【9話】仲直りとモテモテ
エレナはフレイと手を繋ぎ、一緒になって書斎へ戻った。
「お姉ちゃん!」
入ってきた二人を見るなり、声を上げたアクアがこちらへ駆けてきた。
目指す先はフレイだ。
エレナは繋いでいた手を離す。
アクアがフレイに抱き着いた。
フレイもまた、しっかりと抱きしめ返す。
「ごめんなさい!」
「ううん。謝るのは私の方よ」
フレイの声色はしおらしい。
後悔と反省でいっぱいになっていた。
「冷たい態度ばかり取ってごめんなさい。でも私、もう一度あなたと仲良くなりたいわ。ワガママで勝手なお姉ちゃんだけど、許してくれる?」
「うん! 私、お姉ちゃんのこと大好きだもん!」
アクアはすぐに答える。
瞳からは涙が流れていた。
「ありがとう。私も大好きよ」
フレイが優しく呟いた。
アクアと同じように、涙を流す。
抱き合う双子の姉妹は、二人とも涙を流している。
その口元には、そっくりな笑みが浮かんでいた。
(よかったわね二人とも)
双子は無事に仲直りできた。
めでたしめでたしだ。
「ありがとうね」
アクアから体を離したフレイが、エレナの方へ体を向けた。
真剣な表情でまっすぐに見上げる。
「大人を信じることは難しいわ。でも、あなたの――エレナのことだったら信じてもいい。だから、これからよろしくね」
フレイが片腕を伸ばしてきた。
「こちらこそ」
微笑んだエレナは、フレイの手をがっちりと握る。
熱い握手を交わした。
この日から、フレイも令嬢教育に参加するようになった。
******
それから一週間後。
エレナは今、ドゥランシア邸の食堂で夕食を食べていた。
「エレナ様、どうぞ!」
右隣に座るアクアが、エレナの口元へフォークを差し出した。
先端には、一口サイズに切られたステーキが刺さっている。
アクアはエレナに、あーん、をしてきていた。
「ちょっと!」
それを許すまいと、左隣からピシャリと声が上がった。
フレイの声だ。
令嬢教育に参加するようになって以降、フレイも一緒に食事をするようになっていた。
座る席は、エレナの左隣だ。
右にはアクアがいるので、食事のときエレナは双子に挟まれる形となっている。
「あんたさっきもしたじゃない! 次は私の番よ!」
フレイも負けじと、あーん、をしてきた。
食堂では今、どちらがエレナにあーんをするかという双子の争いが繰り広げられていた。
ちなみにこの争いは、食事のたびに毎回繰り広げられている。
姉妹は毎回、エレナにあーんをしてくる。
つまり、エレナはモテモテだった。
(あぁ……なんて幸せなのかしら)
そんな状況を、エレナは心から楽しんでいた。
超絶美少女たちに取り合いされているのが、楽しくて仕方がない。
人生のピークを味わっていた。
「こらこら二人とも。ケンカしちゃダメでしょ」
一応注意はしてみる。
でもその声色には、まったく威厳がない。
ふわふわと甘くとろけていた。
「どういうことだこれは……」
入り口の方から突然、驚愕に満ちた低音が響く。
その声はエレナのものでなければ、双子のものでもない。
約一週間ぶりに姿を見る、ジオルトのものだった。