシさん、そういう推理どこで勉強したの?」
「まあ俺、あの会社を辞めてから色々始めたことがありまして……。
その中に、いわゆるOSINTみたいなものもあったんですよ」
「え〜? ちょっと大袈裟じゃね?
オシントってアレじゃん。
ウクライナ侵攻でロシアのやった悪事証明したやつ」
「いや、定義としては間違っていない。
OSINTは Open Sourse INTelligence、
すなわち公開されている情報から分析することを指す言葉だからな」
「でも、シルバーブレットが出るカラオケなんてあったかしら?」
「ありますよー。地元の—」
「ステラ、それ以上は特定されるからやめとけ」
「あっ、ごめんごめん」
「でも、OSINTかぁ……。
私にもそういうのできたらなぁ……」
「……あれ? なんかありました?」
「もしかして、何か困りごとでも?」
「そうかなぁ〜?
マサゴさんって順風満帆でしょ?
先月も『イシトリゲエム』の最新刊出てたし……」
「いや……さっきマサゴさん、かなり思い詰めたような顔をしてたぞ」
「えっ!? か、顔に出てた?」
「アバターなのにそんなことわかんの?」
「まあ……。さっきのもですけど、
仕事柄こういうの観察する癖がついてるんです。
あ、どうやって推理したかは企業秘密ってことで」
「……ナナシくんの仕事って何?」
「さっきも言った通り、企業秘密です。
ただ……仕事柄、動きや音声からどんな心理状態かはわかるつもりですよ」
「やっぱナナシさんすげぇわ……」
「そんなことより、相談したいことがあるんですよね?
よかったら相談に乗りますよ」
「ウチも相談にのります!」
「……いいの? 二人とも」
「だってマサゴさんはダチですし!」
「俺もマサゴさんには、この前の『名もなき魔王の野望』で脚本を書いていただけたので……。
愚痴に付き合うぐらいならいいですよ」
「…………。
そうね、聞いてもらえるかしら?」
「うん!」
「私が、OneTubeで小説講座などの動画を発表しているのは知ってるわよね?」
「はい。OneTubeのチャンネルですよね?
全部は目を通せてはいませんが……」
「ウチもいつも見てます!」
「ありがとう。
それで、その動画の感想欄で、ちょっと困った人がコメントを書き込むようになって、そのせいでコメント欄が荒れるようになってしまったの。
他にも、私のイクスへのポストにもリポストを送ってくるのよね
それに、実写映画化した『イシトリゲエム』みたいな、Yapoo!ニュースで私の小説に関する記事のコメントにも……」
「あ〜〜〜……。
つまり『荒らし』ってことですか?」
「うん……まあ……なんていうか、そんな感じ。
というより、その……何て説明したらいいか……」
「荒らしなんて、無視するかブロックしちゃった方がいいと思いますけど」
「そうしたいのはそうなんだけれど……」
「いや、ちょっと待て、ステラ。
不用意にブロックするのはまずい」
「え? なんで?」
「もし相手が重度のストーカーだった場合、ブロックされたことに腹を立てて、リアルでマサゴさんに危害を加えに来る可能性もある。
ただでさえも、マサゴさんはそれなりの地位を築いている作家先生だし。
もしブロックするのなら、出版社と最寄りの警察署に事情を話しておいた方が……」
「……いや、その……そこまでする必要は……。
そもそもそんなことをするような人には見えないし……」
「…………やっぱりマサゴさん、訳ありって感じ?」
「……せっかくですから、その感想欄を直接見せていただけますか?」
「え? えっと……でも、
それって相手のことを晒すことにならないかしら?」
「心配ないですよ。
何もネット全体に『こんな奴がいるぞ!』って発信するわけじゃないですし、
何よりプライベートで情報を共有しておいた方が、俺もちゃんと相談に乗れますし」
「…………わかった。
OmeTubeの、私の画面を共有してもらおうかしら?
準備をするから待ってもらえる?」
「了解しました」
「はーい!」
…………………………………………
「お待たせ。共有画面に表示するわ」
ひと段落ついたところで一旦休みます。
続きの投稿は、来週以降落ち着いてからになると思います。